その赤い子ウマは足がとても速くて、まるで風のように走る事が出来ます。
村人たちは、みんな、
「あんなに速く走るウマは、見た事がない」
と、ほめていました。
ある日の事、クーナンがいつものように赤い子ウマに乗って野原を走っていると、王さまが家来(けらい)を連れてやってきました。
「おい、お前がクーナンだな」
「はい、王さま。何のご用でしょうか?」
クーナンがたずねと、王さまは赤い子ウマを指さして言いました。
「そのウマを、わしによこせ」
「え? 赤い子ウマを」
クーナンは、きっぱりと断りました。
「いやです。だってこの子ウマは、ぼくの友だちなんです」
すると王さまは、顔をまっ赤して怒りました。
「王の命令だ! はやくウマをよこせ!」
「王さま、待ってください」
クーナンは、赤い子ウマにしがみついてさけびました。
「この子ウマのかわりに、ぼくがどんなけものでもつかまえてきます。ですから、子ウマを連れて行く事だけはやめてください」
「ほほう」
王さまは、ニヤリと笑いました。
「それでは、草原に住む化け物を生けどりにしてこい。もしそれが出来なければ、子ウマをとりあげるぞ」
「ば、化け物を?」
クーナンは、思わず聞き返しました。
それというのも草原に住む化け物とは、どんな勇士でも退治する事が出来ない恐ろしい竜(りゅう)だったからです。
それを聞いて周りにいた人たちが、クーナンに言いました。
「化け物をつかまえるなんて、お前に出来るはずがないよ。はやく王さまにあやまって、子ウマを差し上げた方がいいよ」
「でも???」
クーナンは、返事に困ってしまいました。
「さあ、どうした? 赤い子ウマをよこすか、化け物を生けどりにするか、どっちだ?」
クーナンは、決心しました。
「化け物を、生けどりに行きます!」
「本当だな?」
「はい。ぼくは、うそは言いません」
「よし。ではあすの朝までに、化け物を生けどりにしてこい」
「はい」
クーナンは仲良しの子ウマを王さまにとられてしまうくらいなら、化け物に食べられた方がましだと思いました。
しかしクーナンの家には、病気のお父さんがいます。
もしクーナンが化け物に食べられたりしたら、病気のお父さんはどんなに悲しむでしょう。
「王さまにはああ言ったけど、どうしたらいいんだろう」
クーナンは、考え込んでしまいました。
するとその時、赤い子ウマがクーナンに言いました。
「ぼくに、まかしておけ。クーナン、長い竹のさおの先になわで輪(わ)をこしらえるんだ」
「うん、わかった」
クーナンは赤い子ウマの言う通りの物を作ると、それをかついで子ウマにまたがりました。
「クーナン、急ぐよ」
赤い子ウマは、ものすごい早さで走り出しました。
やがてクーナンたちは、大きな川につきました。
川を渡ろうとすると、さかなやカエルが骨だけになって流れていました。
「まてよ」
クーナンは近くの草むらの草を引き抜くと、それを川に投げ入れました。
するとたちまち、草はとけてなくなりました。
この川は何でもとかしてしまう、おそろしい川だったのです。
そのとき、赤い子ウマがなきました。
「ヒヒーン、ヒヒーン! 風よ来い!」
するといきなり強い風が吹いてきて、クーナンと赤い子ウマを向こう岸まで運んでくれました。
しばらく行くと今度は山が噴火(ふんか)していて、まっ赤に燃えた岩が雨のように降っていました。
「どうしよう? このままじゃ、焼け死んでしまう」
そのとき、赤い子ウマがまたなきました。
「ヒヒーン、ヒヒーン! くもよ来い!」
すると空にうかんでいる白いくもが集まって、二人を守る大きなかさになりました。
燃えた岩がいくら降ってきても、くものかさがはじいてくれます。
ぶじに岩の雨を通り抜けた二人は、今度は青い花が一面に咲いている野原に出ました。
とてもきれいな花なのでクーナンが子ウマをとめて見とれていると、風が吹いてきてクーナンにささやきました。
「この花のミツを飲むと、どんな病気でもすぐ治ってしまうよ」
「そりゃすごいや。病気のお父さんに持って帰ろう」
クーナンはウマからおりると、青い花を集めはじめました。
「おい、赤い子ウマ。お前も手伝ってくれよ」
クーナンがそう言った時、赤い子ウマがなきました。
「ヒヒーン。ヒヒーン。ヒヒーン」
見ると黒いたつまきが現れて、こっちにむかって来るではありませんか。
クーナンは青い花を投げすてると、急いで赤い子ウマに飛び乗りました。
「何だろう。あれは」
すると、赤い子ウマが答えました。
「あれが、草原の化け物だ」
やがて黒いたつまきの中から、九つの首を持つ竜が出てきました。
「ブオオオオオー!」
竜は九つの首を使って、クーナンたちにおそいかかりました。
「クーナン、しっかりつかまっていてよ」
赤いウマは大きくジャンプをして竜の首をよけると、すごいはやさで竜のまわりをグルグルとかけまわりました。
それにつられて、竜の首もグルグル回ります。
そのうちに竜の九つの首がグルグルとからまってしまい、竜は息が出来なくなってきぜつしてしまいました。
「しめた。いまだ!」
クーナンは持ってきた竹の先のなわの輪を竜の首にひっかけると、そのまま竜を引きずって村へ帰って来ました。
クーナンが草原の化け物を生けどりにしたと知って、村人たちは大喜びです。
「ばんざーい。クーナン、よくやったぞ!」
これには、王さまもびっくりです。
「クーナンよ、お前は本当にゆうかんな子どもだ。約束通り、ウマはあきらめよう。そしてお前に、ほうびをやるぞ。この国の大臣にしてやろう」
しかしクーナンは、王さまの申し出を断りました。
「ほうびはいりません。ぼくは、赤い子ウマとお父さんがいればじゅうぶんです」
クーナンはそう言うと病気のお父さんと一緒に赤い子ウマに乗って、村を出て行きました。
そしてあの青い花の咲く野原に家を建てると、元気になったお父さんと子ウマと三人で、楽しく暮らしたということです。