ある日、森の中をあるいていると、大きな木の上から人のはなし声がきこえてきました。
ふしぎにおもってその木をのぼっていくと村があり、風にたおされた家をみんなでたてなおしているところでした。
村人たちは、王子さまをみて、
「どうか、わたしたちのしごとを手つだってください」
と、いいました。
でも、木はまだまだ上へつづいているので、王子さまは、
「わたしは、ここへきたのではない」
と、いって、どんどん上へのぽっていきました。
すると木のてっぺんに、すばらしい宮殿(きゅうでん)がたっていて、うまいぐあいに門があいていました。
(いったい、だれがすんでいるのかな?)
王子さまは宮殿にはいり、あちこちのへやをみてまわりました。
どのへやにも、背中にコウモリのはねをつけた小オニたちが、グッスリとねていました。
ところがいちばんおくのへやをのぞいてみると、うつくしい王女さまが金のくさりではしらにしばりつけられています。
「おねがいです。わたしをたすけてください」
王女さまが、王子さまをみていいました。
王子さまは、おどろいてたずねました。
「だれが、こんな目にあわせたのです?」
「この宮殿にすんでいる、小オニの親分です。いまでかけています。さあはやく、このくさりをきってください。グズグズしているともどってきます」
そこで王子さまは手オノでくさりをきると、王女さまの手をとって宮殿のそとへはしりだしました。
それから大きな木にとびつき、王女さまをかかえるようにして森の中におりたのです。
ちょうどそのころ、親分が宮殿へもどってきました。
王女さまがにげたのをしって、親分が声をあげました。
「みんなおきろ! 王女がにげだしたぞ!」
ねむっていた子分たちはビックリしてとびおきると、親分のあとにつづいてそとへとびだし、つぎつぎと木にとびつきました。
とちゅうの村まできて、親分が村人たちにたずねました。
「王女が、ここをとおっていかなかったか?」
「ああさっき、とおっていったよ」
それをきくと、小オニどもは大いそぎで下へいき、森の中へとびおりました。
王子さまはうしろからきこえてくる小オニたちの声をきいて、王女さまをすばやく木のしげみにかくし、手にもっていたオノで木をきりはじめました。
そこへ子分をひきつれた、小オニの親分がやってきました。
親分は王子さまを木こりだとおもって、たずねました。
「おい、木こり。王女をみかけなかったか?」
そのとたん、王子さまは、
「えーん、えーん、えーん」
と、声をあげてなきはじめました。
親分はビックリして、
「なぜなく? わしは、王女をみなかったかときいているんだ」
と、どなりました。
すると王子さまが、なきながらいいました。
「えーん。だって、あのゆうめいな小オニの親分が、病気でしにそうだっていうではありませんか」
「なんだと! そりゃ、ほんとうか?」
王子さまが、コクリとうなずきました。
「まさか、そんな???」
それで親分は、大あわてで宮殿へもどっていきました。
「おまえたち、わしが病気で死にそうにみえるか?」
「とんでもない。親分はとても元気ですよ」
子分たちが、口をそろえていいました。
親分はそれをきくと、ホッとして、
「あの木こりめ、よくもうそをつきやがったな。ただじゃ、おかねえ!」
と、いって、ふたたび木をおりていきました。
王女さまとにげていた王子さまは、ほらあなの中へ王女さまをかくすと、服をうらがえしにきて、わざと小オニたちのほうへちかづいていきました。
「おいおまえ、王女をみなかったか?」
小オニの親分が、たずねました。
「さあ」
「それじゃ、木こりをみなかったか?」
「だれもみやしないよ。とにかくいまは、あんたとはなしているひまがないんだ。王さまの使いで小オニのいる宮殿へ、いそいでしらせにいかなくちゃならないんだ」
「なに、小オニのいる宮殿へだと。なにをしらせにいくんだ?」
「あんたきかなかったのかい? あのゆうめいな小オニの親分が死んだのさ」
それをきくと小オニの親分はとびあがっておどろき、木のてっぺんの宮殿へもどっていきました。
「おい、みんな! 小オニの親分とはだれのことだ?」
「そりゃ、そこにいる親分のことで」
小オニたちが、いっせいに親分をゆびさしました。
「そうだろう。それならどうしてこのわしが死んでいるんだ? こんなにピンピンしているのに。わしは生きているだろ?」
「あたりまえですよ! ごらんのとおり、親分はげんきで生きているじゃないですか」
「そうか。くそ、あのうそつきめ。ただじゃおかんぞ!」
小オニの親分は、またまた子分どもをひきつれて、森の中へもどってきました。
ふと森のそとをみると、王女さまと王子さまのはしっていくすがたがみえます。
「あそこだ!」
親分はコウモリのはねをひろげると、風のように二人をおいかけました。
二人が城のまえまできたとき、親分が王女さまのうわぎをつかみました。
王女さまはいそいでうわぎをぬぐと、そのまま城の中へとびこみました。
王子さまはうしろをふりむきざま、オノをふりあげて、小オニの親分の頭を力いっぱいなぐりつけました。
「いたい!」
親分はひめいをあげてとびあがると、もうあともみずににげだし、じぶんの宮殿へもどっていきました。
このあと、王子さまはこの王女さまとけっこんして、しあわせにくらしたということです。