毎日教会へいって、
「どうか、幸せにくらせますように」
と、おいのりしていました。
ある日のこと、あしたは朝はやくから教会でおいのりの会があるというので、奥さんは夕ごはんがすむと、すぐにベッドに入りました。
夜中にふと目をさますと、まどから月の光がさしこんでいました。
時計をみると、十二時半のところでハリがとまっています。
(本当の時間は、何時ごろかしら?)
奥さんは心配になって窓を開けて、教会の方を見てみました。
すると教会の窓には、あかあかとあかりがついています。
「いけない! もう朝のおいのりがはじまっているんだわ」
いそいで服を着替えると、マントをはおり、おいのりの本を持って教会へいそぎました。
でも不思議なことに、朝だというのに外はまっ暗で、町はひっそりとしたままです。
誰一人、教会へ行く人がいません。
「へんね。なんだかおかしいわね」
それでも教会へ行ってみると、お堂の中には大勢の人があつまっていました。
奥さんは、あわてて自分の席へ腰をおろしました。
ところがどうも、様子がおかしいのです。
まだおいのりがはじまっていないのに、誰一人、口をききません。
それに、まわりにいる人たちはみんなまっ青な顔色で、まるで死んだ人のようです。
ほとんど知らない人たちばかりで、見覚えのある顔も、どこであったか思い出せません。
やがて牧師(ぼくし)さんがやってきましたが、牧師さんも見たことのない人で、気味が悪くなるほど青白い顔をしていました。
牧師さんが、おせっきょうをはじめました。
お堂の中はあいかわらずしずまりかえり、せきばらいをする人もありません。
(いつもならもっとさわがしいのに、どうしたのかしら?)
奥さんは、なんだか不安になってきました。
やがておいのりの歌がはじまって、式が終わりに近づいてきたころ、奥さんの近くにいた女の人が、耳もとでささやくようにいいました。
「式の終わらないうちに、はやくここを出なさい。グズグズしていたら殺されてしまいます。これは、死んだ人たちのあつまりです」
ビックリして女の人の顔を見ると、ずっと前に亡くなった、近所の人だと気がつきました。
奥さんは、急に体がふるえてきました。
「さあはやく。マントを着ていくのをわすれないで」
女の人にいわれて奥さんはマントをはおると、お堂の中からこっそりぬけだそうとしました。
そのことに気がついているのか、みんな歌を歌いながら、こわい顔で奥さんをにらみつけます。
歌が終われば、すぐに襲いかかってくるにちがいありません。
ようやく出口までたどりついたとき、歌が終わりました。
すると、死んだ人たちがいっせいに奥さんをとりかこみ、マントをつかみました。
(もうだめ!)
それでもむちゅうでマントをぬぎすてて、外へとびだしました。
そして、あとも見ないで必死にかけました。
やっと家にたどりつき、教会の方をふり返ってみたら、教会のあかりはすでに消えていました。
奥さんはホッとして、時計を見ました。
すると止まっていたはずの時計のハリが、ちょうど一時をさしていました。
奥さんはもうおそろしくて、朝になっても教会へは行きませんでした。
町の人たちが教会へきてみると、不思議なことに、ズタズタにひきさかれた奥さんのマントが落ちていたということです。