女性誌を見ると相変わらずいろいろなダイエットの方法が載っている。高校正のときに理想体重を十五歳キロオーバーしていた私は、どうやったら痩せられるかを考えない日はなかった。
「そういう年頃なんだから、無理して痩せることなんかない。体を壊すからやめなさい」
まわりの大人たちは口を揃えていったが、とにかく頭の中には痩せることしかない私にはそんな忠告など何の役にも立たなかった。だいたい同年輩の男の子たちの九十九パーセントは痩せた女の子が好きなので、明るい男女交際をするためにの第一歩としてダイエットは必要不可欠だった。そして大学を卒業するまでダイエットということばは頭の中から離れなかったのである。
同じゼミの男の子たちは、
「僕たちはね、お金がなくてお腹いっぱい食べられないから、太れないの。いわば自然ダイエットだね。君たちも仲間に入らない?」
とダイエット、ダイエットと騒ぐ私たちをからかった。喫茶店にいっては、ケーキやアイスクリームを食べ、そのうえ運動なんか全然しないのだから、晩御飯を減らしたって太るに決まっているのに、ダイエットということばを見ただけで痩せるような錯覚に陥っていたのだった。
街で女子高校生がどうやったら痩せられるかを話しているのを小耳にはさむことがある。たしかに太目の子もいるが、あのくらいの歳の人はどんな体型でもそれなりにかわいいし、みっともなくなんかない。若さが体型の欠点をすべて吹き飛ばしてくれるのだ。それがわかったのは私自身の若さが失われつつあることに気がついだからである。しかしかつての私みたいに、彼女たちはいくらまわりからそういわれても「フン」と思うに違いない。
あるとき知り合いの中年男性がいった。
「女の子はどうして、何もしなくてもかわいらしいときにダイエットなんかして、ちょっと気にしてほしいなあという年齢になると何もしなくなっちゃうんでしょうかね」
耳が痛いおことばであった。