この実験を一度見たことがある。
三原橋のすぐ近くのある家でな。わしが紹介者につれられてその家にいった時は、すでに十五、六人ほどの男女が集まっておった。
まず司会者から、絶対に写真を撮らぬことという注意があり(これがトリックを使う証拠だとわしは思うたな)、次に、椅子に坐った霊媒師の手足を誰か縛れという。
わしは警視庁の友人から「縛り方」を学んだことがあったから、ある絶対的な方法で、この中年の霊媒師の手足をくくってやった。
電気が消えた。そして、レコードでクンパルシータがなりはじめた。途端にわしのすぐ近くにあった机が動きはじめたな。机の上の夜光塗料を塗った人形がチャラチャラ、鈴の音を鳴らしながら空中を飛ひまわりだしたな。
それからロームとかいう二世紀前に死んだチベットの霊の声がしてきたが、これはあきらかに腹話術の声であった。霊媒が腹話術を使っておるということは、わしにもすぐわかったなあ。
しかしだ。解せんことは、机や人形がなぜ空中に浮ぶかということだ。わしは初め、ハハア、こいつは天井からピアノ線であやつっておるなとそう考えた。そこで目の前に飛んできた人形の上を右手でさぐってみたのだが、何もない。何もない以上、糸であやつっているとは思えん。
そのうち天井からゼリー菓子が落ちてきたり、筆がひとりでに(?)動きだして、色紙に字を書いたりしてな。こりゃあ、結構、おもしろいショーであった。
しかし今もって解せんのは、糸でぶらさげてない人形や机が、なぜ空中に浮動するかという点でな。今もってこのトリックがわからん。
もちろん、わしはそれほど神秘主義者でないから、右の現象がすべて何かの「トリック」を使っているものと思う。
で、長田幹彦氏や宮城音弥氏の著書をよむと、これらは暗幕のなかから霊媒があやつっているのだと書いてあるがな。しかしその説明ならば、人形をぶらさげる糸と竹竿がなければならん。その糸をわしは手で触覚しなかった以上、どうも疑問が氷解せんのである。
そこで、読者のなかに「コックリさん」と「降霊術」のトリックに詳しい方がおありなら、一寸、教えて下さらんかの。お礼としてわしは東京でおもしろい占いをやる仁をご紹介してもいいがの。