ある日、お母さんが重い病気にかかって、死にそうだという知らせが届きました。
「まあ、どうしましょう?」
と、三人は相談しました。
「わたしたち、仕事にやとわれているんだから、みんなで出かけるわけにはいかないわ。わたしが一番上の姉さんだから、行って来るね」
一番上の娘は、お母さんへのおみまいの品にブドウ酒四本と、干しあんず入りのお菓子を四つ用意しました。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
二人の妹は、姉さんを送り出しました。
お母さんのいるボルゴフォルテ村へ行くには、深い森の中を通らなければならないので、とても心配だったのです。
深い森の中の道に、さしかかりました。
すると突然、オオカミが飛び出して来ました。
「もしもし、娘さん。そんなに急いで、どこへ行くんだね?」
オオカミは立ちすくんでいる娘を怖がらせないように、ネコなで声で言いました。
「ボルゴフォルテ村の、お母さんのところへ行くんです。お母さんの病気が、重いそうですから」
「そのカゴには、何が入っているんだね?」
「ブドウ酒四本と、お菓子が四つ」
「じゃ、それをおよこし」
「いいえ。これはお母さんへのおみまいの品。あげるわけにはいきません」
娘はカゴを、しっかりとかかえました。
オオカミは、二、三歩そばへ寄って来ると、今度はきばをむき出しておどしました。
「くれないのかい? くれなくてもいいが、その代わりお前はどうなると思う? カゴの中身と命の、どっちが大事なんだ!」
娘は怖くなって、カゴを放り出して妹たちのところへ逃げ帰りました。
姉さんの話を聞くと、今度は二番目の娘が出かける事になりました。
おみまいの品はさっきと同じように、ブドウ酒四本と、干しあんず入りのお菓子が四つでした。
「では、気をつけて行っておいで」
「オオカミに、出会わないようにね」
一番上の姉さんと、妹が送り出しました。
深い森の中の道にさしかかると、またさっきのオオカミが出てきました。
「もしもし、娘さん。そんなに急いで、どこへ行くんだね?」
オオカミはネコなで声で、やさしく言葉をかけました。
「「ボルゴフォルテ村の、お母さんのところへ行くんです。お母さんの病気が、重いそうですから」
「そのカゴには、何が入っているんだね?」
「ブドウ酒四本と、お菓子が四つ」
「じゃ、それをおよこし」
「いいえ。これはお母さんへのおみまいの品。あげるわけにはいきません」
「くれないのかい。くれなきゃ、お前はわしに食われるんだよ」
二番目の娘も怖くなって、カゴを放り出すと逃げて帰りました。
末の妹は、それを聞くと、
「じゃ、わたしが行って来るわ」
と、言い出しました。
「大丈夫かい?」
「心配だわ」
と、姉さんたちが言いました。
「まかせて。わたしには、いい考えがあるの」
そう言うと末の妹は台所へ行って、カゴの中にブドウ酒四本を入れ、それからお菓子の中に何やらたくさんつめ込みました。
「じゃ、行っておいで。オオカミに、出会わないようにね」
「無事に行っておいで。お母さんに、くれぐれもよろしくね」
末娘はカゴをかかえると、元気よくかけて行きました。
薄暗い森の中の道にさしかかると、またもオオカミが出て来ました。
でも末娘はわき目もふらずに、ズンズンと足を急がせました。
オオカミはそばへ来ると、またネコなで声で言いました。
「もしもし、娘さん。そんなに急いで、どこへ行くんだね?」
「ボルゴフォルテ村の、お母さんのところへ。病気が重いそうですから」
「そのカゴには、何が入っているんだね」
「ブドウ酒四本と、お菓子が四つ」
「じゃ、それをおよこし」
「いいえ、あげるわけにはいきません。お母さんへのおみまいの品ですから」
末娘は怖そうなようすも見せないで、オオカミを見つめました。
オオカミは、きばをむき出しておどすことにしました。
「じゃ、それをよこさねえというのか?」
「ええ、これはあげられないわ」
「よこさなきゃ、お前はどうなると思う? わしに食われるんだぞ!」
「それなら、仕方がないわ。これをお食べ」
末娘は大きく口を開けているオオカミめがけて、お菓子を一つ投げつけました。
オオカミはそれを、パクリと口で受け止めました。
そして、
「ウギャーーァ!」
と、さけんで、飛び上がりました。
実はお菓子の中には、クギがたくさん入れてあったのです。
オオカミは口中、血だらけになってお菓子とクギをはき出しました。
「おぼえていろ。この仕返しは、きっとしてやるぞ」
オオカミは、森の奥に逃げて行きました。
でも、ぬけめのないオオカミは森の近道をぬけて、ボルゴフォルテ村に先回りしました。
そして娘たちのお母さんの家に忍び込んで、病気でねているお母さんをひと飲みに飲み込んでしまったのです。
それからオオカミはお母さんのずきんをかぶり、べッドに潜り込んで末娘が来るのを待っていました。
しばらくして、末娘はお母さんの家に着きました。
「お母さん」
末娘はベッドのそばへ行ってみて、お母さんのあまりの変わりようにビックリ。
だってお母さんは色が黒くて、とても頭が大きくなってしまったからです。
それに、末娘にやさしい笑顔を見せてもくれません。
「お母さん、なぜわたしを抱いてくれないの?」
そのとたん、オオカミはバッと飛び起きて娘をひと飲みにすると、そのまま表に飛び出しました。
でも、畑で働いていた村の人たちが、家から出て行くオオカミを見つけました。
そして手に手にクワやすきを持ってオオカミを追いかけ、たたき殺してしまいました。
お母さんと末娘は、オオカミのお腹の中から無事に助け出されました。
それからお母さんはりこうな末娘の看病で、まもなく病気も治ったということです。