もっているものといえば、たった一頭の白いウマだけです。
毎日、そのウマを粉ひき小屋ではたらかせて、やっと、くらしをたてていました。
白いウマは、くる日もくる日も、おもい臼(うす)をまわして、粉をひきつづけました。
ウマはおとなしく、せっせとはたらきつづけましたが、そのうちに、しごとがいやになりました。
それというのも、よその家ではたらいているウマは、みんな二頭でくみになって臼をひいているのに、じぶんだけはいつも一人ではたらいているのです。
ある日、白いウマは主人にききました。
「ご主人さま。わけをおきかせください。よそのうちのウマはみんな二頭づれなのに、どうしてわたしにはなかまがいないのですか。わたしはもう、ヘトヘトにつかれてしまいました」
すると、主人はこたえました。
「そのわけはかんたんだ。わしが貧乏で、おまえのほかにはウマどころか、イヌ一ぴき、いや、ムシ一ぴきもっていないからだよ」
すると、白いウマはいいました。
「それでは、しばらくわたしにひまをくださいませんか。じぶんで仲間をみつけてまいります」
こうして白いウマは、仲間をさがす旅にでました。
なん日もかかって歩いていくと、キツネの穴がありました。
白いウマは、いいことを思いつきました、
(そうだ。この穴の入り口にねころんで、死んだふりをしてみよう)
その穴には、母ギツネが三びきの子ギツネとすんでいました。
いちばん小さい子ギツネが外へ出ようとしたら、なにか白いものが入り口をふさいでいます。
子ギツネは、それを雪がふっているのだと思いこんで、母ギツネのところへしらせにいきました。
「たいへんだよ、お母さん。外に出られなくなってしまったよ。大雪がふっているんだ」
「大雪ですって! いまは夏じゃないの」
母ギツネは、ビックリしました。
そこで、まん中の子ギツネをよんでいいました。
「おまえ、見にいってごらん。おまえはにいさんなんだから、どういうことなのか、よくしらべてくるのですよ」
まん中の子ギツネが、見にいきました。
弟のいうとおり、入り口は白い大きなものでふさがっていました。
まん中の子ギツネは、母ギツネのところへかえっていいました。
「お母さん、ほんとに出られないよ。やっぱり大雪がふっていた」
「そんなことがありますか。夏だっていうのに!」
母ギツネは、いちばん上の子ギツネにいいつけました。
「こんどは、おまえがいっておいで。おまえは一番年上なんだし、弟たちより世の中を知っているんだから、まちがいのないようによくしらべてくるのですよ」
一番上の子ギツネが見にいきました。
けれどもこたえは、やっぱりおなじでした。
「お母さん。やっぱり雪がふっているんだよ。白いものしか見えないもの」
「ほんとうに、おまえたちはしょうがない。まっておいで。お母さんが見てくるから」
母ギツネは、穴の入り口へいってみました。
入り口はまっ白でしたが、その白くて大きなものが大雪ではなくて白いウマだということが、母ギツネにはすぐにわかりました。
なんとかしてウマをどけなくては、じゃまでこまります。
母ギツネは、子ギツネたちをよびました。
「おまえたち、みんな出ておいで。さあ、てつだっておくれ」
それから親子四ひきがかりで、力いっぱいおしたりひっぱったりしましたが、白いウマをどうしてもうごかすことができません。
母ギツネはしばらくかんがえていましたが、いいことを思いつきました。
そこで母ギツネは家のうら口から抜け出すと、オオカミのところへでかけていきました。
「オオカミさん、オオカミさん。すばらしいえものを手にいれましたよ。うちの穴までひっぱってきたんですけど、あんまり大きすぎて、中に入りませんの。どうでしょう。おたくの穴までいっしょにひっぱってきませんか。そうしてごちそうを、なかよく半分にわけましょう」
オオカミは、思いがけないごちそうにありつけるときいて、たいそう喜びました。
そして、そっと心の中でかんがえました。
(おれの穴にはこびこんだら、もうこっちのものだ。キツネになんかわけてやるものか)
白いウマはあいかわらず死んだふりをして、たおれていました。
大きな白いウマを見て、オオカミはすっかりかんがえこみました。
「キツネさん。いったいどうやったら、こいつをわたしの穴まではこべるだろう?」
母ギツネは、こたえました。
「なんでもありませんわ。わたしはウマのしっぽとじぶんのしっぽをむすびあわせて、ひっぱってきたのですよ。そりゃ、らくなものでしたわ。こんどは、あなたにひっぱっていただきましょう。しっぽをむすびますからね。わけなくはこべてしまいますよ」
「そりゃ、うまいやりかただ。さあ、むすんでくれ」
早くごちそうにありつきたくて、オオカミはウズウズしながらキツネにいいました。
キツネはオオカミのしっぽを白いウマのしっぽに、それはそれはきつくむすびあわせました。
「さあ、オオカミさん。ひっぱってごらんなさい」
力いっぱい、オオカミはひっぱりました。
でも、ウマはびくともしません。
しっぽがちぎれそうになるほどひっぱりましたが、それでもうごきません。
オオカミは、ありったけの力をこめてひっぱろうとしました。
そのとき、白いウマはいきなりはねおきて、そしてものすごいいきおいで走りだしました。
白いウマは、しっぽのさきにオオカミをひきずったまま、ただのひとやすみもせず、走って走って走りつづけて、貧乏な主人のところへかえりつきました。
「ご主人さま、ごらんください。このとおり仲間をつれてまいりました」
喜んだ主人は、すぐにオオカミを鉄砲(てっぽう)でうちころしました。
そしてオオカミの皮を売って、たくさんのお金をもうけました。
そのお金で、もう一頭のウマを買いました。
こうして白いウマは、もう一人で重い臼をまわさなくてもよくなったのです。