山ヒツジは、山に住んでいるヒツジです。
けわしい岩の上をとんでいく、とっても元気のいい動物です。
山ヒツジの家には、三匹の子ヒツジがいました。
ある日のことです。
こわいオオカミにおそわれて、子ヒツジの一匹が食い殺されてしまいました。
「まあ、かわいそうに」
お母さんヒツジは、たいそう悲しみました。
けれども、死んだものを生きかえらせることはできません。
「こんなオオカミの出るようなところは、あぶなくてしようがない。もっと安全な土地へひっこしましょう」
と、お母さんヒツジはいいました。
お父さんヒツジは、『岩山の大将(たいしょう)』といわれる、とても強い山ヒツジです。
長くて、するどいツノを持っていました。
けれども、みんなの安全のために、お父さんヒツジはひっこしをすることにしました。
お母さんヒツジと、生きのこった子ヒツジと、仲間の山ヒツジたちは、みんなで十二匹います。
岩山の大将をせんとうに、みんなはそのあとに続きました。
山をくだり、谷を渡り、どこまでもかけていきました。
「ウォーッ!」
ふいに、オオカミのうなり声がしました。
毛むくじゃらな、気のあらいオオカミたちが、山ヒツジたちを見つけたのです。
「ウーッ、ウオーン!」
うなりながら、オオカミが八匹も追いかけてきました。
「たいへんだ、いそげ!」
「あーん、こわいよう」
子ヒツジや力の弱いヒツジは、もう泣き声です。
「力のかぎり、かけろ!」
岩山の大将はさけびました。
十二匹の山ヒツジの仲間は、一列になって大将のあとからかけていきます。
だけど、オオカミとの間は、グングンとちぢまっていきます。
「メ、メーッ」
足の弱った一匹の年寄りヒツジが、木の根につまずいてころびました。
「あぶない!」
岩山の大将は、クルリと向きをかえました。
そこは、せまいがけ道です。
一匹ずつしか通れません。
大将は仲間のヒツジたちをかけぬけさせ、じぶんだけがのこりました。
「ウォーッ!」
追いついたオオカミが、キバをむいて飛びかかりました。
「なにくそっ!」
岩山の大将は頭をさげ、大きなツノでオオカミを突きとばしました。
その勢いに、オオカミはがけ下へころがっていきます。
つぎつぎとかかってくるオオカミを、大将はかたっぱしから投げとばしました。
かしこい大将は、一匹ずつしかかかってこれない場所でたたかったのです。
そうして、オオカミをみんなやっつけてしまったのでした。
「メェーー!」
ひと声高く、かちどきをあげると、岩山の大将は足どりも軽く、仲間のあとを追っていきました。