「さあ、甘いナシ。おいしいナシ。買ってくださいよ」
するとみんなが集まってきて、次々とナシが売れていきます。
そこへ、ふと一人のおじいさんがやって来ました。
おじいさんはボロボロの着物を着て、肩にかついだクワに小さな包みを一つぶらさげています。
ナシ売りのそばまで来ると、おじいさんはていねいにおじぎをして言いました。
「のどがかわいて、困っています。お願いですから、そのナシを一つくださいませんか」
すると、ナシ売りは、
「ふん! バカな事を言うんじゃない。売り物のナシを、一つだってやれるもんか!」
おじいさんは、がっかりです。
すると、客の一人がナシ売りに言いました。
「お金はわたしが払ってやるから、おじいさんにあげておくれよ」
するとナシ売りは、一番小さなナシをおじいさんに渡しました。
「ほらよ」
おじいさんはナシを受け取ると、お金を出してくれた人にあいさつをしました。
「どうも、ありがとうございます。このお礼に、これからわたしがみなさんにおもしろい物を見せましょう」
そう言っておじいさんは、ナシの実をムシャムシャと食べました。
そして残ったタネを、すぐそばの土の中へうめました。
「さあ、このタネに水をかけると、すぐ木になって実がなりますよ」
それを聞くと、みんなは笑い出しました。
「このおじいさん、頭が変じゃあないのか? タネをまいて実が出来るまで、何年もかかるというのに」
しかしおじいさんはそんな言葉を気にせず、どこからか水の入ったツボを持ってきて、そのツボの水を土の上にふりかけるとこう言いました。
「天の神さま、土の神さま、タネから芽を出させてください。今すぐに、出させてください」
するとみるみるうちに、土の中から芽が出てきて緑の葉が開きました。
「おおっ!」
見ていたみんなは、ビックリです。
「続いて、花を咲かせます」
おじいさんがナシの芽にツボの水をふりかけると、ナシの芽はグングンのびて太い木になりました。
そして枝につぼみがいっぱいついたかと思うと、パッ、パッ、パッと、まっ白い花がさきました。
やがて花がちってしまうと、そのあとにたくさんの実がなりました。
「さあ、みなさん、食ベてください」
おじいさんはそう言って、ナシの実をもぎ取るとみんなに配りました。
「ほう、これはうまいなあ」
「うん、ナシ売りのナシより、十倍はうまいぞ」
みんなは、大喜びです。
「ではみなさん、わたしはこれから遠くへ行くので、このナシの木は持っていきます」
おじいさんはクワで土をほってナシの木を引きぬくと、やがてどこかへ行ってしまいました。
「なんとも不思議なおじいさんだなあ」
「あれはきっと、仙人だよ」
「そうだ、仙人にちがいない」
みんなが話しているうちに、欲張りのナシ売りは、はずかしそうにコソコソ逃げていきました。