日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

犯人を捜す犯人02

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:2 逃げる 紀《のり》子《こ》は夢を見ていた。 十七歳の娘にしては、いささかロマンチックでない夢だったが、火事の中から逃
(单词翻译:双击或拖选)
2 逃げる
 
 紀《のり》子《こ》は夢を見ていた。
 十七歳の娘にしては、いささかロマンチックでない夢だったが、火事の中から逃げ出す夢で、紀子は誰だか分らないが、男を背負って逃げていた。
 火はしつこく生きもののように紀子を追って来て、蛇のように長い炎の舌が、必死で駆ける紀子の足首に巻きつこうとした。
 場所はどうやら学校──紀子の通っているN女子学園の高校のようで、冷たい石造りの建物が、なぜか紙でできているかのようによく燃えた。
 紀子は、廊下を駆けている。背負った男の体は徐々に重味を増すかのようで、紀子の足は少しずつ疲れ、重くなっていた。
 もう倒れる!──もうだめだ!
 紀子は、よろけ膝《 ひざ》をついた。その拍子に、背中の男が床へドサッと落ちて、
「よくやった」
 と言った。「もう、充分だよ」
 ──哲郎。
 哲郎……。哲郎……。諦《 あきら》めないで。
 まだ──まだ、希望はあるわ!
 哲郎……
 電話が鳴っていた。
 紀子はハッと起き上った。──電話? これも夢だろうか。
 そうじゃない! 自分のベッドの枕もとで、電話が鳴っていた。
 これは紀子の個人用の電話で、よほど親しい友だちしか知らない。──誰だろう?
 時計が午前四時を指しているのを見て、紀子はちょっと顔をしかめた。こんな時間、いくら夜ふかしの友だちが多いといっても、かけて来たりするとは思えない。
 いたずらかしら?──紀子は、そっとコードレスの受話器を取って、ボタンを押した。黙って耳に当てる。
「もしもし」
 と、男の声がした。
「──哲郎?」
 紀子は、面食らった。
「起こしたろ。すまないな」
 哲郎がホッとした口調で言った。
「いいけど……。ちょうど夢でね、哲郎が出てたから、びっくりしたの」
 紀子は目をこすって、「どうしたの?」
「今、誰もいないか?」
「私の部屋よ。男もいないしね」
 と、紀子はちょっと笑った。
「そうか」
 哲郎は、少し間を置いて、「もう会えない」
 と言った。
「今……何て言った?」
「さよならを言おうと思ってかけたんだ」
 紀子は眠気が吹っ飛ぶのを覚えた。
「何があったの」
「警察に追われてる。例の車泥棒さ」
「哲郎……。だからやめてって……。いいわ。自首したら? 父に頼んで、弁護士、つけてもらう」
「迷惑はかけられない。──な、楽しかったよ。短い付合いだったけど」
「やめて。──格好つけないでよ。大した罪じゃないでしょ。しょせんコソ泥よ。下手《 へた》に逃げないで、おとなしく捕まってた方が良かったのに」
「お前、いつも厳しいな」
 と、哲郎は笑った。
 その笑い声の爽《 さわ》やかさ。紀子は、胸が痛かった。
「あの人──ケンジって子も一緒?」
「逃げるとき、別々になった。あいつはと《ヽ》ろ《ヽ》い《ヽ》からな。捕まってるかもしれねえ」
「ともかく──逃げ回るほどの罪じゃないわよ。ね、前科ないんだし。これがいい機会じゃない。やり直すのよ。あの野田とかいう人と縁を切って」
「もう、切ってる。逃げたとなりゃ、警察の手が社長へ及ばないようにしなくちゃな」
「馬鹿らしい。そんな気をつかって! 向うが一体何をしてくれるっていうのよ」
 と、紀子は言ってやった。「いいわ。──そんな話は後。今、どこにいるの?」
「これから身を隠す。な、紀子」
「私に、忘れろなんて言わないで。忘れるかどうか、決めるのは私よ」
「それだけじゃない。コソ泥だけじゃないんだ」
 と、哲郎が早口で言った。
「何ですって? 他にも何かしたの」
「俺はやってない。でも……見付けたんだ、死体を」
 と、哲郎は言った……。
 
「──紀子!」
 と、ダイニングキッチンへ入って来た母親の由利は、娘がもうテーブルについているのを見て、びっくりした。
「おはよう」
 と、紀子は言った。
「どうしたの、こんなに早く?」
 紀子は、もうブレザーの制服姿で、出かける仕度をして、コーヒーを飲んでいる。
「クラブの用があるの、忘れてたのよ」
 と、紀子は言った。「もう出るから、朝食はいらない」
「お弁当は?」
「パン買うから。──もう行くわ」
 紀子はコーヒーを飲み干した。
「そう……。じゃ、お母さん、こんなに早く起きなくても良かったんだわ」
 間近由利は四十歳。大学を出てすぐに今の夫、間近聡士と結婚したので、今でもどこかお嬢さんっぽいところを残している。
「お父さん、今日帰るのよ、ニューヨークから。紀子、夕ご飯うちで食べれるでしょ?」
「うん。たぶんね」
 紀子は立ち上った。「じゃ──」
 居間の電話が鳴り出した。
「何かしら。出るわ」
 と、由利が駆けて行く。「──はい、間近でございます。──あ、伊東さん? ええ、ここに。ちょっと待ってね。──みどりさんよ」
 紀子は替って、
「もしもし」
「──紀子? 聞いた?」
 クラスメイトで、年中互いに遊びに行ったり来たりしている伊東みどりである。
「聞く、って?」
「じゃ、知らないのか。あのね、ゆうべ、一年生の……古畑って子、知ってる?」
「古畑圭子? クラブ、同じよ」
「そう、その子。──殺されたんですって」
 紀子の方はしばし無言だった。
「もしもし? 紀子、聞いてる?」
「──うん」
「ひどいよね。通り魔っていうのか……。変質者だろうって。刃物で──。ともかく死んじゃったのよ」
「大変ね。犯人のことは何か言ってる?」
「ううん。でも、見当ついてるみたい。その辺でうろついてたの、見られてるらしい」
「そう……」
「きっと今朝は大騒ぎよ、学校」
「そうだろうね」
 紀子は肯《うなず》いて、 「じゃ、学校で」
「紀子、電車は?」
「今日、用があって、いつものに乗れないの。ごめんね」
「分った。それじゃ後でね」
「ありがとう」
 紀子がダイニングキッチンへ戻ると、
「何なの?」
 と、由利が心配そうに、「『犯人』とか何とか言ってた?」
「一年の子が……通り魔にあって」
「まあ!」
「死んだって。──じゃ、行くよ」
 紀子はパッと鞄《 かばん》をつかむと、足早に玄関へと急いだ。
 
 紀子は、左右へ素早く目を走らせた。
 大丈夫。──まだ早い時間だ。人通りも少ない。
 小さな公園へ入って、ベンチに腰をおろすと、呼吸を整えようと、何度か深呼吸をした。
 秋の朝。──少し湿って、肌寒い感じである。
 昼になって、日射しが降り注げば結構日焼けもしそうなのだが、夜は涼しい。
「ハクション!」
 ベンチの後《ヽ》ろ《ヽ》で、突然クシャミが聞こえて紀子は仰天した。
「──もう! 何してるのよ?」
 と声をかけると、ゴソゴソと新聞紙の塊が動いて、
「──やあ、おはよう」
 と、哲郎が顔を出した。「怪しい奴《 やつ》、いなかったか?」
「あんたが、一番怪しい」
 と、紀子は言ってやった。「ちゃんと座って!──汚れるばっかりじゃないの、そんな所で寝たりして」
「でも……。人目につくと──」
 と言いかけ、紀子がすぐ近くで買って来た弁当の包みを開けるのを見て、「──俺の?」
「そう。──さ、食べて。まだ温かいわよ」
 哲郎は、当然のことながら空腹だった。
「仕事」の前には、食事をしない。だから、ゆうべの夕食から抜いていた。
 紀子は、ベンチに並んで座った哲郎が、弁当を凄《すご》い勢いで食べるのを見て、ウーロン茶の紙パックを渡すのを後回しにした……。
「──生き返った!」
 フーッと息をつく哲郎。
「はい」
 と、ウーロン茶を渡して、「世界新記録かもね」
「ありがとう……。旨《うま》かった」
 少し落ちついた様子で、「お前……。早く行った方がいいぞ。もし今警官が来て捕まったら、お前も巻き添えになる」
「余計なこと言わないで」
 と、紀子は言った。「殺されたのは、うちの高校の一年生」
「そうか……。制服が似てると思ったんだ……」
「話して。詳しく」
 哲郎は、ウーロン茶を飲んで、それからゆうべのてんまつを話して聞かせると、
「──絶対に俺はやってない。でも、あんな状況で、死体の近くにいたのを見られてるし、手についた血で、きっとどこかへ触ってるだろうし……。警察のことだ、俺とケンジがやったと思う」
 哲郎はそう言って、「──ケンジ、捕まったのかな」
「まだのようよ。少なくとも、発表はない」
「そうか。うまく逃げてくれるといいけど」
 と、ため息をついて、「ぶきっちょな奴だからな」
「呑《のん》気《き》ね。人のこと心配してる場合じゃないでしょ」
 紀子は厳しい表情で言った。「──これ。コンビニで買って来たわ」
 ガサゴソと紙袋を探って、小さく折りたたんだビニールのレインコートを出す。
「これしか着るもんはないの。上にはおれば大分違うわ。──これはカミソリ。ひ《ヽ》げ《ヽ》を剃《そ》って。浮浪者よ、それ以上のびたら」
「ああ……」
「お金はあんまり持ってないけど」
 と、紀子は財布を出し、「──とりあえず二万円。私のへそくりだから、心配しないで」
「金?──よせよ、おい」
「妙な意地張らないで。お金なきゃ、どこへも逃げられないのよ」
「すまん」
 と、哲郎は金をポケットへねじ込み、「でも、これで最後だ。もう何もしないでくれ。指名手配されたら、人前には出られない。もう……会えない」
 二人はやや沈黙した。
 紀子は、しばし目を伏せていたが、やがてパッと眉《まゆ》を上げて、
「会《ヽ》え《ヽ》な《ヽ》い《ヽ》の《ヽ》?  会《ヽ》わ《ヽ》な《ヽ》い《ヽ》の《ヽ》?──どっち?」
「紀子……。お前って、いい奴だ」
 と、哲郎は言って、笑顔をこしらえた。
「哲郎!」
 紀子は、哲郎の、少し湿った体を抱きしめた。力一杯、自分と離せなくなるようにしようとするかのように。
「──人が通るぜ」
「誰も気が付きゃしない」
 紀子は、哲郎の顔を両手で挟んで、ご飯粒のくっついた唇に、自分の唇を押しつけた。
 哲郎は、ハッと離れて、
「もうよせ」
 と、手の甲で目をこすった。
「──泣いてるの?」
「お前が……変なことするからだ」
「これ……」
 と、ハンカチを出す。
「レースの付いた可《かわ》愛《い》いハンカチか……。匂《にお》いがするな」
「私の好きな香水」
「うん。──憶えてる。お前の匂いだ」
 ハンカチを顔へそっと当てて、「持ってっていいか。いざってときは捨てる。お前に何かあったら大変だからな」
「持っていって。それから──連絡して、無事でいるかどうか、それだけでもいいから」
「分った」
 哲郎は立ち上った。「もう行くよ」
「哲郎」
「何だ」
「約束して。──死んじゃだめよ」
 紀子の視線は、哲郎を矢のように射た。
「ああ、死なないよ」
「希望を捨てないで。分った?」
 哲郎が何か答えようとしたとき、音が──サイレンが、かすかに聞こえて来た。
「パトカー?」
 と、紀子は立ち上った。
「さあ……。行くよ、ともかく」
 哲郎はビニールのレインコートをはおって、「ありがとう、紀子」
 と言うと、駆け出して行った。
「走らないで!」
 と、紀子は呼びかけたが、もう哲郎には届かなかったろう。
 紀子は、公園の前を救急車が一台、サイレンを鳴らしながら走って行くのを見た。
 そして、ベンチにペタッと腰をおろし、急に力が抜けたかのように、両手で顔を覆って身を震わせた。
 しかし──しかし、泣かなかった。
 紀子は一滴の涙もこぼさず、顔を上げ、深呼吸をすると、ゆっくりベンチから立ち上り、公園を出て歩き出した。
 やっと少し、駅へ行く人がふえつつあって、紀子も足どりを速めたのだった……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%