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海嶺27

时间: 2020-02-28    进入日语论坛
核心提示:角帆     二「ま、一服せんか音吉」朝食の後始末を終えるとすぐ、炊《かしき》たちは昼食の用意をしなければならない。その
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角帆
     二
「ま、一服せんか音吉」
朝食の後始末を終えるとすぐ、炊《かしき》たちは昼食の用意をしなければならない。その昼食の用意も終えたが、音吉はあたりの雑巾《ぞうきん》がけに精を出していた。
「うん、これで終わりだで」
にこっと笑って、音吉は久吉をふり返った。
「お前がいるとよ、よく働くから俺も助かるけどな。だけど……」
「だけど何や?」
洗った雑巾をきちんと片隅に置き、音吉が聞き返した。
「だけどな、あんまり働かれるとな、こっちは怠《なま》けられんでな」
久吉が口を尖《とが》らせた。
「そりゃ悪かったな。だけど性分《しようぶん》だでな。そう簡単になおらんで」
二人は作業|甲板《かんばん》に出た。
風を大きく孕《はら》んだ角帆が、音吉にはのしかかるように見える。二尺五寸幅|程《ほど》の帆布《はんぷ》を何枚もつなぎ合わせた二十八|反《たん》帆は、宝順丸を包みこむほどの大きさだ。
「なあ、音吉。帆の大きさは、固いところ一体どのくらいあるんやろう」
帆を見上げる音吉に久吉が聞いた。
「よう知らんけど、長さも幅も七十尺は超えるんやないか」
「ふーん、七十尺なあ」
今更のように久吉は帆を見上げた。音吉も、こののしかかるような帆の大きさには、いつも目を見張る思いがする。
「ほんとに大きいなあ久吉。これがな、昔は全部|刺帆《さしほ》だったんやで」
「刺帆? ああ、二枚合わせて刺した帆やな」
「そうや。けどな、この頃《ごろ》は松右衛門帆が多いやろ。織帆《おりほ》な」
松右衛門とは、刺帆を改良した播州高砂《ばんしゆうたかさご》の元船頭松右衛門のことだ。刺帆の面倒を避けて、帆をはじめから太い糸で織ったものだ。天保の今の世に刺帆を用いる船は少なく、この松右衛門帆がほとんどだ。この織帆は、刺帆よりはるかに丈夫なのだ。
「ところで音吉、お前十四やな」
久吉がにやにやした。
「十四や。久吉より一つ下だでな」
「十四言うたら、もう子供ではあらせんな」
「まだ子供や」
音吉は、久吉が何を言おうとしているかを察して、船べりに体を寄せた。水脈《みお》が長く尾を引いている。秋日を返して、眩《まば》ゆい海であった。とうに熱田は見えず、右手に知多半島、左手に鈴鹿山脈がつらなっていた。
「お前、お琴と寝たか」
「何を言う。わしとお琴は、まだ祝言《しゆうげん》をしとらんのやで」
「阿呆《あほ》やな、音吉は」
「阿呆?」
「阿呆に決まっとる。祝言などどうでもいいんや。そんなこと、音吉だって知っとるやろ」
音吉は黙って、再び水脈に目をやった。音吉はこの水脈を見るのが好きだ。荒い泡《あわ》が遠ざかるに従って細かくなり、それが更《さら》に粉のように白くなり、やがてはすうっと水の中に消えていく。見ていて、何となく胸をしめつけられるような甘い淋《さび》しさがあった。
「いつかも言ったやろう、音吉。女子《おなご》はな、嫁入りまではみんなのもんや。いつ誰が夜這《よば》いに行くか、わからせんで」
「大丈夫や。お琴は操《みさお》が堅いでな」
「操が堅い?」
久吉の笑い声が、波の上に、風にちぎれて飛んだ。
「何を笑うんや」
「この間なあ、桶屋《おけや》のお静が嫁に行ったやろ」
「うん、行った行った」
音吉は、うりざね顔の静の顔を思い浮かべてうなずいた。目鼻立ちの整った、だが少し冷たい感じのする娘だった。
「俺、あのお静の所にな、夜這いに行ったことがあるんやで」
誇らしそうに、久吉は音吉を見た。
「お静の所へ?」
音吉は信じられなかった。静は、みだりに男を近づけるような、そんな雰囲気は持っていない。
「そうや。あの娘《こ》、着痩《きや》せして見えるけど、肉づきのいい、むっちりとした娘やったで」
「そんな」
音吉は久吉が出たらめを言っていると思った。
「久吉、あれは堅い筈《はず》の女や」
「阿呆《あほ》を言うな。女に堅いも柔らかいもあらせんで。お琴も同じや」
久吉はからかった。
「ちがう! お琴は別や」
音吉は真に受けて言い返す。
と、その時、傍《かたわ》らを足音も荒く、艫《とも》の端に歩いて行った男がいた。岩松だった。そのうしろ姿が、音吉にはなぜか親しみ深く見えた。岩松はすぐに二人のほうに引き返して来た。
「岩松つぁん」
人なつっこく久吉が呼んだ。が、岩松はじろりと久吉を見ただけで、二人の傍らを足早に通り過ぎた。
「何や、あいつ」
久吉は首をすくめて見せた。音吉は黙って、知多半島のほうに目をやった。もうすぐ常滑《とこなめ》が見えてくる筈《はず》だ。久吉が音吉の傍《そば》にすり寄って、
「あいつ、偏屈やな」
と、ささやいた。
「うん。偏屈やけど、俺好きや」
「ふーん。あったらもんが好きか。ま、音吉は鬼でも仇《かたき》でも好きなほうだでな」
と笑って、
「お前見たろう。岩松つぁんのおかみさん」
「うん」
思わず音吉は大きくうなずいた。今朝《けさ》、常夜灯を背に、じっと岩松をみつめていた絹のたおやかな姿は、音吉の目にも焼きついている。全身で何かを訴えるような、悲しみのみなぎった姿であった。
「きれいな人やったろ」
「うん、きれいやった。やさしい感じだったな」
「いつか、俺の言うたとおりやろ。観音《かんのん》さまみたいやろ」
「観音さまって、見たことはないけどな」
音吉は、観音さまと絹はちがうような気がした。
「お琴より、きれいやろ」
久吉は音吉の顔をのぞきこんだ。
「そうとも言えんで。お琴はまだ十四だでな、大人とはちがうわな。だけどお琴はいつもかわいい顔をしとるわ」
「こいつ、ぬけぬけと言うわ」
と、久吉は人差し指で音吉の額をこづいたが、再び声をひそめて、
「だけどな、あの岩松の家にな、時々若い男がささりこんでいたんやで」
久吉は音吉の耳に口をつけて言った。
「まさか」
音吉の声が、思わず大きくなった。
「しっ!」
久吉は口に指を立て、
「ほんとやで。紺の半纏《はんてん》の似合う、いなせな男やで」
「…………」
「岩松つぁんがいないと知ると、ちょろりとやって来てよ。俺、毎日、半月もあのあたりをうろうろしてたでな。俺、ちゃあんと見てたわ」
久吉は妙に大人臭い顔になった。
「だけどな音吉、こんなこと、誰にも言ったらいかんで。舵取《かじと》りは滅法腕《めつぽううで》っ節《ぷし》が強いでな」
と、舳《へさき》のほうをあごでしゃくった。
「久吉、けど、あのおかみさんは、ほかの男なんか、目もくれんやろ」
「さあ、なあ。何せ、男と女だでなあ」
久吉はそう言って、自分自身でうなずき、
「あ、常滑だ。常滑が見えた」
と、陸を指さして、邪気のない声を上げた。幾箇所《いくかしよ》から、陶器を焼く窯《かま》の煙か、横になびく白い煙が見えた。
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