ある日、カンチールが、お友だちのイノシシや、クマや、シカや、トラといっしょに、さかなをとりにでかけました。
みんなはさかなをたくさんとると、川べりに小屋をたてて、その中にかめをおきました。
そしてかめの中に、とってきたさかなをしおづけにして、しまっておくことにしました。
こうしてまいにち、さかなをとってきてはかめに入れました。
ところがそのうちに、ふしぎなことに気がつきました。
かめの中のさかなは、さっぱりふえません。
それどころか、はんたいにヘっていくのです。
「だれかこっそり、ぬすむやつがいるんだ」
と、みんながさわぎたてました。
そこでみんなが、さかなをとりにいっているあいだ、だれか一人がのこって、ドロボウをつかまえることにきめました。
「よし、ぼくがひきうけた。どんなやつがきたって、このツノでひとつきにしてやる」
と、シカが、この役目をひきうけました。
そこでみんなは、シカを小屋にのこして、さかなをとりにでかけました。
シカは、ジッと、まっていました。
やがて、足音が近づいてきました。
そいつは、
「だれか、いるか?」
と、声をかけました。
「いるとも」
こういって、シカがでてみると、そこには見上げるような巨人(きょじん)が立っています。
巨人は、いいました。
「さかなのにおいがする。それをよこせ。おれは腹がへっているんだ」
「これはみんなのものです。あなたにあげてしまったら、しかられます」
シカはふるえながら、ことわりました。
「よこさないなら、おまえをくってしまうぞ!」
シカはビックリして、あわてて、さかなをたべさせました。
おまけにおみやげに、何匹も持たせてやりました。
夕方になって、みんなが帰ってきました。
シカは、きょうのできごとをはなしました。
すると、イノシシが、
「よし。あしたはおれが番をする。巨人がきたら、このキバでひとつきにしてやる」
こうして、イノシシがのこりました。
けれども、みんなが夕方もどってみると、やっばりシカのときとおなじように、巨人にさかなをとられていました。
「だらしのないやつだなあ。こんどはおれさまが見はっていて、巨人がきたら、このするどいツメでかきむしってくれる」
と、クマがいってのこりました。
「こんにちは。だれかいるかね?」
外で、巨人の声がしました。
「いるとも、なんの用だ?」
と、クマがこたえました。
「さかながほしい。腹がへっているんだ」
「やれないよ」
「それじゃ、おまえをくうぜ」
クマはビックリして、腰をぬかしてしまいました。
巨人はさかなをかかえて、でていってしまいました。
そのつぎの日は、トラが、
「ああ、見ちゃいられん。おれがかみころしてやる」
と、いってのこりました。
けれども、みんなが夕方もどってみると、やっぱりおなじように、さかなをとられていました。
これを見て、小さなカンチールは、いかにもこまったようにいいました。
「きみたちに、まかせておいたのでは、いつになってもだめだね。あしたはぼくがのころう」
あくる日、みんながでかけてしまうと、カンチールはひたいにまっ白いぬのをまいて、ねていました。
巨人がやってきて、声をかけました。
「だれか、いるかね?」
カンチールはわざと、くるしそうにハァハァいいながら、
「ああ、いるよ。だれだか、知らないけど、いいとこへ、きてくれた。おはいりよ」
と、いいました。
巨人は、カンチールがねているのを見ると、たずねました。
「どうした? ばかに、くるしそうだな」
「そ、そうなんだ。あたまが、いたくて、たまらないんだ」
「なんで、いたいんだい?」
「そこの、かめの中を、見てごらん。そのさかなの、においの、ためなんだ。それを、かいだもんだから、病気になったんだ」
巨人は、かめの中をのぞきこんで、
「うーん、なるほど、くさい」
「ね、そうだろう。気持が、わるくないかい?」
「そういわれると、なんだかへんだ」
「いまに、ひどい病気になるよ。そうなると、たすからないんだ」
「おい、よせよ。なにかくすりはないのかい?」
「くすりは、ない。だけど、ぼくみたいに、頭にきれをまいて、ジッと、横になっていれば、よくなるんだ。やってあげようか」
「たのむ」
巨人は、カンチールのいうとおり横になりました。
その頭にカンチールは、グルグルとぬのをまきつけ、その先を小屋のはしらにしばりつけました。
「どうだい、足も、すこし、いたむんじゃないかい?」
「うん。そんな気がする」
カンチールは、巨人の足にぬのをまきつけ、その中にじょうぶなつなを入れて、小屋のゆかにしばりつけました。
巨人は、身うごきができなくなったので、あわてておきあがろうとしました。
けれどもそのときは、からだがすっかり、小屋にくくりつけられてしまっていたのです。
カンチールは巨人の前にちょこんとすわって、笑っていいました。
「アハハハハハッ。あなたはトラやクマや、力のつよいものには勝てたけれど、ぼくには負けたね」
そこへ、みんなが帰ってきました。
そして、このありさまを見て大喜びです。
よってたかって、ポカリポカリと巨人をなぐりつけました。
とられたさかなの数だけ、なぐりました。
その数があまり多かったので、巨人はとうとう、目をまわしてのびてしまいました。