六
午後になって風はおさまった。怒濤《どとう》のとどろきもやんだ。太陽が三人の這《は》い上がったオゼット島を照らしていた。だが、それまでの時間が、岩松と久吉には余りにも長く思われた。気温は小野浦の冬より高かった。
「おっ! 舟が出る!」
岩松が叫んだ。対岸の人々が二人に気づいたのは、二人が手をふって間もなくであった。が、荒れ狂う海に舟は出せない。その舟が今出ようとしているのだ。
「よかったな、舵取《かじと》りさん」
二人は抱き合ったまま、向かってくる舟をみつめた。長い丸木舟だ。
「音はどうしたかな?」
幾度もくり返した言葉を、岩松はまた言った。
「音ーっ!」
久吉が口に手を当てて叫ぶ。が、何の声もしない。二人が這《は》い上がった所から、地つづきに行く道はなかった。険《けわ》しく切り立つ岩礁《がんしよう》がつづいている。
「音はどうしたかなあ。まさか、岩に打ちつけられたわけではないだろうな」
岩松は二|艘《そう》の丸木舟に目を注《と》めたまま、案じていることを口に出す。
「折角《せつかく》ここまで来て……音が死んだらどうしよう」
久吉は岩松に一層体をすりよせて、泣き声を上げた。
「駄目《だめ》かも知れせんなあ。この岩だらけの海だ。それにあの大波じゃあなあ」
あの怒濤《どとう》の中では、泳ぎを知っていても、どれほどの助けにもならないことであった。
「舵取りさん。音はかわいそうやなあ」
「うん。しかし、まだ死んだと限ったわけじゃねえ」
とは言え、この島のどこかに打ち上げられたとしても、眠りこんでは命が危ない。岩松は眉根《まゆね》を寄せた。久吉も幾度睡魔に襲われたかわからない。その度に岩松は久吉の頬《ほお》を叩《たた》いた。
「舵取《かじと》りさん、あの船は変な舟やな」
「ああ、丸木舟や」
「丸木舟?」
無数の白い鴎《かもめ》が低く舞う中を、丸木舟は巧みに岩礁《がんしよう》の間を縫って次第に近づいてくる。
「もしかしたら、ここは蝦夷《えぞ》かも知れせんで」
「蝦夷?」
「そうだ、蝦夷のアイヌたちは、丸木舟を使っていたでな」
岩松は北前船《きたまえぶね》で松前まで行った時のことを思い出していた。この島にも、向こうの陸地にも直立した松が立っている。形が蝦夷で見た松によく似ている。
(あの人間たちがアイヌなら……)
おだやかな民族だと、岩松は幾分|安堵《あんど》しながら、
(しかし、ここが蝦夷であるわけがない)
と思いなおした。一年二か月も、東へ東へと漂流して、まさかまた日本に戻《もど》ってきたとも考えられない。世界の地図を岩松は知らない。蝦夷の近くにロシヤがあること、その地つづきに支那《しな》があること、その程度しか岩松は知らなかった。岩松は疲れ切った頭の中に、蝦夷の風物を思い浮かべた。そして、今自分たちの助けられることが、なぜか人ごとのように思われるのだ。
が、丸木舟が近づいてくるにつれ、岩松の目に不審の色が浮かんだ。
「何や!? 棒や斧《おの》を持っている!」
「ほんとや!」
久吉の声がふるえた。
「たった二人に、何で槍《やり》や刀がいるんや」
さすがに岩松もおののいた。その二人を尻目に、丸木舟は次第に近づいてくる。男たちの誰もが半裸だった。暗い銅色の肌だ。髪が黒い。
「どうする、舵取《かじと》りさん!」
久吉のふるえが岩松の体に伝わる。
「観念するよりしようがないで、久吉」
「ここで、殺されんならんのか」
「泣くな、おとなしくしてろ」
殺されるとしても、只《ただ》では殺されはせぬと、岩松は素早くまわりを見まわした。岩の上には石ころもなかった。何がなくても一人や二人殺すことはできると、岩松は覚悟を決めた。丸木舟がぐんぐん近づいて来る。久吉が手をすり合わせて拝んだ。久吉は地べたに頭をすりつけ、幾度も手を合わせる。丸木舟は、五間程向こうでとまった。何かがやがやと言っている。全く異国の言葉だ。と、そのうちの年嵩らしい男が、右手を高くかざし指を二本立てた。
「何のことや?」
久吉がますますふるえる。岩松は黙って、指を三本出した。男たちは顔を見合わせて何か言いはじめた。伴《くだん》の男が三本の指を突き出した。岩松はうなずいて、再び三本の指を高々と上げた。男たちはまた大声で何か言い立てる。
「何のことや?」
久吉が岩松にしがみついたまま尋ねた。
「わからんが、二人だけか、と聞いたんだろう。だから三人だと答えたんだ。したら、三人? と聞き返した。それでそうだと答えたんだ」
岩松はまばたきもせず丸木舟の男たちをみつめながら言う。先程《さきほど》の男が指一本突き出した。岩松は首を右に左に曲げ、辺《あた》りの海を指した。と、男たちは何を思ったか、丸木舟の方向を転じた。近寄ってくると見えた舟は二人から離れた。
「何や!? 助けてくれせんのか?」
ふるえていた久吉が、がっくりと肩を落とした。岩松は突っ立ったまま男たちを見ていた。舟を追うように鴎《かもめ》が舞う。
「疑うてるんだ。俺たちの仲間が、もっとたくさんいないかとな」
「舵取《かじと》りさん、どうしてわかる」
「見たこともない人間を、疑うたり恐れたりするのは、どこの国の人間も同じだろ」
自分にしても、初めてアイヌを蝦夷《えぞ》地で見た時、理由もなく恐れたものだと岩松は思う。二人はぬれた刺し子を岩にかけたままだ。ぬれた刺し子を着ているよりは、じかに肌《はだ》を日にさらしているほうが暖かい。
「俺……俺、殺されるかも知れせんな」
久吉がしゃくり上げた。
「殺されはせん」
岩松はどっかと地べたにあぐらをかいた。
「どうしてわかる?」
「もし殺すんなら、さっきいきなり殺しにきた筈《はず》だ」
岩松はゆっくりと空を見上げた。青い空だ。海も青い。底まで透けて見えるような澄んだ水だ。命までは取るまいと見定めて、いよいよ岩松の心は定まった。
「じたばたするなよ久公、日本人の名折れだでな」
「日本人?」
久吉はきょとんとした。日本人という意識を、久吉は持ったことがなかった。小野浦の名折れということは知っている。しかし、日本人の名折れなどという、そんな大仰《おおぎよう》な言葉は思ったこともない。いつも言われるのは家の名折れ、宝順丸の名折れ、樋口家の名折れという言葉で、小野浦の名折れという言葉さえ、滅多に使ったことはない。
「うん、久公、俺たちは日本人だでな」
「日本なあ」
久吉はとらえどころのないまなざしをした。日本とは何か。定かにはわからない。
(お上《かみ》とはちがうんやな)
久吉の頭の中で、日本とお上が一つになりそうであった。
「音はどうしたかなあ。音が心配だ」
二人は、島蔭《しまかげ》に姿を消した丸木舟の再び現れるのを待っていた。と、半時《はんとき》も経たぬうちに、二艘の丸木舟は二人の前に再び姿を見せた。その一|艘《そう》に、音吉がぐったりと横たわっている。
「音ーっ!」
「音ーっ!」
岩松と久吉が同時に叫んだ。途端に若い男が五、六人、舟から岸に飛び降りた。岸に飛び降りるや否や、男たちは二人のいる岩の上に、素早く駈《か》け上がって来た。男の一人が、岩松の肩を棒の先でぐいと突つき、あごでしゃくった。
岩松は逆らわずに立ち上がった。その岩松にしがみつく久吉を、他の若者が乱暴に引き離した。久吉は意気地《いくじ》なく悲鳴を上げ、頭の上に両手を合わせた。その久吉を男たちは容赦《ようしや》なく引き立てる。二人は小突《こづ》かれながら、丸木舟に移った。
音吉を乗せた舟は既《すで》に岸を離れていた。
(音は生きてるか)
岩松は先を行く舟に目をやった。六、七|間《けん》は充分にある丸木舟だ。櫂《かい》を漕《こ》いでいく男たちの歯が白い。岩松は観念して、同じ舟にいる男たちを順々に見た。あごひげを生やした暗銅色の顔が、どこか日本の男たちに似ている。髪の毛は黒く、縮れてはいない。背丈も日本人と同じ程《ほど》だ。すぐ前にいる男が鋭い視線で岩松を見ている。ひどく意地の悪そうな男だ。岩松はいやな予感がした。が、その男の肩越しに、若い男の顔が岩松を見て人なつっこい笑みを浮かべた。岩松は軽くうなずいて見せた。若い男は、再び白い歯を見せてにこっと笑った。岩松の不安がうすらいだ。
岩松は目の前の男の鋭い視線を避けて、岸に目を転じた。低い緑の山を背に、家が二十戸程海岸近くに建っている。どれも大きな家ばかりだ。山から海まで、半丁とないような狭い海岸に見える。
(あそこで、何が待っているのか)
岩松はふり返って、うしろにいる久吉を見た。久吉は蒼白《そうはく》な顔を上げて、すがりつくように岩松を見ていた。
「心配するな」
言った途端、岩松は目の鋭い男に足を小突《こづ》かれた。喋《しやべ》るなということなのだ。人なつっこい若者が、唇《くちびる》に指を立てて見せた。岩松はうなずいた。
岩松は再び、近づく渚《なぎさ》を見た。その岩松の目が、ふっと和《やわ》らいだ。幼い子供たちの駈《か》けまわっている姿を見たからだ。
「おっ! 舟が出る!」
岩松が叫んだ。対岸の人々が二人に気づいたのは、二人が手をふって間もなくであった。が、荒れ狂う海に舟は出せない。その舟が今出ようとしているのだ。
「よかったな、舵取《かじと》りさん」
二人は抱き合ったまま、向かってくる舟をみつめた。長い丸木舟だ。
「音はどうしたかな?」
幾度もくり返した言葉を、岩松はまた言った。
「音ーっ!」
久吉が口に手を当てて叫ぶ。が、何の声もしない。二人が這《は》い上がった所から、地つづきに行く道はなかった。険《けわ》しく切り立つ岩礁《がんしよう》がつづいている。
「音はどうしたかなあ。まさか、岩に打ちつけられたわけではないだろうな」
岩松は二|艘《そう》の丸木舟に目を注《と》めたまま、案じていることを口に出す。
「折角《せつかく》ここまで来て……音が死んだらどうしよう」
久吉は岩松に一層体をすりよせて、泣き声を上げた。
「駄目《だめ》かも知れせんなあ。この岩だらけの海だ。それにあの大波じゃあなあ」
あの怒濤《どとう》の中では、泳ぎを知っていても、どれほどの助けにもならないことであった。
「舵取りさん。音はかわいそうやなあ」
「うん。しかし、まだ死んだと限ったわけじゃねえ」
とは言え、この島のどこかに打ち上げられたとしても、眠りこんでは命が危ない。岩松は眉根《まゆね》を寄せた。久吉も幾度睡魔に襲われたかわからない。その度に岩松は久吉の頬《ほお》を叩《たた》いた。
「舵取《かじと》りさん、あの船は変な舟やな」
「ああ、丸木舟や」
「丸木舟?」
無数の白い鴎《かもめ》が低く舞う中を、丸木舟は巧みに岩礁《がんしよう》の間を縫って次第に近づいてくる。
「もしかしたら、ここは蝦夷《えぞ》かも知れせんで」
「蝦夷?」
「そうだ、蝦夷のアイヌたちは、丸木舟を使っていたでな」
岩松は北前船《きたまえぶね》で松前まで行った時のことを思い出していた。この島にも、向こうの陸地にも直立した松が立っている。形が蝦夷で見た松によく似ている。
(あの人間たちがアイヌなら……)
おだやかな民族だと、岩松は幾分|安堵《あんど》しながら、
(しかし、ここが蝦夷であるわけがない)
と思いなおした。一年二か月も、東へ東へと漂流して、まさかまた日本に戻《もど》ってきたとも考えられない。世界の地図を岩松は知らない。蝦夷の近くにロシヤがあること、その地つづきに支那《しな》があること、その程度しか岩松は知らなかった。岩松は疲れ切った頭の中に、蝦夷の風物を思い浮かべた。そして、今自分たちの助けられることが、なぜか人ごとのように思われるのだ。
が、丸木舟が近づいてくるにつれ、岩松の目に不審の色が浮かんだ。
「何や!? 棒や斧《おの》を持っている!」
「ほんとや!」
久吉の声がふるえた。
「たった二人に、何で槍《やり》や刀がいるんや」
さすがに岩松もおののいた。その二人を尻目に、丸木舟は次第に近づいてくる。男たちの誰もが半裸だった。暗い銅色の肌だ。髪が黒い。
「どうする、舵取《かじと》りさん!」
久吉のふるえが岩松の体に伝わる。
「観念するよりしようがないで、久吉」
「ここで、殺されんならんのか」
「泣くな、おとなしくしてろ」
殺されるとしても、只《ただ》では殺されはせぬと、岩松は素早くまわりを見まわした。岩の上には石ころもなかった。何がなくても一人や二人殺すことはできると、岩松は覚悟を決めた。丸木舟がぐんぐん近づいて来る。久吉が手をすり合わせて拝んだ。久吉は地べたに頭をすりつけ、幾度も手を合わせる。丸木舟は、五間程向こうでとまった。何かがやがやと言っている。全く異国の言葉だ。と、そのうちの年嵩らしい男が、右手を高くかざし指を二本立てた。
「何のことや?」
久吉がますますふるえる。岩松は黙って、指を三本出した。男たちは顔を見合わせて何か言いはじめた。伴《くだん》の男が三本の指を突き出した。岩松はうなずいて、再び三本の指を高々と上げた。男たちはまた大声で何か言い立てる。
「何のことや?」
久吉が岩松にしがみついたまま尋ねた。
「わからんが、二人だけか、と聞いたんだろう。だから三人だと答えたんだ。したら、三人? と聞き返した。それでそうだと答えたんだ」
岩松はまばたきもせず丸木舟の男たちをみつめながら言う。先程《さきほど》の男が指一本突き出した。岩松は首を右に左に曲げ、辺《あた》りの海を指した。と、男たちは何を思ったか、丸木舟の方向を転じた。近寄ってくると見えた舟は二人から離れた。
「何や!? 助けてくれせんのか?」
ふるえていた久吉が、がっくりと肩を落とした。岩松は突っ立ったまま男たちを見ていた。舟を追うように鴎《かもめ》が舞う。
「疑うてるんだ。俺たちの仲間が、もっとたくさんいないかとな」
「舵取《かじと》りさん、どうしてわかる」
「見たこともない人間を、疑うたり恐れたりするのは、どこの国の人間も同じだろ」
自分にしても、初めてアイヌを蝦夷《えぞ》地で見た時、理由もなく恐れたものだと岩松は思う。二人はぬれた刺し子を岩にかけたままだ。ぬれた刺し子を着ているよりは、じかに肌《はだ》を日にさらしているほうが暖かい。
「俺……俺、殺されるかも知れせんな」
久吉がしゃくり上げた。
「殺されはせん」
岩松はどっかと地べたにあぐらをかいた。
「どうしてわかる?」
「もし殺すんなら、さっきいきなり殺しにきた筈《はず》だ」
岩松はゆっくりと空を見上げた。青い空だ。海も青い。底まで透けて見えるような澄んだ水だ。命までは取るまいと見定めて、いよいよ岩松の心は定まった。
「じたばたするなよ久公、日本人の名折れだでな」
「日本人?」
久吉はきょとんとした。日本人という意識を、久吉は持ったことがなかった。小野浦の名折れということは知っている。しかし、日本人の名折れなどという、そんな大仰《おおぎよう》な言葉は思ったこともない。いつも言われるのは家の名折れ、宝順丸の名折れ、樋口家の名折れという言葉で、小野浦の名折れという言葉さえ、滅多に使ったことはない。
「うん、久公、俺たちは日本人だでな」
「日本なあ」
久吉はとらえどころのないまなざしをした。日本とは何か。定かにはわからない。
(お上《かみ》とはちがうんやな)
久吉の頭の中で、日本とお上が一つになりそうであった。
「音はどうしたかなあ。音が心配だ」
二人は、島蔭《しまかげ》に姿を消した丸木舟の再び現れるのを待っていた。と、半時《はんとき》も経たぬうちに、二艘の丸木舟は二人の前に再び姿を見せた。その一|艘《そう》に、音吉がぐったりと横たわっている。
「音ーっ!」
「音ーっ!」
岩松と久吉が同時に叫んだ。途端に若い男が五、六人、舟から岸に飛び降りた。岸に飛び降りるや否や、男たちは二人のいる岩の上に、素早く駈《か》け上がって来た。男の一人が、岩松の肩を棒の先でぐいと突つき、あごでしゃくった。
岩松は逆らわずに立ち上がった。その岩松にしがみつく久吉を、他の若者が乱暴に引き離した。久吉は意気地《いくじ》なく悲鳴を上げ、頭の上に両手を合わせた。その久吉を男たちは容赦《ようしや》なく引き立てる。二人は小突《こづ》かれながら、丸木舟に移った。
音吉を乗せた舟は既《すで》に岸を離れていた。
(音は生きてるか)
岩松は先を行く舟に目をやった。六、七|間《けん》は充分にある丸木舟だ。櫂《かい》を漕《こ》いでいく男たちの歯が白い。岩松は観念して、同じ舟にいる男たちを順々に見た。あごひげを生やした暗銅色の顔が、どこか日本の男たちに似ている。髪の毛は黒く、縮れてはいない。背丈も日本人と同じ程《ほど》だ。すぐ前にいる男が鋭い視線で岩松を見ている。ひどく意地の悪そうな男だ。岩松はいやな予感がした。が、その男の肩越しに、若い男の顔が岩松を見て人なつっこい笑みを浮かべた。岩松は軽くうなずいて見せた。若い男は、再び白い歯を見せてにこっと笑った。岩松の不安がうすらいだ。
岩松は目の前の男の鋭い視線を避けて、岸に目を転じた。低い緑の山を背に、家が二十戸程海岸近くに建っている。どれも大きな家ばかりだ。山から海まで、半丁とないような狭い海岸に見える。
(あそこで、何が待っているのか)
岩松はふり返って、うしろにいる久吉を見た。久吉は蒼白《そうはく》な顔を上げて、すがりつくように岩松を見ていた。
「心配するな」
言った途端、岩松は目の鋭い男に足を小突《こづ》かれた。喋《しやべ》るなということなのだ。人なつっこい若者が、唇《くちびる》に指を立てて見せた。岩松はうなずいた。
岩松は再び、近づく渚《なぎさ》を見た。その岩松の目が、ふっと和《やわ》らいだ。幼い子供たちの駈《か》けまわっている姿を見たからだ。