王さまの娘の名は、アンといいます。
女王さまの娘の名は、ケートです。
アンとケートは、本当の姉妹の様に仲良しでした。
ところが女王は、自分より美しいアンをにくらしく思っていました。
そしてアンをみにくくするにはどうしたらいいかと、考え続けました。
ある日、女王はニワトリ番の女のところヘ、相談に行きました。
実はこのニワトリ番の女は、魔法を使う事が出来たのです。
ニワトリ番の女が、言いました。
「明日の朝、アンが何も食べないうちに、ここヘ来させなさい」
あくる朝はやく、アンは女王から、
「谷間のニワトリ番のところへ行って、タマゴをもらって来ておくれ」
と、言われました。
アンはさっそく出かけましたが、けれどもアンは台所を通る時に、パンの皮をつまみ食いしたのです。
そしてそれを食べながら、ニワトリ番の女のところヘ行きました。
アンを見ると、ニワトリ番の女は、
「あそこのナベのふたを開けて、中をのぞいてごらん」
と、言いました。
アンは言われた通りにしましたが、別に変わった事はおこりませんでした。
「・・・・・・。家へ帰ったら『食料戸棚に、カギをかけておきなさい』って、伝えるんだよ」
と、ニワトリ番が言いました。
アンは女王のところに帰って、ニワトリ番に言われた通りを伝えました。
女王はこれで、アンが何か食べていた事を知りました。
次の朝、アンは何も食べないうちに、ニワトリ番のところへ使いにやらされました。
アンは途中で、マメを取り入れているお百姓に会いました。
アンはお百姓にマメをひとにぎり分けてもらって、食べながら歩いて行きました。
ニワトリ番のところへ着くと、また、
「ナベのふたを開けて、中をのぞいてごらん」
と、言われました。
アンはその通りにしましたが、別に変わった事はおこりませんでした。
ニワトリ番の女は、きげんを悪くして、
「帰ったら、『火がなきゃ、何にも煮えやしない』って、伝えるんだよ!」
と、言いました。
アンは女王に、その通りに話しました。
さて、三日目の朝になりました。
女王は何も食べていないアンの手を引いて、ニワトリ番のところヘ急ぎました。
アンは言われた通りに、ナベのふたを持ち上げました。
するとあっという間に、アンのかわいらしい首がヒツジの首に変わってしまったのです。
女王はまんぞくして、お城へ帰りました。
女王の娘のケートは仲良しのアンの頭がヒツジに変わってしまった事にビックリしましたが、アンの頭を布でスッポリ包むと、アンと一緒に幸せを探す旅に出かけたのです。
二人はドンドン歩いて、あるお城にたどりつきました。
ケートは、お城の戸を叩いて、
「病気の妹と一緒に、ひと晩とめてください」
と、頼みました。
そのお城には、二人の王子がいました。
一人の王子は重い病気にかかっていて、誰もその病気を治す事が出来ませんでした。
そして不思議な事に、ひと晩でも王子につきそって看病(かんびょう)した者は、みんな姿を消してしまうというのです。
「王子を看病すると、魔物が出るのかもしれない」
と、言って、人々はおそれました。
そしていまでは、誰も看病しようとしませんでした。
そこで王さまは、
《一晩中、王子を看病した者には、ほうびとして銀貨を与えよう》
と、いう、おふれを出しました。
ケートは勇気のある娘でしたから、王子の看病を申し出ました。
ケートが部屋に入ると、王子はべッドで眠っていました。
「ボーン、ボーン」
時計が、十二時をうちました。
すると病気の王子は起き上がって服を着て、階段を滑るようにおりていきました。
ケートは、あとを追いました。
王子は、ケートに気がついた様子もありません。
王子はウマ小屋へ行ってくらをつけると、ウマにまたがりました。
ケートも王子のうしろへ、そっととび乗りました。
王子は、イヌを呼びました。
ウマに乗った王子とケートは、みどりの森を通りました。
通りながらケートはクルミの実をいくつも取って、エプロンのポケットにしまいました。
王子たちはどんどん進んで、みどりの丘につきました。
王子はたづなをひいて、ウマをとめました。
そして、
「開け、開け、みどりの丘よ。入れておくれ、王子と、ウマと、イヌ」
と、言うと、ケートが、
「と、王子のうしろにいる娘を」
と、続けました。
たちまち、みどりの丘がパカッと半分にわれて、王子たちは中に入りました。
中にはたいまつが赤々とともされている、とても立派な広間がありました。
広間の奥から美しい妖精(ようせい)たちが現れ、王子をかこんで一緒におどりはじめました。
ケートは見つからないように戸のかげに隠れて、王子と妖精たちのおどりを見ていました。
王子はいつまでもいつまでもおどり続けて、とうとう倒れてしまいましたが、妖精たちにかいほうされると王子は立ち上がってまたおどりはじめました。
倒れては妖精にかいほうされておどり、また倒れては妖精たちにかいほうされておどりだす。
そんな事が何度もくり返され、やがて朝を告げるニワトリが鳴きました。
すると王子は、あわててウマにまたがりました。
ケートもあわてて、うしろへ飛び乗りました。
やがて王子たちは、お城へ戻りました。
朝日が登ると、お城の人たちは王子の部屋をのぞきに来ました。
そしてケートがだんろのそばでニッコリ笑いながらクルミを割っているのを見て、ビックリしました。
ケートは、王さまがごほうびの銀貨をくれるというのを断って、
「もう一晩、王子さまのおそばにおりましょう。明日の晩、銀貨をいただきます」
と、言いました。
二日目の夜も、同じ事がおこりました。
王子は十二時に起きて、みどりの丘で開かれる妖精たちの舞踏会に出かけていきました。
ケートも王子のうしろにくっついてウマに乗り、途中でクルミを取ってエプロンのポケツトにいっぱい入れました。
ケートが戸のかげに隠れていると妖精の赤ちゃんがつえを持って、ヨチヨチ歩きながらやって来ました。
その時、妖精たちが、
「あのつえで三回なでれば、アンの病気が治って前の様に美しくなれるのにね」
と、話しているのが聞こえました。
そこでケートは妖精の赤ちゃんの足下に、クルミをいくつもいくつも転がしました。
すると妖精の赤ちゃんはつえを放り出して、クルミの実を追いかけました。
その間にケートはつえを拾って、エプロンのポケットにしまいました。
ニワトリが鳴いたので、王子たちはお城ヘ帰りました。
ケートは急いで、アンのところへ行きました。
そして妖精の赤ちゃんの持っていたつえで、アンのほおを三回なでました。
するとたちまちヒツジの首が落ちて、もとの美しいアンの首に戻ったのです。
三日目の晩に、なりました。
ケートは、
「もし病気の王子さまと結婚させてくださるのなら、もう一晩、看病いたしましょう」
と、言いました。
その晩も、前の晩と同じでした。
今度は妖精の赤ちゃんが、小鳥と遊んでいました。
妖精たちが、
「あの鳥を三口食べれば、王子さまの病気は治ってしまうのにね」
と、話しているのを聞きました。
ケートは妖精の赤ちゃんの足下に、クルミをいくつも転がしました。
妖精の赤ちゃんは小鳥をはなして、ヨチヨチとクルミを追いかけました。
その間にケートは小鳥を捕まえて、エプロンのポケツトにしまいました。
ニワトリが鳴いて、王子はお城に帰りました。
ケートはすぐにお城の厨房(ちゅうぼう)に行くと、その小鳥で料理を作りました。
間もなく、とてもおいしそうなにおいが王子の部屋にまでただよってくると、
「ああ、あの小鳥が食べたいなあ」
と、王子がべッドに寝たままでつぶやきました。
「はい。どうぞ、食べてください」
料理をつくり終えたケートは、王子に小鳥の料理を差し出しました。
王子が、その料理を一口食べました。
するとベッドに寝ていた王子が、べッドの上にひじをついて頭を持ち上げました。
しばらくすると、
「ああ、もう一口、あの小鳥が食べたい」
と、言いました。
ケートの差し出す小鳥を二口食べると、王子はべッドの上に起き上がりました。
また、しばらくすると、
「ああ、もう一口だけ、あの小鳥が食べたいなあ」
と、言いました。
ケートの差し出す小鳥を三口食べると、王子はついにべッドから出てきたのです。
翌朝になり、お城の人が王子の部屋ヘやってきました。
そして王子がケートと一緒に、クルミを割っているのを見てビックリです。
さて、ケートと王子がそうこうしているうちに、もう一人の王子が美しいアンをすっかり好きになりました。
こうして病気だった王子はケートと結婚し、もう一人の王子は病気だったアンと結婚したのです。
それからは四人とも、いつまでも幸せに暮らしたということです。