ところが半月ほどたって、朝、私は突然、電話で眠りから起された。
「おめでとうございます」受話器の向うでカメラ会社の人の爽やかな声がきこえた。
「あなたの写真『せせら笑っている安岡』がコンクールで金賞です。木村伊兵衛先生はじめ写真の専門家たちが全員一致で決められたのです」
「ほ、ほんとですか」私は煎餅布団から飛上って「ゆ、ゆめじゃないでしょうね」
「本当ですよ。賞品授与式には是非おいで下さい。あなたには当社のカメラ、その他、テレビなど差上げます」
私は胸が潰れそうな気になったが、その時、一体、安岡の写真はどうなったのかと思いだした。私が金賞なら安岡は黄金賞かもしれない。
「ほかにどんな人がどんな賞をとったんです」
「あなたの金賞以外はみんなサービスですよ。たとえば北先生などは、ナントカシテアゲマ賞をおもらいになりましたがね」
「いや、や……やす……安岡は何賞をもらったんです」
「ああ、安岡さんですか」
カメラ会社の人はちょっと、考え、声をひくめて答えた。
「あの方はどの賞にもお入りになりませんでしたよ。はじめからボツでした。お気の毒です」
私はこの時ほど笑ったことはなかった。私の写真技術を「せせら笑っている安岡」が一等となり、うつされた彼が落選したとは……
「もしもし」私は早速、彼に電話をかけた。
「ぼくの入賞作品をあんたに送りたいのだが。書斎に飾ってくれませんかね」
「ウー」
安岡はゴリラがほえるような声をだした。そしてガチャンと電話を切ってしまった。