ある年の春、おばあさんは畑にダイコンのタネをまきました。
「どっさりダイコンをつくって、どっさりシャオホンに食べてもらおう」
おばあさんはまがった腰をたたきながら、毎日毎日畑の草をとり、水をやってこやしをふりかけました。
?はやくなれなれ、でっかいダイコン。
?うんとなれなれ、でっかいダイコン。
やがて、秋になりました。
でも、ダイコンはたったの三本しか出来ませんでした。
おばあさんが、シャオホンに言いました。
「ガッカリしても、しかたがないね。
ほそいダイコンは、わたしが食べて、中くらいのはとなりのおばあさんにあげよう。
そして太いダイコンは、シャオホンにあげようね」
おばあさんが川で三本のダイコンを洗っていると、山からクマがおりてきました。
「おい、ばあさん! そのダイコンをよこせ! よこさないと、お前の大切なシャオホンを食べてしまうぞ!」
「ひぇー! はっ、はい、どうぞ」
おばあさんは、自分の細いダイコンをクマにあげました。
するとクマは、そのダイコンを一口で食べました。
「うまいダイコンだ。だけど、まだ腹がへってる。もう一本よこせ」
おばあさんは、中くらいのダイコンもあげました。
クマは、そのダイコンを二口で食べました。
「まだ、腹がへってるぞ。それもよこせ」
するとおばあさんは、太いダイコンをしっかりとかかえて言いました。
「このダイコンは、シャオホンの物。ぜったいに、やれん」
「なんだと!」
するとその時、むこうから物売りたちがやって来ました。
「ちぇっ! じゃまが入ったな。それでは今夜、シャオホンを食いに行くからな」
クマはそう言うと、山へ帰りました。
「ああ、どうしたらいいんだろう」
おばあさんがダイコンをかかえて泣いていると、針売りが来ました。
続いて、ばくちく売りと、油売りと、エビ売りと、石うすをかついだ男もやって来ました。
「おばあさん。なにを泣いているんだい?」
「じつは???」
おばあさんは今までの事をみんなに話すと、また泣き出しました。
針売りと、ばくちく売りと、油売りと、エビ売りと、石うすをかついだ男は、みんなでおばあさんをなぐさめました。
そして針売りが針を、ばくちく売りがばくちくを、油売りが油を、エビ売りがエビを、石うすをかついだ男が石うすを、それぞれおばあさんに渡しました。
「これで、なまいきなクマをやっつけてしまえ!」
「でもなあ、こんな物もらっても???」
おばあさんは家に帰ると、針と、エビと、油と、ばくちくと、石うすを置いて、また泣き出しました。
「おばあさん、どうしたの? なぜ泣いているの?」
「実はね、シャオホン」
おばあさんから話しを聞いたシャオホンは、しばらく考えると元気良く言いました。
「大丈夫よ。おばあさん。わたしにいい考えがあるわ」
夜になりました。
すると山からクマがおりてきて、シャオホンの家の前でどなりました。
「おい。開けろ!」
シャオホンとおばあさんは、ベッドの下にかくれてだまっています。
「おい。開けろったら、開けろ!」
クマは、ドン! と、戸をたたきました。
そのとたん、クマは、
「うわっ。いててて!」
と、飛び上がりました。
クマの手には、針が何本もつきささっています。
かしこいシャオホンが、針を戸にさしておいたのです。
「こしゃくなまねを!」
カンカンに怒ったクマは、戸をぶちやぶって中に飛び込みました。
「シャオホン! どこだ!?」
クマは、台所をのぞきました。
かまどには、ナベがかかっています。
クマがナベのふたを取ると中からエビが飛び出てきて、手のハサミでクマの鼻をはさみました。
「うわっ。いたたた! こいつめ。はなせえー!」
エビはクマの鼻にぶらさがって、なかなかはなれません。
クマは何とかエビをはなすと、ナベの中にたたきつけました。
「エビめ。ナベでにて、食ってやる!」
クマはまっ赤にはれあがった鼻をさすりながら、かまどに火をつけました。
すると、かまどの中にはばくちくが置いてあったので、
パパーン!
と、ばくちくが、クマの目玉に飛び込みました。
「どひゃー!」
目が見えなくなったクマは、おおあわてです。
「なにも見えん! なにも見えんぞ!」
クマはよろけて、すてんと転んでしまいました。
その転び方があまりにも見事だったので、シャオホンは思わず『プッ』と吹き出してしまいました。
「だれだ! いま笑ったのは! ははあーん、さてはシャオホンだな」
クマはシャオホンのいる方へ、ノッシノッシと近づいてきます。
「ああ、クマが来るよ。シャオホン、どうしよう?」
おばあさんがふるえる声で言うと、シャオホンは手をポンポンとたたきながら飛び出しました。
「クマさん、こっち。手のなる方ヘ」
「こいつめ。おれをバカにしやがって! いますぐ食ってやるぞ!」
クマは音をたよりに、シャオホンに飛びかかろうとしました。
するとツルリンと足がすべって、クマは床にひっくりかえりました。
かしこいシャオホンが、床に油をこぼしておいたのです。
クマはあおむけにひっくりかえったまま、ツルツルとすべっていきます。
「とっ、とまれー!」
クマは手足をばたばたさせましたが、油ですべって起き上がることもできません。
そしてそのまますべって、柱にぶつかりました。
すると柱の上に置いてあった石うすが落ちてきて、
ドシーン!
と、クマはおせんべいのように押しつぶしてしまいました。
「やったわ! クマをやっつけたわ!」
こうして見事にクマをやっつけたシャオホンは、そのクマを町の肉屋さんに売って、売ったお金で食べきれないほどのダイコンを買ったのでした。