そういうわけで、拙者は暇があれば易者、占星術師、透視家などによくいったわけだが、そのコボレ話を二、三してみると——。
名前はいえんが、ある占星術師と三年ほど前ヒョンなことから親しくなった。この御仁は、外見はいかにも哲学者らしき風采をして、しきりにムツかしいことをいうが、二、三度、会っているうち、いうことがその時々の思いつきに過ぎぬこともだんだんわかってきた。
しかし銀座のホステスなどを彼に紹介してやると、彼は拙者のためいろいろ、気を使ってくれて、
「ウーム。この星をみるとおもしろいことがわかった」
などとしたり顔でいう。ホステスが膝をのりだし、
「まア、何でしょうか」
とたずねると、彼は星座の地球儀をまわしながら、
「あんたは前世でこの狐狸庵氏の妻だったらしいぞ。いや冗談や嘘じゃない。奇妙なことだが、星の計算でそう出ているのだ。いやフシギだ。こういうことがあろうか」
まことマズメーな顔をしてそう呟いてくれる。
ホステスははじめは半信半疑であったが、相手がニコリともせず大真面目なので、
「ほんとかしら、信じられないわ」
「私も信じられんが、星の計算表がそう証明している。自分でもなぜこんな結果がでたかわからぬ。しかし、あんたが前世でこの狐狸庵氏の細君だったことはたしかだ」
ここまでいわれれば、ホステスも心のどこかで本当かしらと思うらしく、その次、拙者がそのバーにいくと、いつもと違うんだなあ。サービスが。
「前世で、あたし、あなたの奥さまだったのかしら」
「そうらしいなあ」
「どんな生活してたのかしら、あたしたち」
勘定もやかましくいわんし、その額もなんとなく安くなっている。拙者はそこで随分この占星術師に感謝したものだな。