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海嶺28

时间: 2020-02-28    进入日语论坛
核心提示:角帆     三 船は師崎《もろざき》に近づいていた。師崎には船奉行千賀志摩守《ふなぶぎようせんがしまのかみ》がその任に
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角帆
     三
 船は師崎《もろざき》に近づいていた。師崎には船奉行千賀志摩守《ふなぶぎようせんがしまのかみ》がその任に当たっていた。尾張藩《おわりはん》から、その船奉行へ届ける品があって、宝順丸は師崎に寄ることになっていた。
「さあて、師崎が見えて来たぞ」
三の間の合羽《かつぱ》(甲板《かんばん》)にくくりつけた伝馬船《てんません》に坐《すわ》っていた岩松が立ち上がった。舵取《かじと》りの岩松は、常時この伝馬船に坐って、山立てをし、また岩礁《がんしよう》や、他の船を見張り、進路を定めるのだ。
日は既《すで》に没して、夕闇《ゆうやみ》が海の面を覆《おお》いはじめていた。岩松は注意深く波間を見つめながら、
「とりかーじ」
と大声を上げる。胴の間の積み荷の上に中継ぎの水主《かこ》がいて、岩松の言葉を受けて叫ぶ。と、艫櫓《ともやぐら》の上で、舵柄《かじつか》に取りついていた二人の水主が、
「とりかーじ」
と復唱し、力を合わせて舵柄をまわす。帆はすでに三分まで下がっている。
師崎の港に碇《いかり》をおろす頃《ころ》は、あたりはもうすっかり暗かった。水主たちはその暗い海に、碇《いかり》をおろした。四つの爪《つめ》を持つ八番碇だ。宝順丸の舳《へさき》には、百二十貫の一番碇から八番碇までが積みこまれている。二番碇は百十五貫、三番碇は百十貫と、五貫刻みになっている。
碇をおろし、帆も下げ終わった頃、風は待っていたかのように、ぱたりと落ちた。水主部屋の一劃《いつかく》にある炊事場《すいじば》では音吉と久吉が炊頭《かしきがしら》を助けて夕食の仕度《したく》をしていた。
「おだやかやったなあ、今日の伊勢湾は。なあ久吉」
目刺しを焼きながら音吉が言う。焼き上がった目刺しを久吉が次々に皿につけている。
「おだやかなのは、伊勢湾だけやでな。明日からはわからんで」
久吉が先輩面をする。
(そんなことはわかっとる)
音吉も江戸までは去年二度行っている。
「そやそや、明日からはわからんでえ。秋の遠州灘《えんしゆうなだ》は恐ろしいでな」
他の水主《かこ》たちと共に、今まで帆の身縄《みなわ》をろくろで巻きほどいていた兄の吉治郎がろくろの傍《かたわ》らで言う。炊《た》き上がった飯の甘い匂いが、目刺しの匂いと共に、水主部屋一杯に満ちている。吊行灯《つりあんどん》が四つ天井から吊るされ、それが船のかすかなたゆたいと共に動く。
「何が恐ろしいか、この意気地《いくじ》なしが」
板壁に背をもたせて煙管《きせる》を銜《くわ》えていた利七が笑った。利七は人一倍威勢のいい男だ。吉治郎はむっとして、
「何い、嵐に遭《あ》ったこともないもんに、遠州灘の恐ろしさがわかるか」
吉治郎は利七より年下だが、船に乗った回数は多い。炊頭《かしきがしら》の勝五郎が、一|升徳利《しようどくり》を二本、部屋の真ん中に置き、
「灘の生《き》一本はうまいが、灘の嵐はうまいとは言えんでなあ」
と、冗談めかして吉治郎の肩を持った。確かに、熊野灘から遠州灘にかけて海難事故が多い。特に秋から冬にかけて事故が多発する。シベリヤからの北西季節風が吹きよせるからだ。台風とちがって、季節風は何日も吹きまくるのだ。
「俺だって遠州灘の嵐は知ってるぜい。が、恐ろしいなんぞという言葉を吐くことが、意気地なしだと言うてるんだ」
利七は、煙管を煙草盆に強く打ちつけた。と、その時、操船場からの急な梯子《はしご》を伝わって、他の水主たちがどやどやと入って来た。同時に船頭部屋から重右衛門が、三役部屋から水主頭の仁右衛門と、岡廻《おかまわ》りの六右衛門が水主部屋に入って来た。
利七と吉治郎の様子に、いち早く気づいた仁右衛門が、
「若いもんは腹が減ると、すぐに喧嘩《けんか》をおっぱじめるわい」
と、窓際にどっかとあぐらをかいた。重右衛門は、
「いや、結構結構、元気のある証拠だでな」
と笑った。利七も吉治郎も、頭を掻《か》いた。刺し子を着、股引《ももひき》姿の水主《かこ》たちはあぐらをかいて輪になった。
「ところで親方ぁ、今夜は陸《おか》に上がってもいいんですかい」
水主頭の仁右衛門が言った。
「さてのう。風次第では、夜をかけたほうがいいこともあるでのう」
「そりゃあそうだが親方、今夜ぐらいは……」
言いかける水主に、
「水主頭、やっぱり舵取《かじと》りの意見も聞いてみなければのう」
と、おだやかにおさえて一座を見まわし、
「おや、まだ舵取りが戻《もど》っていない。音、すぐに呼んで来い」
と命じた。音吉が直ちに部屋を出ようとした時、誰かが言った。
「舵取りは大方、師崎の灯にみとれているんじゃろう。何せ、かかあのいた師崎だでな」
何人かが卑猥《ひわい》な笑い声を立てた。
「そんなことを言うもんじゃねえ」
重右衛門の声を背に、音吉は梯子《はしご》を登って艫櫓《ともやぐら》の上に出た。真上に星が出ている。が、東のほうには、雲があるのか星は見えない。音吉は両手を口に叫んだ。
「おーい、舵取《かじと》りさーん。飯の用意ができたでー」
岩松はこの声を、三の間の合羽《かつぱ》の上で聞いた。が、岩松はじっと、師崎の街の灯をみつめていた。近くの船宿の障子《しようじ》に、華やぐ灯りと人影が見える。街には明るい灯、うす暗い灯が点々とつづく。数年前まで、この灯の中に、妻の絹も住んでいた。じっとみつめていると、思い出すのは絹の顔よりも、絹の母、かんの顔であった。岩松から金を取らぬ仲になったことを知って、かんは絹を苛《さいな》んだ。ある夜、かんは、絹の長い髪をぐるぐると手に巻きつけて、引き倒した。悲鳴を上げる絹に、見かねた岩松はそのかんを殴《なぐ》り倒した。翌朝、かんは死んだ。そのことがどうしても思い出されてくるのだ。
(あんな因業《いんごう》な婆は死んだっていい)
そう思うのだが、じっと師崎の灯を見つめていると、かんの顔がどうしても大きく浮かぶ。
(別に俺が殺したわけじゃねえ)
そう思っても見る。だが、どうしてこうも、かんの顔が目の前に迫ってくるのか。
「舵取りさーん。親方さまがお呼びだでー」
精一杯に叫ぶ音吉の声が聞こえる。悲しいほどに澄んだ声だ。
(やっぱり俺が殺したのかなあ)
(いや、あれまでの寿命だったんだ)
(第一、あの婆が生きてりゃあ、絹が幸せにはなれなかった)
岩松は、絹が自分は幸せだと言った言葉を思ってみる。
(とにかく、お絹が幸せならそれでいいんだ)
岩松は、かんの凄《すさ》まじい形相《ぎようそう》を追い払うように立ち上がった。見上げる夜空に、星の光が強かった。
「星の光が強すぎる!」
岩松は口を歪めた。星の光が強いのは、明日の強風を予告していると見たからだ。と、近くで、三度音吉の声がした。
「舵取りさーん。みんなの顔がそろったでえー」
「わかった。今行くと言え」
「はーい」
音吉の黒い影が、積み荷の上を素早く走って消えた。岩松は再び夜空を見上げた。
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