「鏡が見せてくれるのは、心の一番奥おく底そこにある一番強い『のぞみ』じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。君は家族を知らないから、家族に囲まれた自分を見る。ロナルド・ウィーズリーはいつも兄弟の陰かげで霞かすんでいるから、兄弟の誰よりもすばらしい自分が一人で堂どう々どうと立っているのが見える。しかしこの鏡は知ち識しきや真しん実じつを示してくれるものではない。鏡が映すものが現実のものか、はたして可能なものなのかさえ判はん断だんできず、みんな鏡の前でへとへとになったり、鏡に映る姿に魅み入いられてしまったり、発狂はっきょうしたりしたんじゃよ。
ハリー、この鏡は明あ日すよそに移す。もうこの鏡を探してはいけないよ。たとえ再びこの鏡に出会うことがあっても、もう大だい丈じょう夫ぶじゃろう。夢に耽ふけったり、生きることを忘れてしまうのはよくない。それをよく覚えておきなさい。さぁて、そのすばらしいマントを着て、ベッドに戻ってはいかがかな」
ハリーは立ち上がった。
「あの……ダンブルドア先生、質問してよろしいですか」
「いいとも。いまのもすでに質問だったしね」
ダンブルドアはほほえんだ。
「でも、もうひとつだけ質問を許そう」
「先生ならこの鏡で何が見えるんですか」
「わしかね 厚あつ手でのウールの靴くつ下したを一足、手に持っておるのが見える」
ハリーは目をパチクリした。
「靴くつ下したはいくつあってもいいものじゃ。なのに今年のクリスマスにも靴下は一足ももらえなかった。わしにプレゼントしてくれる人は本ばっかり贈おくりたがるんじゃ」
ダンブルドアは本当のことを言わなかったのかもしれない、ハリーがそう思ったのはベッドに入ってからだった。でも……ハリーは枕まくらの上にいたスキャバーズを払い退のけながら考えた――きっとあれはちょっと無ぶ遠えん慮りょな質問だったんだ……。