むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでおりました。春のお彼岸《ひがん》のこと、彼岸だんごというのをこしらえておりました。ところが、一つのだんごが、庭に落ちて、土の上をコロコロころがっていきました。
おどろいたおじいさんが、そのあとを追っかけていきますと、生きているようにころがって、なかなかつかまりません。それで、
「だんご、だんご、どこまでころぶ。」
と、おじいさんがいいました。
そうすると、そのだんごは、
「お地蔵《じぞう》さんの穴《あな》までころぶ。」
そういって、とうとう一つの穴の中にころげこんでしまいました。すると穴の底は広くて、そこにお地蔵さんが立っていました。そのお地蔵さんの前で、おじいさんは、やっとだんごをつかまえました。
「やれやれ、やっとつかまえた。」
そういって、おじいさんは、そのだんごを目の前に持ってきてみましたが、べつに変っただんごでもありません。それで土のついていないところを割って、お地蔵さんにおそなえしました。そして、
「お地蔵さん、半分ですみませんが、だんごをあがってください。」
そういって、残った、土のついたほうは、自分で食べました。それからお地蔵さんにおじぎをして、帰ろうといたしますと、
「じいさん、じいさん。」
と、お地蔵さんによびとめられました。
「おれのひざの上にあがりなさい。」
お地蔵さんはいうのです。
「どういたしまして、お地蔵さん、それは、もったいなくて、あがれません。」
おじいさんがいいました。
「よいから、よいから、えんりょせずにあがりなさい。」
お地蔵さんに強くいわれて、おじいさんはなんのことかわからず、
「はい、はい、さようでございますか。それではごめんくださいませ。」
そういって、こわごわひざにあがりました。すると、お地蔵さんが、
「こんどは肩《かた》にあがりなさい。」
と、いいました。
これを聞いて、おじいさんは、もう、びっくりしてしまいました。
「なにをおっしゃいます。お地蔵さん。ここまでやっとあがりましたのに——」
そういいますと、
「いやいや、えんりょはあとでよい。とにもかくにもあがりなさい。」
またお地蔵さんにせきたてられ、おじいさんはそろそろ肩に登りました。
すると、また、お地蔵さんは、
「それから頭に登っていくんだ。」
と、いうのでした。
「へ、へ、どうして、お地蔵さんはむりなことをおっしゃいます。おそれおおくて、もうこのうえは。」
おじいさんは、またまた、えんりょをいたしました。しかし、お地蔵さんがどうしても聞きませんので、それではと、思いきってお地蔵さんの頭の上に登りました。
すると、お地蔵さんは一本のおうぎをだして、
「今夜、ここに鬼《おに》がきて、酒盛《さかも》りをはじめるからな。よいころを見はからって、このおうぎをたたいて、ニワトリの鳴《な》くまねをしなさい。」
そう教えてくれました。
すると、それからしばらくして、ゾロゾロガヤガヤと、たくさんの鬼どもがやってきました。そして、車座《くるまざ》にならんで、酒を飲みました。
酔《よ》うと、すぐ、大さわぎをはじめました。そこでよいかげんのころを見はからって、おじいさんは、お地蔵さんに教えられたとおり、バタバタとおうぎをたたきました。これはニワトリが羽《はね》を打つまねなのです。それから、
「コッケコーコー。」
と、やりました。これを聞くと、鬼どもは、
「それ、もう夜があける。」
と、大あわてにあわてて、そこへ持ってきていたお金や、宝物《たからもの》や、お酒や、ごちそうや、みんなすてておいて、逃げていってしまいました。おじいさんは、そのありさまをながめながら、お地蔵さんの頭の上で、あっけにとられておりました。
すると、お地蔵さんが、
「そら、じいさん、鬼の残していったお金や、お宝や、お酒や、ごちそうは、みんなおまえにあげるから、えんりょなしに、持っていきなさい。」
そういうのでありました。
「はい、はい。」
そうはいったものの、おじいさんはおそろしかったり、えんりょだったりして、大いそぎで、頭の上からおりたまま、そこに立って、もじもじしておりました。すると、お地蔵さんが、また、心配ない、持っていけ、持っていけと、強くいうものですから、
「それでは、あいすみませんが、いただいてまいります。」
そういって、お金やお宝物など、たくさん持って帰ってきました。
もう朝になっていましたが、家ではおばあさんが、ころがっただんごを追っかけていって、いつまでも帰らないおじいさんを心配して待っていました。そこへ、そんなおみやげを持って帰ってきたものですから、まあまあと、びっくりするやら喜ぶやら、ふたりは、それを座敷《ざしき》にひろげてながめていました。ところが、そこへちょうど、となりのおばあさんが遊びにきました。そして、そのふたりがひろげているものをみて、おどろきました。
「まあ、どこから、そんなにたくさんのお宝を、もうけてきたのです。」
となりのおばあさんはいうのです。それで、おじいさんは、きのうからあったことを、そっくり話しました。
すると、となりのおばあさんは、
「それでは、うちのおじいさんも地蔵さんの穴へやりましょう。」
そういって、いそいで家にかえり、おじいさんといっしょに、だんごを作りました。そして、一つを、
「それ、ころべい。」
と、庭に落としてやりました。しかし、ちっともころばないので、そのおじいさんは、だんごを足でけって、むりやり穴の中にけこみました。それから自分も、のこのことはいっていきました。
お地蔵さんの前へ行って、みるとだんごが土まみれになってころがっていました。きれいなところを自分で食べ、土のところを、お地蔵さんにそなえました。そうして、なんともいわないのに、さっさと、お地蔵さんの頭のてっぺんに登り、だまっておうぎをとって、待っていました。
鬼《おに》はやっぱりやってきて、酒盛りをはじめました。そこでころあいを見て、パタパタとおうぎをたたき、コッケコーコーとやりました。鬼どもは、いやに夜あけが早いなあ、などといいながら、あわてて逃げていきました。
しかし、そのとき、一ぴきの小鬼が、いろりのかぎに鼻をひっかけ、
「やあれまちろや鬼どもら、
かぎさ鼻あ、ひっかけた。」
と、わめいたので、おじいさんは、思わず、くすくすと、笑いました。
これを聞くと、鬼どもは、それ人間の声がしたと、ほうぼうさがしまわって、とうとうお地蔵さんの頭の上の、となりのおじいさんを見つけだしてしまいました。そして、そこからおじいさんをひきずりおろし、とてもひどいめにあわせました。
鬼が残していく宝物を拾うかわりに、やっとじぶんの命を拾って、帰ってきました。あんまり人まねをするものではないというお話であります。
おどろいたおじいさんが、そのあとを追っかけていきますと、生きているようにころがって、なかなかつかまりません。それで、
「だんご、だんご、どこまでころぶ。」
と、おじいさんがいいました。
そうすると、そのだんごは、
「お地蔵《じぞう》さんの穴《あな》までころぶ。」
そういって、とうとう一つの穴の中にころげこんでしまいました。すると穴の底は広くて、そこにお地蔵さんが立っていました。そのお地蔵さんの前で、おじいさんは、やっとだんごをつかまえました。
「やれやれ、やっとつかまえた。」
そういって、おじいさんは、そのだんごを目の前に持ってきてみましたが、べつに変っただんごでもありません。それで土のついていないところを割って、お地蔵さんにおそなえしました。そして、
「お地蔵さん、半分ですみませんが、だんごをあがってください。」
そういって、残った、土のついたほうは、自分で食べました。それからお地蔵さんにおじぎをして、帰ろうといたしますと、
「じいさん、じいさん。」
と、お地蔵さんによびとめられました。
「おれのひざの上にあがりなさい。」
お地蔵さんはいうのです。
「どういたしまして、お地蔵さん、それは、もったいなくて、あがれません。」
おじいさんがいいました。
「よいから、よいから、えんりょせずにあがりなさい。」
お地蔵さんに強くいわれて、おじいさんはなんのことかわからず、
「はい、はい、さようでございますか。それではごめんくださいませ。」
そういって、こわごわひざにあがりました。すると、お地蔵さんが、
「こんどは肩《かた》にあがりなさい。」
と、いいました。
これを聞いて、おじいさんは、もう、びっくりしてしまいました。
「なにをおっしゃいます。お地蔵さん。ここまでやっとあがりましたのに——」
そういいますと、
「いやいや、えんりょはあとでよい。とにもかくにもあがりなさい。」
またお地蔵さんにせきたてられ、おじいさんはそろそろ肩に登りました。
すると、また、お地蔵さんは、
「それから頭に登っていくんだ。」
と、いうのでした。
「へ、へ、どうして、お地蔵さんはむりなことをおっしゃいます。おそれおおくて、もうこのうえは。」
おじいさんは、またまた、えんりょをいたしました。しかし、お地蔵さんがどうしても聞きませんので、それではと、思いきってお地蔵さんの頭の上に登りました。
すると、お地蔵さんは一本のおうぎをだして、
「今夜、ここに鬼《おに》がきて、酒盛《さかも》りをはじめるからな。よいころを見はからって、このおうぎをたたいて、ニワトリの鳴《な》くまねをしなさい。」
そう教えてくれました。
すると、それからしばらくして、ゾロゾロガヤガヤと、たくさんの鬼どもがやってきました。そして、車座《くるまざ》にならんで、酒を飲みました。
酔《よ》うと、すぐ、大さわぎをはじめました。そこでよいかげんのころを見はからって、おじいさんは、お地蔵さんに教えられたとおり、バタバタとおうぎをたたきました。これはニワトリが羽《はね》を打つまねなのです。それから、
「コッケコーコー。」
と、やりました。これを聞くと、鬼どもは、
「それ、もう夜があける。」
と、大あわてにあわてて、そこへ持ってきていたお金や、宝物《たからもの》や、お酒や、ごちそうや、みんなすてておいて、逃げていってしまいました。おじいさんは、そのありさまをながめながら、お地蔵さんの頭の上で、あっけにとられておりました。
すると、お地蔵さんが、
「そら、じいさん、鬼の残していったお金や、お宝や、お酒や、ごちそうは、みんなおまえにあげるから、えんりょなしに、持っていきなさい。」
そういうのでありました。
「はい、はい。」
そうはいったものの、おじいさんはおそろしかったり、えんりょだったりして、大いそぎで、頭の上からおりたまま、そこに立って、もじもじしておりました。すると、お地蔵さんが、また、心配ない、持っていけ、持っていけと、強くいうものですから、
「それでは、あいすみませんが、いただいてまいります。」
そういって、お金やお宝物など、たくさん持って帰ってきました。
もう朝になっていましたが、家ではおばあさんが、ころがっただんごを追っかけていって、いつまでも帰らないおじいさんを心配して待っていました。そこへ、そんなおみやげを持って帰ってきたものですから、まあまあと、びっくりするやら喜ぶやら、ふたりは、それを座敷《ざしき》にひろげてながめていました。ところが、そこへちょうど、となりのおばあさんが遊びにきました。そして、そのふたりがひろげているものをみて、おどろきました。
「まあ、どこから、そんなにたくさんのお宝を、もうけてきたのです。」
となりのおばあさんはいうのです。それで、おじいさんは、きのうからあったことを、そっくり話しました。
すると、となりのおばあさんは、
「それでは、うちのおじいさんも地蔵さんの穴へやりましょう。」
そういって、いそいで家にかえり、おじいさんといっしょに、だんごを作りました。そして、一つを、
「それ、ころべい。」
と、庭に落としてやりました。しかし、ちっともころばないので、そのおじいさんは、だんごを足でけって、むりやり穴の中にけこみました。それから自分も、のこのことはいっていきました。
お地蔵さんの前へ行って、みるとだんごが土まみれになってころがっていました。きれいなところを自分で食べ、土のところを、お地蔵さんにそなえました。そうして、なんともいわないのに、さっさと、お地蔵さんの頭のてっぺんに登り、だまっておうぎをとって、待っていました。
鬼《おに》はやっぱりやってきて、酒盛りをはじめました。そこでころあいを見て、パタパタとおうぎをたたき、コッケコーコーとやりました。鬼どもは、いやに夜あけが早いなあ、などといいながら、あわてて逃げていきました。
しかし、そのとき、一ぴきの小鬼が、いろりのかぎに鼻をひっかけ、
「やあれまちろや鬼どもら、
かぎさ鼻あ、ひっかけた。」
と、わめいたので、おじいさんは、思わず、くすくすと、笑いました。
これを聞くと、鬼どもは、それ人間の声がしたと、ほうぼうさがしまわって、とうとうお地蔵さんの頭の上の、となりのおじいさんを見つけだしてしまいました。そして、そこからおじいさんをひきずりおろし、とてもひどいめにあわせました。
鬼が残していく宝物を拾うかわりに、やっとじぶんの命を拾って、帰ってきました。あんまり人まねをするものではないというお話であります。