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海嶺38

时间: 2020-02-28    进入日语论坛
核心提示:黒瀬川     四 音吉は開《かい》の口《くち》から、綱をつけた手桶《ておけ》を海の中にするするとおろした。音吉は海をの
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黒瀬川
     四
 音吉は開《かい》の口《くち》から、綱をつけた手桶《ておけ》を海の中にするするとおろした。音吉は海をのぞきこんだ。青い海だ。開の口から水面まで、六尺はある。音吉はふっと、小野浦のわが家の裏にある井戸を思った。井戸の中に落とした釣瓶《つるべ》は、ばちゃんと谺《こだま》して、自分の影が散ったものだ。が、海におろした手桶は、音も立てずに、いきなりぐいと重い手応《てごた》えがした。音吉は素早く綱を手《た》ぐる。両足を台に踏んばって、息を詰めて手ぐる、台の傍《かたわ》らには五|升《しよう》の米を入れた桶があり、それに並んでもう一つの空桶がある。
「どれ」
いつのまに傍《そば》に来たのか、兄の吉治郎が手伝って、開の口から桶を運んでくれた。
「兄さ。すまんな」
音吉は不意に胸が熱くなった。未《いま》だかつて、吉治郎がこんな親切を見せてくれたことはなかった。
汲《く》み上げた海水を、音吉は米の入っている桶に四分の一ほど入れた。そして手早く磨《と》ぎはじめた。子供の時からしなれた米磨ぎだ。音吉は満遍《まんべん》なく、隅《すみ》から隅まで米を磨ぐ。潮臭《しおくさ》い水だ。磨ぎ水がたちまち白くなった。その磨ぎ水を空桶に移す。そしてもう一度、音吉は米を磨いだ。
「音」
吉治郎が傍らに跼《かが》みこんで、音吉の米を磨ぐ様子を見ていたが、ぼそりと呼びかけた。
「何や、兄さ」
「水桶《はず》が流されたでな、大変なことになってしもうたな、音」
「うん、ほんとや」
水主《かこ》部屋のすぐうしろにある外艫《そととも》が、激浪《げきろう》にもぎ取られてしまったのだ。外艫には、流しもあれば水桶もあった。厠《かわや》もあった。何より惜しかったのは、何|斗《と》も入っていた水桶だ。四角く大きい水桶には、まだ水が充分にあった。貯水槽《かよいはず》や予備の水樽《みずだる》が船倉にあったからよいものの、なければあの瞬間から、たちまち水主たちはのどの乾きに耐えられなくなるところだった。
だが船倉の水にも限りがある。嵐がやんで、はじめて米を炊《た》く時、音吉は炊頭《かしきがしら》の勝五郎に、
「米は潮水で磨《と》げ」
と命ぜられた。今日はそれから三度目だ。潮水で米を磨ぐのは何となく淋《さび》しい。
「音」
再び吉治郎が言った。
「うん」
音吉の米を磨ぐ音が、シャリッシャリッと引きしまった音になってきた。
「お前、水がのうなったら、人間は死ぬんやで」
あたりをはばかる声だ。
「うん」
「やがて水はのうなるんや。そんな時、お前どうするつもりや」
「どうするって……」
「水がないとな、人間は死ぬんやで」
音吉も、水がなくなった時のことを思うと、身ぶるいがする。が、音吉は答えた。
「兄さ。心配は要らんで。雨も降るし、らんびきもできるでな」
「らんびき? ああ、潮水から飲み水を取る方法な。釜《かま》で煮《に》て、湯気《ゆげ》を水にするやつな。だけど、薪《まき》が尽《つ》きたらどうするんや」
「それまでには、どこかの島に着くだろうが」
「馬鹿言え。いいか、音。今のうちにな、水をくすねて置くんや」
吉治郎は更に声を低めて言った。胴の間には、岩松たちの釘《くぎ》を打つ音がかしましい。声を低めずとも、他に聞こえる恐れはなかった。
「くすねる?」
「そうや。水のあるうちにな、せめて徳利《とくり》に一杯でも、かくして置くんや」
「兄さ。そんなことをして……父《と》っさまが泣くで」
「泣くも泣かんも、父っさまの知らんこっちゃ。俺たちが死んだら、それこそ父っさまが泣くわ。母さまが泣くわ。おさとも泣くわ。いやそれより、お琴が泣くわ」
「兄さ。わしら人間のすることは、みんなおてんとさまが見てござる。わしらにとって大事な水は、みんなにとっても大事な水だでな」
音吉は磨《と》ぎ水の入った桶《おけ》を、台の上に上がって、垣立《かきたつ》から海に捨てた。捨て終わった時、吉治郎はもう傍《そば》にはいなかった。
音吉は、磨いだ米を水主《かこ》部屋の火床《ひどこ》の傍《そば》に持って行った。
「おお、磨いだか。ご苦労やな」
勝五郎が言い、手桶《ておけ》を持った。真水《まみず》を汲《く》みに行くのだ。船倉の貯水槽《かよいはず》から水を汲み出すのは、勝五郎だけの仕事だ。決して他の者にさせることはない。船倉の貯水槽の蓋《ふた》には鍵《かぎ》がかかっている。
やがて勝五郎の手によって真水が運ばれ、釜《かま》の中に注がれた。音吉はその水を、身じろぎもせずにみつめた。
「水をくすねておくんや」
と言った吉治郎の言葉が、今更のように恐ろしく思われた。
「音、ひと休みせい」
勝五郎が床に腰をおろしながら言った。
「はい」
音吉は答えたが、
(もし水がなくなったら……)
と思った。吉治郎の言葉が、もしかすると、水主《かこ》たち全部の思いかも知れぬと気づいたのだ。
(そのうちに大変なことになる)
船倉の貯水槽の水が尽き、幾樽《いくたる》かの水も尽き果てようとする頃《ころ》、水主たちは水を欲しさに、何をしでかすかわからないのだ。貯水槽に鍵のかかっている理由が、音吉には今はじめてわかったような気がした。が、次の瞬間、
(いやいや、やがては雨も降る。潮水から真水も取れる。そのうちにどこかの島に着く)
音吉は自分自身に言い聞かせた。
まだ十四歳の音吉には、海には島がつきものだと思っていた。師崎から外海に出るまでに、たくさんの島があった。江戸の近くにも、大島《おおしま》、三宅島《みやけじま》、八丈島《はちじようじま》などのあるのを聞いている。九州のほうには、屋久島《やくしま》や、種子島《たねがしま》のあること、その他どこにあるかは知らないが、隠岐島《おきのしま》や佐渡《さど》ケ島《しま》という大きな島のあることも聞いている。だから海には、島がたくさんあるのだと音吉は思うのだ。
いつか、樋口源六の蔵《くら》の中で、地球儀を見せてもらった。が、太平洋がどれほど広いものかを、実感として理解できる筈《はず》はなかった。それは単に、音吉が十四歳という年齢のせいばかりではなかった。水主《かこ》たちのほとんどが、明日にもどこかの島が見えてくると信じていた。重右衛門ほどに打ち沈んだ気持ちになっている者は、まだなかった。
(大丈夫や。水がなくなる前に、島が見えるわ)
音吉が再びそう思った時、船倉の梯子《はしご》から三四郎が顔をのぞかせて言った。
「音、手がすいてるんなら、手伝わんか」
勝五郎が、音吉の答える前に言った。
「音は今、坐《すわ》ったばかりやで」
三四郎は聞こえぬふうに、
「じゃ、音、水主頭《かこがしら》が待ってるで」
と、忙しそうに顔をひっこめた。音吉は半裸のまま船倉に下りて行った。
「おお、来たか。常治郎たちに手伝って少しアカを汲《く》め」
仁右衛門がふり返って音吉に命じた。
「はい」
音吉はきびきびと手桶《ておけ》を取り、三寸|程《ほど》たまったアカを汲《く》みはじめた。いつのまにか吉治郎や久吉たちもアカ汲みをしていた。と、仁右衛門が言った。
「おい、音。ちょっとここに来い」
胴の間の踏立板《ふたていた》を少し外《はず》しているので、今日の船倉は光が差しこんでいる。音吉はアカがその光に揺れる中を、仁右衛門の傍《そば》に近づいて行った。仁右衛門は釘《くぎ》を打ちながら、
「いいか、音。アカはな、大ていこの戸立《とだて》の底あたりから入って来るでな。そんな時はな、応急にぼろきれを突っこむことがある。だがな、釘のゆるみをなおすのが肝心や。そのほかな、いろんなことをせねばならん。とにかく俺はな、そのアカの入って来る所をお前に教えておくでな」
しみじみとした声だった。
「はい」
音吉は無邪気に答えた。
「音、お前や久吉は、一番元気があるでな、何でも知っておいてもらわにゃあ……」
言われて音吉は、ふと淋《さび》しい気がした。仁右衛門の言葉に、何となく不吉な予感を覚えたからだ。
海水の浸入してくる箇所を、アカの道と呼ぶ。だからこのあたりには、釘の利きの悪い杉材を使わない。そのことを仁右衛門は説明しながら、
「このアカの道を早うみつけんとな、大変なことになるでな」
三四郎も常治郎も、政吉も、手をとめてうなずく。その時音吉が言った。
「水主頭《おやじ》さま。船底に区切りがあれば、アカの道をみつけやすいのではないやろか」
「それだ。それだって。わしもなあ、千石船《せんごくぶね》の船底が、こうだだっぴろけりゃ、どこからアカが入っても、底が一面に水浸しになる。区切りがありゃあ、水のたまり具合で、どのあたりの釘《くぎ》がゆるんだと見当がつく。そうだ、親方さまに伺って、せめてこの辺《あた》りにでも、二尺ばかりの高さの仕切りを一つ造って見るか」
仁右衛門の言葉に常治郎が言った。
「なあるほど、そりゃあ名案だあ。このあたりさえ区切っておきゃあ、ほかのほうには水は来ねえ。音、お前いいことを考えるじゃねえか」
常治郎が目尻にしわをよせて笑った。
音吉は自分の言葉が取り上げられたので、勢いこんでアカ汲みをはじめた。三寸|程《ほど》の深さのうちに、全部汲み干してしまえば、他のアカ道も突きとめることができる。
(恐ろしいのは水だ)
音吉はつくづくと思った。海という巨大な水も恐ろしければ、真水の欠乏も恐ろしい。そう思いながら手桶《ておけ》を持って梯子《はしご》を上がろうとした時、上が俄《にわか》に騒がしくなった。
「なんだ? 何が起きたんだ!?」
仁右衛門が言い、他の者が梯子の傍《そば》に近寄って来た。
(何やろ?)
音吉は動悸《どうき》しながら梯子を上がって行った。
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