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海嶺60

时间: 2020-02-28    进入日语论坛
核心提示:月の下     三「いよいよ、今年も明日で終わりじゃのう」船頭の重右衛門は、部屋に呼び寄せた仁右衛門、岩松、勝五郎の三人
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月の下
     三
「いよいよ、今年も明日で終わりじゃのう」
船頭の重右衛門は、部屋に呼び寄せた仁右衛門、岩松、勝五郎の三人を見まわした。天保《てんぽう》三年|大《おお》晦日《みそか》の前日である。岩松は背を水主部屋との仕切り戸にもたせて、あごの不精《ぶしよう》ひげを一本抜いた。仁右衛門は正座をし、勝五郎は背をまるめて、あぐらをかいている。
朝の海はおだやかで、船の揺れは少ない。
「そうですのう」
答える仁右衛門の声に元気がなかった。
「こうして寄ってもらったのはほかでもない。正月を、どのように迎えたらよいかと思うての」
思案顔の重右衛門に、
「と申しますと……」
「みんな承知のとおり、千石船《せんごくぶね》には千石船の正月のしきたりがあるでな。だが、岡廻《おかまわ》りもついこの間死んだことだし、どうしたものかと思うてのう」
「なるほど」
仁右衛門と勝五郎はうなずいたが、岩松は聞いているのか、いないのか、一本また一本と、不精ひげを抜いている。
岡廻りの六右衛門は十日|程《ほど》前に死んだ。食事がのどを通らなくなって、僅《わず》か二日目に意識がもうろうとなった。歯ぐきが紫に腫《は》れ、歯の間から血が流れた。それでも、
「海、海」
と、手を伸ばし、岡廻りは海を見たがった。水主《かこ》たちはその岡廻りの枕もとに集まったが、声もなく見守るばかりだった。
が、岩松は、
「岡廻り、海を見せてやるぜ」
と、すっかり痩《や》せ細った岡廻《おかまわ》りを抱き上げた。岡廻りは、どこが痛むのか、顔をしかめて、
「痛い、痛い」
と訴えたが、海を見せると、
「おお、小野浦が見える。ほら、小野浦じゃ、小野浦じゃ」
と、あらぬ方を指さして、
「帰って来たぞ。お咲、帰って来たでな!」
と叫んで、まもなく息を引き取った。その岡廻りの骸《むくろ》は、空樽《からだる》に入れて一の間に置くことにした。仁右衛門が、海中に葬ると言ったが、重右衛門が首を横にふった。
「いやいや、それはなるまい。万に一つも、故里に帰る日がないでもない。その時、遺骸《いがい》がなくては、家族の者が悲しむじゃろう」
水主《かこ》たちも重右衛門の言葉に賛成した。
「そうやそうや。わしらが死んでも、海に捨てられとうはない。この宝順丸から離れとうはないわ」
「ほんとや。こんな大海原の真ん中に捨てられては、いくら死んだからというて、淋《さび》しうてならんわい。魚に突っつかれて、食われるわが身が目に見えて、かなわんわい」
こうして、岡廻りの骸は一の間に安置された。が、それをまた無気味がる水主たちもいた。
「夜なあ、恐ろしいなあ。小便にも行けせん」
「そうや。何ぞ岡廻りが、うしろから抱きついてくるようでなあ。ぞーっとするで」
岡廻りの死は、俄《にわか》に水主たちに生気《せいき》を失わせた。自分たちにも急速に死が近づいてきたような恐怖に襲われるのだ。
岡廻《おかまわ》りの臨終を思い出しては語り合い、あげくの果てに誰もが泣いた。が、岡廻りが哀れなのではない。やがては同じ運命を辿《たど》るであろう己《おのれ》が哀れでならないのだ。
水主《かこ》たちは、朝起きると、まずお互いの歯ぐきを見せ合うようになった。
「どうや、わしのは?」
「わしのほうこそ、紫になっておらんか」
「いや、わしのが腫《は》れているのやないか」
「岡廻りの歯ぐきのように、紫に腫れて、血が流れて、そして死んでいくんやろうかなあ、わしらも」
水主たちはひとしきり嘆き合い、訴え合うのだ。
今朝《けさ》もそんな水主たちを仁右衛門は見ていた。それを思い出しながら、
「親方」
と、顔を上げて、
「岡廻りが死んだばかりだでなあ。正月の祝いはどんなものかのう」
「うむ、わしもそう思うて、こうして相談するわけじゃ」
「親方、水主たちは、みんな心が弱っているで。しきたりに従って、祝うたところで、祝う心にもなれまい。いや、それどころか、これが最後の正月かと、一層心が暗くなるとわしは思うが」
仁右衛門が悲痛な顔をした。と、勝五郎が、組んでいた両腕をほどいて、
「親方さま。正月の作法《さほう》はともかく、食い物だけは正月らしく調《ととの》えてはいかがですかい」
「正月らしく? 米と味噌《みそ》と塩ばかりで、正月らしくも何もできたものであるまい」
驚く重右衛門に、
「確かに故里にいる時のように、黒豆もあらせん。膾《なます》の材料もあらせん。だが幸い、米は腐るほどありますでな。米を炊《た》いてこねれば、餅《もち》に似たものぐらいはできますわい。それを飾ったり、汁に入れて雑煮《ぞうに》代わりにしたり……それに酒もまだ幾らかありますでな」
「なるほど、もち米でなくても、そのくらいのことはできるか」
重右衛門がうなずいた時、仁右衛門が大きく手をふって、
「わしは反対だ。折角《せつかく》餅を真似て造っても、それは本物じゃあらせん。かえって、思い出して愚痴《ぐち》るばかりじゃ」
「なるほど、そう言われればそれもそうじゃのう」
重右衛門は迷った。岩松は黙ったままだ。勝五郎が言った。
「しかし、正月だというのに、同じ物を食わせれば、それもまた愚痴の種になりますぜ」
「なるほど、それもそうじゃ」
重右衛門は眉間《みけん》に深くしわを寄せ、
「舵取《かじと》り、舵取りの意見はどうじゃ」
と、岩松を促した。岩松は重右衛門を見、仁右衛門と勝五郎に視線を向けたが、
「大海原の真ん中であろうと、故里にいようと、正月は正月、めでたい日はめでたい日のようにやったらええ」
「なるほどのう。確かに舵取りの言うとおりじゃ。陸にいようと海にいようと、正月には変わりはないでのう」
うなずく重右衛門に、仁右衛門が言う。
「親方ぁ、しかし、時と場合によりますぜ。そりゃあ、帰る目当てでもありゃあ、陸にいようが、海にいようが、めでたかろう。だが、わしらは一体どうなるんですかい。いつ、どこに着くんですかい」
「…………」
「こんな、雨もよう降らん大海原では、幾ららんびきをしたところで、焚《た》く物にも限りがありますわい。薪《まき》が尽きりゃ真水も取れねえ。米だって、限りがありますわい」
「…………」
「しかも、仮帆は所詮《しよせん》仮帆だ。帆が小さくては、船は思うように走らねえ。船が走ってこそ舵《かじ》も役に立つというもの。幾ら向きを変えても、船が走らにゃ……」
仁右衛門ののどが、不意にぐっと鳴った。嗚咽《おえつ》をこらえたのだ。と、岩松がふり切るように言った。
「親方、この船はこのまま、どこの陸にも着かずに終わるかも知れん。が、着くかも知れん。言わば丁か半だ。半分は望みがなくても、半分は望みがある。わしは、どこかの陸に必ず着くと賭《か》けておりますぜ」
「ほほう、賭けてのう」
「そういうことですわい親方。死ぬかも知れんが、助かるかも知れん。助かるかも知れんと思えば、何も泣いて暮らすには及ばんじゃないですかい。どうせ正月を祝うても祝わなくても、愚痴《ぐち》る者は愚痴る。泣く者は泣く。それなら、祝うたほうがいいとわしは思う」
「舵取《かじと》りの言うことも、もっともじゃ。どうするな、水主頭《かこがしら》、勝五郎」
「わかりやしたで親方。あっしは一生懸命工夫して、正月らしい膳《ぜん》を造って見せますわい」
勝五郎が答えたが、仁右衛門はうつ向いたまま思案していた。
「よし。では、正月はめでたく祝おうぞ。死んだ岡廻《おかまわ》りには悪いが、祝わせてもらうとしよう」
重右衛門はうなずいた。
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