この仙女は体の半分が人間で、あとの半分がクジャクの姿をしている魔法使いです。
だから森の生き物たちは、この仙女を『クジャク仙女』とよんでいました。
暑い夏になるとクジャク仙女は大きな羽をマントのように広げて太陽の強い光をさえぎり、寒い冬になると大きな羽を広げて冷たい風から森を守ります。
おかげで森は、いつも春のようでした。
森の生き物たちはみんな、仙女の事が大好きでした。
らんぼう者のトラやライオンでさえ、仙女の前ではおとなしくしています。
特に、仙女と姿が似ている森のクジャクたちは、
「あの仙女さまのように、美しくなりたいものだ」
「あの仙女さまのように、りっぱになりたいものだ」
と、いつも話し合っていました。
ある日の事、一羽のクジャクが仲間に言いました。
「どうすれば、クジャク仙女のような不思議な力を持つ事が出来るのだろう?」
「かんたんさ。仙女さまから、魔法を教えてもらえばいいじゃないか」
「そうだな。さっそく教えてもらおう」
そこでクジャクたちは仙女のところへ飛んで行くと、口々に言いました。
「おねがいです。どうか、魔法を教えてください」
すると仙女は、にっこりわらって答えました。
「それでは、今夜の三時にここへ集まりなさい。お前たちの中から一番すぐれた者を、弟子にしましょう」
クジャクたちは大喜びで家に帰ると、体や頭に花かざりをつけたり、水浴びをして体をきれいにしました。
どのクジャクも、
「自分が一番のクジャクだ!」
と、思っているようです。
けれども一羽、仲間のクジャクからはなれたところにいるクジャクが、自分のすがたを川の水にうつしてためいきをついていました。
「ああ、こんなぼくなんて、とても仙女さまのお弟子さんになれないや」
そのクジャクは生まれつき体が小さくて、羽も黒くよごれていました。
だからみんなから『チビクロ』とよばれて、バカにされていました。
「つまらないや」
チビクロはためいきをついて、フラフラと森の外へ飛んでいきました。
するとその時、
「たすけてくれ!」
と、声がしました。
見ると人間のおじいさんが、グッタリとたおれています。
あまりの暑さに、病気になってしまったのでしょう。
チビクロは急いで尻尾の羽を抜くと、それでせんすをつくってあげました。
チビクロがせんすであおぐと不思議な事にすずしい風がふいてきて、おじいさんはたちまち元気になりました。
「ありがとう。親切なクジャクさん」
ほめられたチビクロはうれしくなって、またドンドン飛んで行きました。
すると今度は、おばあさんがオイオイと泣いていました。
「どうしたの?」
チビクロがたずねると、おばあさんが泣きながら言いました。
「急に砂ぼこりが目に入って、何も見えなくなってしまったんだよ」
「それは大変!」
チビクロはむねのやわらかい羽を抜いて、おばあさんの目をそっとなでてあげました。
するとおばあさんの目が、パッチリと開いたではありませんか。
「あれえ!」
ビックリしたのは、チビクロの方でした。
こんなにかんたんにおばあさんの目が治るとは、思わなかったからです。
「ありがとう。やさしいクジャクさん」
お礼を言われたチビクロはうれしくなって、またドンドン飛んで行きました。
すると一軒の小屋があって、中にいたおじいさんと男の子がチビクロに気がつくと出てきて言いました。
「クジャクさん。はやくにげなさい! こんなところにいると、王さまの兵隊につかまってしまうよ」
「え? 兵隊がぼくをつかまえるって? どうしてさ」
「実は王さまがわしに、クジャクの羽で馬車(ばしゃ)のほろを作るようにご命令なさったのだ」
「クジャクの羽で?」
「そうだ。わしは馬車作りの職人だ。しかしクジャクから羽をむしりとってほろを作るなんて、そんなむごい事はわしには出来ん」
「それで、どうしたの?」
「それでわしは、王さまに馬車のほろを作るのをことわった。すると王さまはカンカンにおこって、わしをろうやに入れるというのだ」
「それじゃ、早くにげたらいいのに」
「いいや、どこへにげても、兵隊はやってくる。しかし、空を飛べるお前さんはべつだ。はやく森へ帰って、なかまのクジャクたちに兵隊がクジャク狩りに来る事を伝えるがいい。さあ、いそいで!」
するとチビクロは体の羽を全部ぬいて、おじいさんに渡して言いました。
「あの、こんなによごれている羽ですが、どうぞ使ってください。ぼくの羽で、馬車のほろを作ってください。それでおじいさんが助かるのなら、そしてほかのクジャクたちが助かるのなら。???ではさようなら、おじいさん」
羽のなくなったチビクロは、空を飛べずにピョンピョンとかけだしていきました。
まるはだかになったけれども、チビクロは少しもさむくありません。
チビクロのおかげで、あのおじいさんと男の子は幸せに暮らす事が出来るでしょう。
そう思うと心も体も、ポカポカと温かくなってくるのでした。
そのうちに日がくれて、夜になりました。
暗い道の向こうに、小さな明かりが見えます。
近づいてみると家があって、中から女の子とお母さんの話し声がします。
チビクロはそっと、まどをのぞいてみました。
するとランプの光の下にベッドがあって、そこに病気の女の子が寝ています。
「お母さま。お祭りには、花火があがるでしょう。わたし、花火を見たいの。はやく、お祭りが来ないかしら」
「もうすぐよ。はやく元気になって、いっしょに花火を見に行きましょうね」
お母さんは、そっとなみだをふきました。
チビクロは病気の女の子を、なぐさめてあげたいと思いました。
けれどもチビクロには、どうする事も出来ません。
ションボリ森へ帰ると、ほかのクジャクたちがチビクロを見つけて悪口を言いました。
「あいつを見ろよ。羽がなくて、はだかじゃないか」
「ほんとだ、みっともない」
「そうだ、クジャクのくせにみっともない姿をするな! お前なんか、あっちに行け!」
「お前なんか、死んでしまえ!」
チビクロははずかしくて、顔をまっ赤にして岩のかげにかくれました。
やがて、夜中の三時になりました。
するとくらい空にひとすじの光がさしてきて、それがあっという間に七色の光になって森を明るくてらしました。
「あっ、クジャク仙女さまだ!」
仙女が、山の上に現れました。
クジャクたちは、仙女の前にかけよります。
だれが仙女の弟子に選ばれるのか、みんなはドキドキして仙女を見上げました。
すると仙女は岩のかげで小さくなってふるえている、はだかのクジャクをやさしく抱き上げたのです。
「お前は、人のために自分をぎせいにしました。お前は、とてもすばらしい心を持っています。わたしの弟子は、お前です」
仙女は、ニッコリ笑って言いました。
「さあ、わたしの弟子よ。病気の女の子のところへ行って、あの子をなぐさめておやりなさい」
するとはだかのチビクロに、七色のきれいな羽がはえていました。
チビクロはまっすぐ空にまいあがると病気の女の子の家に行って、美しい花火のように光りかがやいたのです。