で、ある日、その恩返しではないが、彼の家に遊びにいったとき、
「なあ。オジさん。生意気だが、ぼくがひとつ、オジさんを演出してみようか」
「ワシを演出する?」
「そう。オジさんを国籍不明の大占星術師ということにしよう。ぼくが知人の夫人たちを集めるから、占ってみたらどうだ」
拙者の知人には、占いの好きな夫人たちのグループがあり、彼女たちがこの占星術師先生の後援をしてくれれば、今後、大いに彼のためよろしからんと、そう思ったのでな。
そこで、某テレビ局の演出部の友人に相談し、都内のホテルの二室をかりて、夫人たちにきていただいた。われわれは例の占星術のオジさんに頭にターバンを巻かせ、白いインドふうの衣を着させて、一室のテーブルに威厳ありげに腰かけさせた。
友人がもう一室で夫人たちに御挨拶をしている間、拙者は占星術師にA夫人、B夫人、C夫人などについての予備知識をそれとなく教えたわけだな。
「いいか、A夫人はお子さんが一人。現在そのお子さんの進学問題に頭を悩ましておられる」
「ふむ。なるほど」
「だからオジさんは彼女には、あなたはお子さんで悩んでおられますな、と、冒頭にいえばよい」
「よし、よし」
「B夫人は癌ノイローゼだ」
「わかった、わかった」
これくらいの予備知識ならば教えても罪にならんだろうし、あとはこの占星術の御仁がそれを活用して、夫人たちの悩みに希望を与えてくれるよう頼んでおいたわけだ。