ある日の事、橋の上で二人の男がバッタリと出会いました。
「こんにちは。あなたはどこへ出かけるのかね?」
一人が尋ねると、
「この先の村に、ヒツジを十頭買いに行くのだよ」
と、相手の男が答えました。
「ふうん、ヒツジを買った帰りは、どこの道を通るの?」
「もちろん、この道さ」
すると男は、急に怒った様に言いました。
「では、この橋を通るのだな。それは駄目だ。この橋にヒツジを連れて来られては、帰りにおれが通る邪魔になる。そんな事は許さないぞ!」
「何! この橋はお前だけの物ではないぞ。おれはきっと、ヒツジを連れてこの橋を通ってやる!」
「いや、通らせるものか!」
「いや、通ってみせる!」
「いいや、絶対に通らせるものか!」
「やかましい! 静かにしろ! お前がそんな大声で怒鳴ったら、おれのヒツジたちがビックリして橋の手すりを飛び越えて川へ落ちてしまうぞ!」
「そんな事、おれの知った事じゃない!」
「馬鹿いえ、おれの大事なヒツジだぞ!」
「何と言っても、ここは渡らせない!」
「いいや! 渡ってみせる!」
二人が言い争っているところへ、他の村の人がやって来ました。
「おいおい、お前さんたち。なぜけんかをしているんだい?」
「ああ、おれのヒツジたちを、通さないというからだよ」
と、一人がけんかの訳を話すと、
「ふーん。それで、そのヒツジはどこにいるんだい?」
「へっ? ・・・」
「あっ、・・・」
二人の男は、ヒツジがまだいない事に気がつきました。
「何だ、おれたちは、いないヒツジの事でけんかしていたのか」
「本当だ。馬鹿馬鹿しい」
けんかを止めた二人は、そのまま橋を渡ってどこかへ行ってしまいました。