するとたちまち、大クジラのおなかは煙でいっぱいになりました。
やがて煙で苦しくなったのか、大クジラは大きな口を開けると、
「ハァックショーーーン!」
と、大きなクシャミをしたのです。
そのとたん、おなかの中の舟は波と一緒に、ものすごいいきおいで大クジラの口から海へと押し流されました。
「やったー!」
けれど、怒った大クジラが、追いかけてくるではありませんか。
ドッカーーン!
大クジラの体当たりに、舟はたちまちこわされてしまいました。
そして舟をこわした大クジラは、ふたたびピノッキオたちに襲いかかってきました。
「お父さん! ジミー! はやく浮いている物につかまって!」
「しかしピノッキオ、お前は」
「ぼくなら大丈夫。木で出来ているから水には沈まないよ」
ゼペットじいさんとジミーは、こわれた舟の板きれや空きビンにつかまって、なんとか岸までたどりつきました。
ところが、ピノッキオの姿がありません。
「おーい、ピノッキオ! どこにいるんだー!」
ゼペットじいさんとジミーがあたりをさがしていると、手も足もこわれて、バラバラのボロボロになったピノッキオが見つかりました。
ピノッキオはゼペットじいさんたちを助けるために、自分がおとりになったのです。
ゼペットじいさんはバラバラになったピノッキオをつれて帰ると、ベッドに寝かせてオイオイと泣きました。
「ごめんよ、ピノッキオ。大切なお前を死なせてしまって」
その横でジミーも、オイオイと泣きました。
「ごめんな、ピノッキオ。きみを人間にしてみせると、約束したのに」
その夜おそく、夜空がキラリと輝くと、星の女神が光に乗ってあらわれました。
そして、ベッドに横たわるピノッキオに言いました。
「ピノッキオ。あなたはお父さんを助けるために、勇気(ゆうき)をもってがんばりました。とても良い子でしたよ。約束どおり、あなたを人間の子どもにしてあげましょう」
星の女神が魔法の杖をクルリとふると、バラバラでボロボロだったピノッキオの体が見る見るうちになおっていきました。
木でできた体は、だんだんと人間の子どもの肌にかわっていきました。
やがて、目も耳も口も髪の毛も、全て人間の子どもになったピノッキオは、元気よくベッドを飛びおりました。
そして、泣きながら眠っているゼペットじいさんのところへかけて行くと、ゼペットじいさんに抱きついて言いました。
「お父さん、泣かないで! だってぼく、今日から本物の人間の子どもになったんだよ!」
「おお、ピノッキオー!」
ゼペットじいさんは、今度はうれしくて、またオイオイと泣きだしました。
さて、本物の人間になったピノッキオは、それからずっと、ゼペットじいさんやジミーと一緒に、いつまでも幸せにくらしたのです。