箱の中には黒い粉が入っていて、その粉をかいで「ムタボール」というと、どんな動物にも変わることができるし、その動物のことばもわかるというのです。
人間にもどりたいときは、東へ向かって三ベんおじぎをして「ムタボール」と、いえばいいのです。
だけど、一つ注意しなくてはいけません。
それは、動物になっているときは、ぜったいに笑ってはいけないのです。
もし笑ったりすると、おまじないのことばを忘れてしまって、ずっと動物のままでいなければならないのです。
王さまは、さっそくためしたくなりました。
そこで、大臣(だいじん)を誘って出かけました。
二人が池のほとりにやってくると、二羽のコウノトリが、なにやら話をしています。
それを見た王さまは、さっそく大臣といっしょに小箱の粉のにおいをかいで「ムタボール」と、となえました。
すると、二人はあっというまにコウノトリになってしまいました。
コウノトリになってみると、二羽のコウノトリの話していることがよくわかりました。
それは、ほんの世間話でしたが、コウノトリがまるで人間みたいなことをいっているので、王さまと大臣は思わず笑ってしまったのです。
さあ、たいへん。
二人は人間にもどるおまじないのことばを、忘れてしまいました。
二人がコウノトリになってしまって四日ばかりたつと、新しい王さまが王の位についてしまいました。
それは、魔法使いカシュヌールの息子です。
じつは、王さまたちに魔法をかけたのは、力シュヌールだったのです。
コウノトリになった王さまは、くやしがって大臣といっしょに飛んでいきました。
そして日が暮れたので、二人は人のいない古いお城で寝ることにしました。
ところがそこには、一羽のフクロウがいて、悲しそうに鳴いていました。
そのフクロウは、実は元インドのお姫さまだったのです。
あるとき、魔法使いカシュヌールが息子のお嫁になってくれといいましたが、お姫さまはことわりました。
すると力シュヌールはおこって、お姫さまをフクロウにしてしまったのです。
「おまえは、おまえをお嫁にほしいという者があらわれるまで、そうやってみにくい姿でいるがいい。まあ、フクロウをお嫁にほしいという者など、どこにもいないだろうがな」
かわいそうなお姫さまは、毎日、泣いて暮らしていたというわけです。
「わたしたちをふしあわせにしたカシュヌールは、毎月一度、このお城ヘやってきます。仲間とお酒を飲みながら、お互いに自分たちのした悪いことを自慢しあうのです。だから、もしかするとそのときに、あなたがたの忘れたおまじないのことばも口に出すかもしれません。今夜が集まる日なのです」
と、フクロウのお姫さまがいいました。
やがて魔法使いたちが集まって、酒盛りが始まりました。
カシュヌールは、王さまたちをコウノトリにしたことを自慢しました。
そして、そのおまじないのことばをしゃべったのです。
王さまは、それを聞いて喜びました。
「ありがとう、フクロウさん。おかげでわたしたちは人間にもどれます。フクロウでもかまいません。どうか、わたしのお嫁になってください」
王さまは大臣といっしょに東へ向かって三ベんおじぎをして、「ムタボール」とさけびました。
すると、二人は無事に元の姿にもどりました。
ところが、二人のそばに美しいお姫さまが立っているではありませんか。
「わたしはフクロウです。王さまがお嫁にしてくれるといったので、魔法がとけたのです。ありがとうございます」
そこで三人はバクダッドに帰って、りっぱな国をつくったということです。