まず考えられるのは、わしといっしょに箸をもった悪友が、あらかじめ作為をもって箸を押したり引いたりしたのではないかと思うが、しかしこの男もわしが「小説家」になるとは全然、考えておらんかったのだしな。たとえば「教師」とか「事務屋」とか出れば、まだ話はわかるのだが、思いもかけぬこの結果に彼が手をかしていたとは思えん。コックリさんは、立ち会い人の無意識の願望がおのずと出るという説をなす学者があるが、悪友にとってもわしにとっても「小説家」は、無意識の願望ではなかったしなあ。
今もってその謎、解せんのだな。どなたか読者のなかで、この「コックリさん」の秘密を知っとられるお方があれば、なにとぞ教えてつかわさい。
しかしそれはともかく、あんたら今晩でも家族同士でこのコックリさん、やってみんかいな。なに道具は簡単。さっきも書いたように部屋を少し暗くして、卓子の上にイロハ以下の文字をカードに書いてこれを並べる。箸三本をむすびあわせ、その二本を二人がもつ、あとは窓を開いて、頭をさげコックリさんにお願いするわけだな。
注意せねばならんのは、あんまりコックリさんに沢山の質問をすると、コックリさんが怒ってその家に「居着く」そうだな。そう、その女性が二十年前にいうとった。気をつけにゃ、いかんよ。
まア、これ以後、わしも占いに興味をもってな。東京の色々な占師をたずねまわったものだ。
しかして、その結論は……いわゆる人間による占いは(東京都内のすべての占師に限り)全く当らんということだ。手相、カード占い、ゼイチク占い、透視術、占星術師など色々あるが、みんな思いつきをいうだけだ。これはわしの長年の経験で確信をもっていえるな。
この一文を読んで、そんな馬鹿なことはないと自信ある占師がいたら、何卒、通知してほしいもんだな。むかし某誌に「占者に挑戦す」という文章を書いたが、かんじんのわしに反駁《はんばく》してきた占師、自信ある占師は一人もおらんかったのだ。それだけでも彼等に信念がない証拠だ。
「コックリさん」はまあ、ともかく、わけがわからんのに霊媒というのがある。
断っておくが、これはいわゆる農村などで狐つきの婆さまが、自己催眠でギャアギャアわめく、あの霊媒じゃないよ。わしのいうのは「降霊術」という奴でな。