作ったばかりのボウシを、町へ売りに行く途中です。
「ああっ、寒いなあ。おまけに足もくたくただ。どこかに休める場所は?」
ボウシ屋さんはがけ下に、風も当たらず、お日さまの光でポカポカしている場所を見つけました。
「やれ、助かった」
ボウシ屋さんは、ボウシのつまった袋をかかえて日なたぼっこをしていましたが、そのうちにコックリ、コックリと居眠りをはじめました。
そしてしばらくして目を覚ましてみると、ボウシのつまった袋の口が開いていて、中に入れてあったボウシが一つ残らずなくなっているのです。
「しまった。盗まれたか!」
ボウシ屋さんがあたりを見回すと、頭の上の方から、
「ウキッ、 キッ、キッ」
と、サルの鳴き声が聞こえてきました。
「あっ、おれのボウシ!」
なんとがけの上でたくさんのサルたちが、ボウシ屋さんのボウシをかぶって遊んでいるではありませんか。
「おーい、ボウシを返せ! それは大切な商売の品だぞ!」
ボウシ屋さんは大声で怒鳴りますが、でもサルたちは知らん顔です。
「このイタズラザルどもめ!」
ボウシ屋さんはカンカンになって、
「早く返さないと、ひどい目にあわせるぞ!」
と、言いながらげんこつを振り上げました。
するとサルたちもまねをして、同じようにげんこつを振り上げました。
「バカにするな!」
ボウシ屋さんが地面をけってくやしがると、サルたちもまねをして地面をけります。
その時、ボウシ屋さんは、よいアイデアを思いつきました。
ボウシ屋さんはその場で逆立ちをすると、サルたちに言いました。
「やーい、バカサルども。このまねが出来るか?」
「ウキッ、 キッ、キッ」
バカにされて怒ったサルたちはボウシ屋さんに負けじと、がけの上で逆立ちをはじめました。
するとかぶっていたボウシが脱げて、がけ下のボウシ屋さんの前に、コロコロと転げ落ちます。
「しめしめ。うまくいった」
ボウシ屋さんはそれをひろい集めて袋につめ込むと、くやしがるサルたちをしりめに町の方へ歩いていきました。