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海嶺152

时间: 2020-03-18    进入日语论坛
核心提示:二 暮れ残っていた空にも、星のまたたきが次第に強くなってきた。砂浜のあちこちにかがり火が焚《た》かれ、それを囲んで、水兵
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 暮れ残っていた空にも、星のまたたきが次第に強くなってきた。砂浜のあちこちにかがり火が焚《た》かれ、それを囲んで、水兵たちはラム酒に酔っていた。うたっている者、踊っている者、大声で何か言い合っている者、気勢を上げて一団から一団に移り歩く者等、様々だった。このかしましい水兵たちを、銃を持った下士官《かしかん》が幾人か、苦々《にがにが》しげに監視していた。艦長や士官たちは、宣教師の家や、教会堂に宿泊する。今頃《いまごろ》は、上等のワインでクリスマスの祝宴をひらいているにちがいない。下士官たちだけが、水兵の騒ぎの中にも入れず、士官たちの食卓にも招かれず、歩哨《ほしよう》に立っているのだ。万一、一人でも脱走したなら、責任は下士官たちの肩にかかってくる。苦々しい表情にならざるを得ない。
かがり火に映《は》える水兵たちの顔が、闇の中に浮き上がる。右額の異様に禿《は》げ上がった男、片耳のつぶれた男、眉間《みけん》に一本彫ったような長い縦じわのある男、両腕に入れ墨をした男、誰も彼もが上機嫌《じようきげん》だ。今日はラム酒がいつもより多くふるまわれたからだ。
岩吉たち三人の傍《かたわ》らに、例によってサムと「親父」を囲む一団がいる。この一団が最も大きな笑い声を立てる。サムが大声でみんなに言った。
「お前たち、ジーザス・クライストのおふくろにたっぷりお礼を言わねばならないぜ」
「それはまたどうしてだい」
「今日のこの日、息子さんを生んでくれたからだよ。これが昨日か、明日だったらな。こんな陸の上で、ドンチャン騒ぎはできねえってことさ」
「サムの言うとおりだ。燻蒸《くんじよう》の日にクリスマスとは、こりゃあありがてえ」
「そうだろうが。だからジーザス・クライストのおふくろさんを祝して乾杯《かんぱい》だあ」
サムの一団は、大声で乾杯と叫んだ。水兵たちを全員上陸させることなど、燻蒸以外めったにない。見知らぬ土地に、三百人もの荒くれ男を一度に上陸させるのは、余りにも危険なことだからだ。
「おいサム。おふくろさんのためだけに乾杯というのは、そりゃあ片手落ちというもんだ」
「何だって? ジーザス・クライストに父親《てておや》がいるとでも言うのかね」
「いたじゃねえか、ヨセフってえ男よ」
「ヨセフ? おいおい、ありゃあジーザス・クライストさまとは、何の関係もないよ。おふくろさまのつれあいではあるがな」
「じゃ、何かい。ジーザス・クライストは父なし子ってえわけか」
「お前も不信心な奴《やつ》だな。あの方のお父上は、天にいます父なる御神だ」
サムの言葉に「親父」が言った。
「おや、サム。大した信心家だな、お前」
みんながどっと笑った。笑いがおさまると、不意に、心細げな男の声がした。あの気の弱い男だ。
「あーあ、いけねえ。女房の奴のむっちりした体が目について……あいつ、今頃《いまごろ》何をやっているやら」
一瞬みんなが押し黙った。みんなの気持ちを、この気の弱そうな男は余りにもはっきりと言ったのだ。と、誰かが言った。
「目の前から去る者は、心から去る、って諺《ことわざ》があるぜ。お前の女房は、まちがいなく、ほかの男の膝《ひざ》の上さ」
「何を、この野郎!」
怒ったのは他の男だった。岩吉はそのサムたちに背を向けて音吉たちに言った。
「音、久、あのな……」
「何や、舵取《かじと》りさん」
三人はいままで、水兵たちの騒ぎとは別に、何とはなしに黙っていたのだ。陸に上がると、なぜかひとしお日本が恋しくなるのだ。
「いや、何でもあらせん」
岩吉は船を脱け出すことを、今言おうかと思ったのだ。が、口から出すことが憚《はばか》られた。
「何でもあらせんって……舵取りさん何や言いかけたでないか」
「うん、お前ら、何を考えていたかと思うてな」
音吉が答えた。
「あのな舵取りさん。わしはな……こうして浜に坐《すわ》って、波の音を聞いているとな……何やら小野浦に帰ったような気がしてな」
「ふーん、なるほどな」
「そしてな、ふり返ったら、あの小野浦の低い山々や、家々が見えるような気がしてな。……な、もうたまらんわ」
音吉の声がしめった。久吉が言った。
「俺も小野浦のことを思うていたで。ほら、渚《なぎさ》に櫓《やぐら》を幾つも立てて、櫓にちょうちんをたくさんつけたことあったやろ」
「うん、あったあった」
「したらな、音。蟹《かに》が灯《あか》りを慕ってよ。ようけ集まってきたわな。それをみんなで籠《かご》に拾ったわな。あれは楽しかったな。かがり火を見ていたら、何やあの蟹を取ったことが思い出されてな」
「ふーん、なるほどな」
岩吉の声が沈んだ。音吉が言った。
「な、久吉。みんな何をしてるやろ、今頃《いまごろ》」
「もうみんな眠ったやろな、朝が早いでな」
「そうかな、久吉。舵取《かじと》りさん、日本も今は夜やろか」
「さあな、おてんとさんは一つしかないでな。こっちが夜の時は、あっちを照らしているのとちがうか」
岩吉の言葉に、久吉が手を打って、
「そう言われればそうやな。世界中一ぺんに夜になったら、おてんとさんの行き所があらせんもな」
「ほんとやな。けど、久吉。おてんとさんもお月さんもええわな。小野浦を照らすだでな。羨《うらや》ましいわ」
「音、久、お前たちそんなに小野浦が恋しいか」
「そりゃ恋しいに決まっとるわ。な、音」
「そうか、そうやろな。そんなに恋しいんなら、どうだお前たち、そっとこのまま、山にでも逃げんか」
岩吉は声を低めた。
「山に逃げる!?」
久吉が思わず大きな声を出した。
「もうイーグル号には戻《もど》らんのや」
岩吉は、先程《さきほど》考えたことを、二人に諄々《じゆんじゆん》と語って聞かせた。
「舵取《かじと》りさん、ほんとに二か月で帰れるんやな」
聞き終わって、久吉が念を押すように言った。
「そうや」
「久吉、わしは、舵取りさんの言葉に賛成や。わしが怖いのは、お上《かみ》の取り調べや。キリシタンになったんではないかと、調べられるのが怖くてたまらん。けど、舵取りさんの言うとおり、日本の近くの無人島に流れ着いとったと言えば、お咎《とが》めはないと思うで。わしは舵取りさんに賛成や」
「そうか、音、賛成してくれるか」
「けどなあ、鯨獲《くじらと》りの船が、うまいこと乗っけてくれるかなあ」
久吉がしぶった時だった。不意に、銃を持った下士官《かしかん》が近づいて来た。三人はぎくりとして口を閉じた。
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