ある日、王さまは王子をよんでいいました。
「王子たちよ。野原へいって、そこで矢をいるがいい。矢のおちたところにいた娘をおきさきにするのじゃ」
三人の王子は野原へ行くと、自分の好きなほうに矢をはなちました。
一番上の王子の矢は、貴族(きぞく)のやしきの庭におちて、貴族の娘にひろわれました。
二番目の王子の矢は、金持ちの商人のやしきの庭におちて、商人の娘にひろわれました。
すえっ子のイワン王子は、矢をおいかけてドンドン走っていくと沼(ぬま)に出ました。
見ると、カエルが矢をくわえています。
「カエルよ。ぼくの矢をかえしておくれ」
すると、カエルがこたえました。
「わたしをおきさきにしてくださいな。おねがいです。きっと、いいおきさきになりますから」
カエルがあまりにたのむので、しかたなく、イワン王子はカエルをつれてお城へかえりました。
ある日、王さまは三人の王子をよんでいいました。
「おまえたちのおきさきのうちで、だれが一番さいほうが上手だろう。あすの朝までに、わしの上着をぬってもってきなさい」
イワン王子は、こまってしまいました。
カエルのおきさきに、王さまの上着なんてぬえるはずがないと思ったからです。
「イワン王子さま、なにをそんなに考えこんでいるのですか?」
カエルのおきさきが、たずねました。
イワン王子が王さまの上着のことをはなしますと、カエルのおきさきは、やさしい声でいいました。
「ご心配なさらないで、王子さま。あすの朝までに、かならずぬっておきますから」
イワン王子が朝おきてみると、テーブルの上に金や銀のかざりのついた、みごとな上着ができあがっていました。
イワン王子は大よろこびで、上着をもってお城へでかけていきました。
二人のにいさんの王子たちも、それぞれみごとな上着をもってやってきました。
王さまはイワン王子のおきさきがぬった上着を手にとると、いいました。
「これはなんとすばらしい上着じゃ。わしはまえから、金や銀のかざりのついた、こんな赤い上着がほしかったのじゃ。さっそく、こんどのおまつりに着るとしよう。イワンのおきさきは、カエルだと思ってバカにしていたが、一番さいほうが上手じゃわい」
そしてこんどは、あすの朝までにパンをやいてくるように、王子たちにいいつけました。
あくる朝、イワン王子は、みごとにやきあがっているパンをもって、お城へでかけていきました。
王さまは、そのパンを食べると、まんぞくそうにいいました。
「ああ、わしははじめて、こんなにおいしいパンをたべた。イワンのおきさきのつくったパンが一番うまい。さて、王子たちよ、あすのパーティーには、おきさきをつれてくるがいい」
イワン王子は、こまってしまいました。
カエルのおきさきをつれていったら、みんなにわらわれるにきまっています。
ところがカエルのおきさきは、またやさしくいいました。
「ご心配いりません。王子さまは先に行っていてください。わたしはあとから、きっとまいりますから」
つぎの日、上の二人の王子は、うつくしく着かざったおきさきをつれて、とくいそうにやってきました。
そして、イワン王子が一人できたのを見ると、こういってからかいました。
「なぜおまえは、おきさきをつれてこなかったんだい。ハンカチにでもくるんで、つれてくればよかったのに」
そのとき、ひづめの音をひびかせて、六頭だての馬車(ばしゃ)がお城につきました。
「イワン王子の、おきさきさまのおつきーっ!」
馬車からおりてきたのは、目もさめるようなうつくしいおきさきです。
みんなは、ビックリ。
まさか、カエルがこんなにうつくしい女の人になれるとは、思わなかったからです。
イワン王子とおきさきは、たのしくダンスをおどりました。
パーティーからかえると、げんかんにカエルの皮がぬぎすててありました。
イワン王子は、いそいでそれを火のなかにくべてしまいました。
カエルの皮がなくなれば、おきさきはもう、カエルにもどれないと思ったのです。
でも、それを見たおきさきは、
「なにをなさるの!」
と、いって、なきだしてしまいました。
そして、なきながら、みのうえをはなしはじめました。
「わたしは、ある国の王女だったのですが、わるい魔法使いのために、カエルにされてしまいました。王さまの上着をぬうとき、パンをやくとき、そしてパーディーにいくとき、わたしがこまっていたら、召使いたちがきてたすけてくれたのです。でも、カエルの皮がなくなってしまったら、わたしはこわい魔法使いのところへいかなくてはなりません。あと三日で、魔法がとけるはずでしたのに」
おきさきは、なきながらどこかへいってしまいました。
イワン王子は、どんなにかなしんだでしょう。
でも、かなしんでばかりはいられません。
勇気をだして、魔法使いたいじにでかけました。
あてもなく、ドンドンあるいていくうちに、クツも洋服もボロボロにやぶれてしまいました。
それでも、元気よく旅をつづけました。
森をあるいていくと、おじいさんにあいました。
おじいさんは、イワン王子がおきさきをさがしているのを知ると、こういいました。
「このマリをさしあげよう。マリのころがっていくところに、きっとおきさきがおいでじゃ。三十の国をこえた遠いところじゃが、けっしてへこたれてはなりませんぞ」
イワン王子はマリをころがしながら、長い旅をつづけて、やっと魔法使いの家につきました。
「魔法使いめ、でてこい!」
こしの短剣をひきぬいて、イワン王子はさけびました。
「とうとうやってきたな。ようし、わしの魔法でこらしめてやる」
でてきた魔法使いの手には、カエルがつかまえられています。
でもイワン王子は、魔法使いが呪文(じゅもん)をとなえるより早く、短剣を心臓(しんぞう)めがけてつきさしました。
「ウギャーー!」
すると、あたりがきゅうにかがやいて、カエルはうつくしいおきさきにもどったのです。
イワン王子とおきさきはお城へかえって、たいへんしあわせにくらしました。