お母さんは自分に似ているペビーナばかり可愛がり、いつもリジーナを働かせていました。
ある日、お母さんがリジーナに言いました。
「リジーナ。家のお金が少なくなってきたから、お前は外で働いておいで。私とペピーナは、家を守って留守番しているからね」
「はい、お母さん」
リジーナはにっこりほほえむと、仕事を探しに出かけました。
(お母さんと姉さんが喜ぶのなら、わたし一生懸命働くわ)
リジーナが町に出ると、プンプン怒ってお屋敷から出て来る女の人に会いました。
「いったい、どうしたのですか?」
リジーナがたずねると、女の人はお屋敷を指さしながら顔をまっ赤にして言いました。
「まったく、この屋敷にはネコしかいないと聞いたから、仕事は楽だろうと思ったけれど、それがとんでもないのよ。
いくら掃除してもネコの毛は落ちているし、カーテンは引きちぎるし、柱で爪はとぐし、それでわたしが怒れば、飛びついて来るし。
もう、ネコの世話と屋敷の仕事はコリゴリよ!」
それを聞いたリジーナは、女の人に言いました。
「では、わたしにそのお仕事をさせてくださいな」
「なら、市長さんに頼むといいわ」
女の人はそう言うと、さっさと行ってしまいました。
市長に頼んだリジーナは、お屋敷の大きな扉をノックしました。
「こんにちは。私は、リジーナです。今日からここで、働かせていただきます」
すると広間にいるネコたちが、リジーナをにらみました。
ソファーには白ネコ、まどの棚には黒ネコとブチネコ、テーブルの上には灰色のネコ、テーブルの下には灰色の子ネコたち、カーテンのかげにも、大きな花びんの後ろにも、とにかくたくさんのネコたちがいます。
リジーナはエプロンをつけて、さっそく仕事を始めました。
じゅうたんの上に散らばる毛も、一本一本ていねいにひろいます。
破れたカーテンは取り外し、チクチクとぬいました。
その間もネコたちは、リジーナのじゃまをします。
ネコたちはリジーナの前や後ろを歩きまわったり、背中に飛びついたり、わざと音をたてて柱で爪をといだりします。
でもリジーナは怒ったりせず、ニコニコと笑うだけです。
そして歌を歌いながらおいしい夕食を作り、ネコたちに食べさせました。
そしてネコたちの食べ終わった食器を洗ってから、自分はパンとスープだけの食事をしました。
それからリジーナはソファーに座り、
「さあ、いらっしゃい」
と、一匹ずつネコをひざに乗せてブラシをかけてあげたり、けがをしているネコには手当をしたり、年寄りのネコにはていねいになでてあげました。
すると太った白と茶色の大きなネコが、人間の言葉でこう言ったのです。
「リジーナ、いつまでもネコの家にいておくれ。
我々ネコは、そのむかし町にネズミがあふれたときに、ネズミを全部退治したんじゃ。
それで市長がネコのために、この屋敷をたててくれた。
人間のお手伝いさんも、一人置いてくれるようになった。
でも人間は我々がネコだと思って、気にいらないと蹴飛ばすし、ほうきでたたいたりするんじゃ。
こうしてなでてもらったのは、生まれて初めてじゃ」
「まあ、そうだったの。ネコさんたちは、この町を救ってくれたのね」
リジーナはにっこりほほえむと、ネコたちに言いました。
「さあ、みんなで寝ましょう。私が子守歌を歌ってあげますよ」
ネコたちは大喜びで、リジーナといっしょにベッドの中へもぐり込みました。
リジーナはすんだきれいな声で、ネコたちのために作った子守歌を歌いました。
♪星の光よ
♪優しくそっと
♪ネコたちを守っておくれ
♪月の光よ
♪その輝きを
♪ネコたちに与えておくれ
リジーナはネコたちが気持ちよく過ごせるように、屋敷の中も広い庭も一生懸命掃除をしました。
朝食も夕食も、心をこめて作りました。
仕事の合い問には、ネコを順番にひざに乗せて歌いながらなでてやりました。
やがてネコたちの方も、リジーナの仕事のじゃまにならないように注意しました。
いえ、それどころか、簡単な仕事なら手伝ってくれるようになったのです。
「みんなが協力してくれるから、仕事がとても楽しいわ。ありがとうね」
「いいや、みんな、リジーナの笑顔を見ていたいだけさ」
リジーナとネコたちは、本当に仲良く楽しく暮らしました。
それから何日かたつと、リジーナが時々さびしそうな顔をすることにネコたちは気づきました。
「リジーナ、どうしたの? もしかして、この屋敷にいるのがつらくなったの?」
「いいえ、とんでもないわ。仕事は楽しいわよ。・・・ただ、私の帰りを待っているお母さんと姉さんに、会いたくなったの」
そう聞くと、ネコたちはホッとした顔で、
「なんだ、それなら会いに帰るがいいさ」
「そうだよ、リジーナ。たまには息抜きも必要さ」
「ああ、その前に、ちょっとついておいで」
ネコたちは、リジーナを地下室に連れて行きました。
地下室には大きなツボと、小さなツボがありました。
「どちらでもよいから、ツボの水で顔と手を洗ってお行き」
ネコに言われて、リジーナは小さなツボの水で顔と手を洗いました。
すると手も顔もまっ白になり、ツヤツヤと光り輝きました。
そしてネコたちは、
「これは、今までのお礼だよ」
と、ポケットいっぱいに金貨をつめてくれました。
「わあ、どうもありがとう。では、行ってきます」
リジーナは喜んで、家に帰りました。
さて、お母さんとペピーナは、リジーナの帰りを待ちくたびれていました。
「あの子、おそいわね」
でも本当はリジーナではなく、リジーナが持って帰るお金を待ちくたびれていたのです。
ですからリジーナが帰ってくると、市長からもらったお給料とネコからもらったポケットいっぱいの金貨を全部取り上げてしまいました。
そしてリジーナが白く美しくなって帰って来たので、話を聞いたペピーナは今度は自分がネコの家へ行くと言いました。
次の日、ペピーナはネコの家に着くと、ネコたちはペビーナをやさしく出迎えました。
リジーナのお姉さんだから、きっとやさしい人に違いないと思ったからです。
けれどペピーナは、ネコたちがちょっと歩くと、
「動かないでよ! 毛が落ちるじゃない!」
と、ネコたちをほうきで叩きます。
そして夕食も自分ばかりごちそうを食べて、ネコたちにはそのわずかな残りを外に投げて食べさせました。
それから自分で地下室のツボを見つけると、まよわず大きいツボの水で手と顔を洗いました。
(これであたしも、白く美しくなれるわ)
でも大きなツボに入っていたのは灰と油で、ペビーナは薄汚れた灰色の顔になってしまったのです。
(なによこれ! もう、最低!)
ペピーナはプリプリ怒りながら屋敷を出て、町の通りに出ました。
その時、ガラガラと馬車(ばしゃ)を引いたロバが通りかかり、尻尾でペピーナの顔をたたきました。
「わっ!」
するとペピーナのおでこに、ロバの尻尾の長い毛が十本ほどくっついてしまったのです。
その頃、リジーナはペピーナの帰りを窓辺であみものをしながら待っていました。
そこへお城の王子さまが、ウマに乗って通りかかったのです。
窓辺のリジーナを一目見た王子さまは、白くて美しいリジーナを好きになりました。
「なんてすてきな人だろう。ぜひ、花嫁にしたい」
そしてリジーナのお母さんに、
「明日、あなたの娘さんを花嫁にむかえにきます」
と、言ったのです。
そこへペピーナが帰って来たので、お母さんはすぐにリジーナを屋根裏に押しやると、逃げられないようにカギをかけました。
それから白いベールを用意して、ペピーナにかぶせました。
お母さんは王子さまにはリジーナではなく、自分の可愛がっているペピーナと結婚させようと思ったのです。
朝が来て、王子さまがリジーナをむかえに来ました。
お母さんはすまして、白いベールをかぶせたペピーナをウマに乗せました。
町の通りには大勢の人たちが出て、王子さまと白いベールの王女の結婚をお祝いしました。
そのときネコたちが通りに飛び出して、歌を歌い出したのです。
♪王子さまは、誰と結婚するの?
♪ベールをあげれば、すべてがわかる
♪本当の花嫁は、屋根裏で
♪ここにいるのは、ニセ者さ。
「なんだって?」
王子さまはウマを降りて、花嫁の白いベールをあげました。
「あっ!」
白いベールの下には、灰色の顔でおでこからロバの尻尾が生えたペピーナがいたのです。
王子さまは急いで戻ると、屋根裏に閉じこめられているリジーナを助け出してウマに乗せました。
町の人たちは、美しいリジーナに大喜びです。
王子さまとリジーナは、すぐに結婚式をあげました。
そして町中の人をお城によんで、お祝いのバーティーをしました。
もちろん、あのネコたちもよばれて、リジーナの幸せを心からお祝いしたのです。