十月二十七日
西風。
一日事もなし。四方八方、眼凝《まなここ》らして見渡すに、本日も島見えず、船見えず、島影さえも見えず。只飛《ただと》び魚《うお》のみ、折々《おりおり》船の横を前を、勢いよく飛ぶのみ。千之助言う、吾にも翼《つばさ》あれば、故国目指して飛び行かむものをと。その飛び行くべき方角さえわからず、心|淋《さび》しと言うも愚かなり。
夜に至りて月明るし。明るき月も恐ろしげに見ゆるなり。故国にて、家族の者らもこの月を見るにやあらむと、岡廻《おかまわ》り言いて泣きたり。
西風。
一日事もなし。四方八方、眼凝《まなここ》らして見渡すに、本日も島見えず、船見えず、島影さえも見えず。只飛《ただと》び魚《うお》のみ、折々《おりおり》船の横を前を、勢いよく飛ぶのみ。千之助言う、吾にも翼《つばさ》あれば、故国目指して飛び行かむものをと。その飛び行くべき方角さえわからず、心|淋《さび》しと言うも愚かなり。
夜に至りて月明るし。明るき月も恐ろしげに見ゆるなり。故国にて、家族の者らもこの月を見るにやあらむと、岡廻《おかまわ》り言いて泣きたり。