門番は貧乏で着る物がないので、雨の日も日照りの時も、毛皮を腰にまいた姿で門に立っていました。
「あれは、何とまじめな門番だろう」
王さまは、門番が気に入りました。
そこで狩りに出かけるとき、王さまはその門番をお供として連れて行ったのです。
門番は、はだしで腰に毛皮をまいたかっこうで、
「やあ! やあ! たあっ!」
と、棒を振り回してイノシシやシカをやっつけました。
「おかげで、えものが増えたぞ」
王さまは、大喜びです。
ある時、王さまは隣の国と戦争を始めました。
「王さま、わたくしもお供させてください」
門番は、王さまにお願いしましたが、
「だめだ。お前は、弓が使えないだろう」
「はい。でも弓なんか使えなくても、大丈夫です」
門番は太い腕を、王さまに見せました。
「これで敵を、やっつけてごらんにいれます」
そして戦争に行くと門番は棒を振り回して戦い、誰よりもたくさんの敵をやっつけたではありませんか。
「なんと、いさましい男だろう」
王さまは、また感心してしまいました。
それから、数年がたちました。
門番はあいかわらず、お城の門に立っていました。
そんな門番を見て、王さまは、
「あの門番はまじめだし、いさましい男だ。
それなのによほど運が悪いのか、出世も出来ずにまだ門番だ。
何か、ほうびをやりたいものじゃ」
と、思いました。
そして家来たちを大勢集めると、門番に言いました。
「ラブダ?ダッタよ。何か、歌をうたっておくれ」
「はい。わかりました」
門番は大きな口を開けて、こんな歌をうたいました。
?運の神さま えこひいき。
?お金持ちには 親切で、
?貧乏人には 知らん顔。
?運の神さま えこひいき。
王さまはおもしろそうに笑って、門番にレモンを一つあげました。
「ごほうびは、レモン一つか。やっぱりわたしは、運が悪いんだなあ」
門番がしょんぼりと門に立っていると、坊さんが声をかけました。
「これは、見事なレモンだ。どうです。この着物と、取り替えてくれませんか?」
「いいですとも」
門番は喜んで、レモンと着物を取り替えました。
その後、坊さんは王さまのところへ行ってレモンを差し出しました。
「王さま。立派なレモンを手に入れました。めしあがってください」
王さまは、そのレモンを見てビックリ。
「ああ、あの男は、まだ運がむいていないなあ」
実はレモンの中には、たくさんの宝石がつめてあったのです。
次の日、王さまはまたみんなを集めて、門番に歌をうたわせました。
?運の神さま えこひいき。
?お金持ちには 親切で、
?貧乏人には 知らん顔。
?運の神さま えこひいき。
門番がうたうと、王さまはうれしそうに笑いました。
そしてごほうびに、またレモンを門番にあげました。
「ああ、今日もレモンだった」
門番はガッカリして、レモンを持ったまま門に立っていました。
そこに、役人がやってきました。
「なんと、見事なレモンだろう。王さまに、差し上げよう。どうだ、着物二枚と取り替えてはくれないか?」
「いいですとも」
門番は喜んで、レモンと着物二枚を取り替えました。
王さまは役人が持ってきたレモンを見て、悲しくなりました。
「どこまで、運の悪い男だろう。このレモンを、着物二枚と取り替えるなんて」
また次の日、王さまはみんなを集めて門番に歌をうたわせました。
そしてまた、ごほうびにレモンをあげました。
それを見て、家来たちは不思議に思いました。
「どうしていつも、王さまはレモンしかあげないのだろう? 王さまは、めぐみ深い方なのに」
門番は、今度はレモンを王さまのおきさきさまにあげました。
「おいしそうなレモンだこと。王さまが、お喜びになるわ」
おきさきさまはそう言って、門番に金のかたまりをくれました。
門番はその金のかたまりを売って、ごちそうをお腹かいっぱい食べました。
「またか。何度やっても、宝石をつめたレモンが戻ってくるなあ」
おきさきさまからレモンを受け取った王さまは、それでもまだあきらめません。
次の日、王さまは、みんなを集めました。
大臣も町の人々も、集まってきました。
王さまはいつものように、門番に歌をうたわせました。
?運の神さま えこひいき。
?お金持ちには 親切で、
?貧乏人には 知らん顔。
?運の神さま えこひいき。
「うまいうまい。それでは、ほうびをあげよう」
王さまはいつもより、もっと楽しそうに言いました。
「今度こそ、お金をどっさりあげるにちがいない」
みんなは、ジッと王さまの顔を見つめました。
ところが王さまがくれたのは、やっぱりレモン一つきりです。
門番が受け取ろうとすると、王さまはわざとそのレモンを床に落としました。
すると床に落ちたレモンはまっぷたつに割れて、中から光り輝く物がこぼれ出ました。
「あっ、宝石だ!」
「いっぱいつまっているぞ。これはすごい!」
「お金より、ずっといいじゃないか!」
みんなは、ビックリして言いました。
門番はあっけにとられて、口もきけません。
「そうだったのか。やっぱり王さまは、めぐみ深い方だったんだよ」
家来たちは、口々に王さまをほめました。
王さまは門番に宝石のつまったレモン一個のほかに、村を一つと金貨もたくさんあげたということです。