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冒険入りタイム・カプセル24

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:24 秘 密 「どうだ?」 と、梅川が声をかける。 「まだ、それらしいものは出ません」 下の方から声がした。 「ずいぶん深
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 24 秘 密
 
 「——どうだ?」
 
 と、梅川が声をかける。
 
 「まだ、それらしいものは出ません」
 
 下の方から声がした。
 
 「ずいぶん深く埋《う》めたもんだな」
 
 羽佐間が呆《あき》れたように言った。
 
 ——よく晴れ上った、静かな午後である。
 
 今、問題のカプセルが取り出されようとしている。掘っているのは、梅川の部下の若い者たちである。
 
 もう、かなりの深さの穴ができていて、まだ、掘り続けられていた。
 
 穴の周囲は、羽佐間を始め、ホテルに泊っていた元同級生たちが、ぐるりと囲んで、タイム・カプセルが出て来るのを待っていた……。
 
 「ドキドキするわね」
 
 と、倫子は言った。
 
 「うん……」
 
 朝也は、何となく元気がない。
 
 「——どうしたの? 寝不足?」
 
 「いや、そんなことないけど……」
 
 と、はっきりしない。
 
 「何なのよ?」
 
 「ちょっと——」
 
 と、朝也は、倫子を促して、他の人たちから離れた。
 
 「どうしたの、一体?」
 
 「君のお父さん、きっと中に何があるか知ってるんじゃないかな」
 
 「ええ?」
 
 「だって、高津智子が殺されたことと、あのタイム・カプセルをつなぐものなんて、何もないんだぜ。そうだろう?」
 
 言われてみればその通りだ。
 
 「つまり、どういうこと?」
 
 「うん……。僕もよくは分らないんだけど——」
 
 と、朝也が言いかけたとき、
 
 「あったぞ!」
 
 と、声が上った。
 
 一《いつ》斉《せい》に歓声が上る。倫子たちも、急いで駆け戻《もど》った。
 
 大きな木箱が、土の下から少しずつ姿を現わした。
 
 「よし! 完全に出て来るまで掘れ!」
 
 梅川の声も、いつになく上ずっているようだ。
 
 後は簡単だった。全体の姿を見せた木箱の下へロープをくぐらせ、引き上げる。
 
 十人近い警官がかかっているのだ。いとも楽々と上って来た。
 
 箱は、そのまま地面に敷《し》かれた大きなビニールの上に置かれた。
 
 「そう腐《くさ》ってないじゃないか」
 
 「この分なら中も大丈夫かな」
 
 といった声が飛ぶ。
 
 「さあ、開けよう」
 
 と羽佐間が明るい声で言った。「我々の三十年前の青春だ。——梅川さん。あなたが開けて下さい」
 
 「いやいや、これはあなたの仕事だ」
 
 と梅川は譲《ゆず》った。
 
 「そうですか。では——」
 
 羽佐間が、箱の方へかがみ込む。——一《いつ》瞬《しゆん》、倫子は、この中に、高津智子の死体が入っているんじゃないか、という、とんでもない思いに捉《とら》えられた。
 
 箱の蓋《ふた》が開いた。——中からは、ボロボロになった本やノート、体操着、といったものが出て来る。
 
 「——これは俺《おれ》のだ!」
 
 「おい、その竹細工! 俺が作って入れたんだ! 懐《なつか》しいなあ!」
 
 次々に声が上り、一つ一つの品物が、並べられて行く。
 
 倫子は、息を呑《の》んで、その様子を見つめていた。もちろん、朝也も、である。
 
 「ひどいものもあるな」
 
 と、羽佐間が言った。「しかし、大体は、何とか原形を留《とど》めてる」
 
 ——しばらく、時間が過ぎるのが、遅《おそ》いように感じられた。
 
 「——他《ほか》には?」
 
 と、梅川が訊《き》く。
 
 「あと少しですね」
 
 羽佐間が、さらにいくつかの品物を取り出した。「——これで全部だ」
 
 「全部?」
 
 倫子が思わず言った。「おかしいじゃないの、だって——」
 
 「全部だよ。これで終りだ」
 
 羽佐間は首を振った。「結局、ここには、何も手がかりなんか、隠されていなかったんだな」
 
 倫子は呆《ぼう》然《ぜん》としていた。肩すかしもいいところだ。
 
 でも、おかしい。それならなぜ、人が死んだりしたのか?
 
 あれは単なる偶《ぐう》然《ぜん》だったのだろうか? でも、そんなことが……。
 
 「そんなはずはない」
 
 と、静かな口《く》調《ちよう》で言ったのは、梅川だった。
 
 「というと?」
 
 羽佐間が梅川を見た。「先生も何か入れたんですか?」
 
 梅川は、ちょっと羽佐間を見て、
 
 「その通り」
 
 と言った。「高津先生を刺したナイフを、ね」
 
 徐々に、周囲が静かになった。やがて、完全な沈《ちん》黙《もく》。
 
 「——あなたが高津先生を?」
 
 と、羽佐間が訊《き》く。
 
 「その通り。——私と彼女は、この学校へ来る前に、一時期同《どう》棲《せい》していたことがあったのです」
 
 では、光江の父親というのは……。梅川だったのかもしれない。
 
 「突然、彼女は私の前から姿を消してしまった。そして、この学校へ来て、私は彼女にめぐり合ったんです。——私の恋心は再び燃え上って……しかし、彼女はそれを受けてはくれなかった」
 
 梅川は息をついた。「私はてっきり、彼女が滝田と愛し合っているのだと思って、激しく妬《ねた》みました。あの日、石山に会いに行く前に、私は教室へ行って、彼女を刺し、準備してあった、このカプセルにナイフを入れたのです」
 
 羽佐間は言った。
 
 「どうしてそのことを話したんです? ナイフがなければ、何の証拠もないのに」
 
 梅川は、ちょっと笑って、
 
 「スッキリさせたかったんだな。今日、ナイフが出て来れば、否定しようもありませんからね」
 
 「ナイフはなかったんですよ」
 
 「いや、却《かえ》って決心がついたんです。黙っていてはいけない。告白するべきだ、とね。——色々心配をかけて申し訳ない」
 
 梅川は、穏やかに言った。
 
 羽佐間は、肯《うなず》いた。
 
 「それでこそ梅川先生ですよ」
 
 「昔のことです」
 
 「いや、今でもあなたは梅川先生だ」
 
 と、羽佐間は言った。「とっくに殺人は時効ですよ」
 
 「いや、人の心に時効はありません」
 
 と、梅川は言って、「羽佐間さん、本当にナイフはその中に——」
 
 「ありませんでした」
 
 と、羽佐間は言った。
 
 
 
 「——どうなってるの?」
 
 と、倫子は父に言った。
 
 もう、ホテルへ戻《もど》っていた。サロンには、梅川も同席していた。
 
 「これはお詫《わ》びしなきゃならんのだが」
 
 と、羽佐間は言った。「このホテルを建てるとき、私はこっそりと、あのタイム・カプセルを、掘り出してみたのです」
 
 「ええ? じゃ、もう中身を——」
 
 「知っていた。その中には、これがあったし……」
 
 羽佐間が、ポケットから、布にくるんだものを取り出した。
 
 「それは、ナイフでしょう」
 
 と、梅川が言った。
 
 「そうです。ナイフの持主は、頭文字で分った。これを、私は取っておいたんです」
 
 「なぜです?」
 
 と、梅川が訊《き》く。
 
 「あなたが、どうなさるのかな、と思って。——ナイフが出て来なくても、きっと、ああして、告白されるだろう、と思いましたよ。そう期待をしていましたね」
 
 梅川は、穏やかに微《ほほ》笑《え》んだ。
 
 「ありがとう。——そう言って下さると、気が楽です」
 
 「あなたが、警官になったのは……」
 
 「罪滅ぼしの意味もありました」
 
 と、梅川は肯いた。「せめて、少しは罪を償《つぐな》おうと。——もう一つ、私は、凶《きよう》器《き》の隠し場所に困って、あのカプセルに入れてしまったのですが、考えてみれば、安全な所とはいえない。三十年たてば開かれるわけです。そのとき、どうしても、そこに立ち会っていたかった」
 
 「途中で掘り出せなかったんですか?」
 
 「一人ではとても……。あなたはどうやって?」
 
 「私は工事の人間を使ったんです」
 
 「なるほど。——私は三十年、待つしかなかった。過ぎてしまえば早いものですよ」
 
 「でも——石山さんを殺したのは誰なの?」
 
 と、倫子が言った。
 
 「さっき連絡がありました」
 
 と、梅川が言った。「娘の秀代が、自首して来たそうです」
 
 「じゃ、秀代さん——実の娘が?」
 
 と、倫子は目を見開いた。
 
 「それは私の責任でもあるんだ」
 
 と、羽佐間が言った。「このナイフが出て来たことを、石山に知られてしまった。このホテルの工事をするとき、石山に頼まれて、私はカプセルを掘り出す仕事を任せてやったのだよ」
 
 「石山は、私をゆすろうとして来たんです」
 
 と、梅川は言った。「秀代さんは、父親を憎んでいたようだ。もともとだらしのない男だったんでしょう。——しかし、脅迫などということだけはやめさせたかった。争っていて、つい刺してしまった……」
 
 「滝田も秀代さんが?」
 
 「石山が、滝田を仲間に入れたんだ。むしろ、石山が滝田にしゃべり、滝田がゆすりを計画したんじゃないかな。——秀代としては、滝田の方も許せなかったわけだ」
 
 「中山久仁子は?」
 
 「石山の愛人だったようだ。もちろん、まともな女じゃない。ピアニストくずれで、滝田ともうまくやっていたらしい。石山が殺されたので、用心のために拳《けん》銃《じゆう》を買い込んで持っていたんだな」
 
 「秀代さんは、滝田を見張っていて、殺す機会を狙《ねら》っていたのね」
 
 「秀代は、中山久仁子がここにいるのを知って、危険を感じて、自分から身を隠したんだ」
 
 「そうだったの」
 
 と、倫子は肯《うなず》いた。「でも——梅川さんは、これからどうなさるんですか」
 
 「いくら時効とはいえ、署長はやっておられませんな」
 
 と、梅川は笑って言った。
 
 「一つ分らないことがあるんだけど」
 
 と、倫子は言った。
 
 「あのタイム・カプセルの案内状を、当時の同級生の人たちに出したのは誰《だれ》なの?」
 
 「私だよ」
 
 と、羽佐間が言った。
 
 「だってお父さん——」
 
 「私は『やらない』とは言ってない。すぐに分ってはPRとしても面白くあるまい」
 
 羽佐間は涼しい顔で言った。
 
 
 
 倫子と朝也は、庭へ出た。
 
 「——これで終った、か」
 
 と、朝也が伸びをした。
 
 「ねえ、あの絵を切り裂いたのは誰なのかしら?」
 
 「たぶん——光江さんじゃないかな」
 
 「お母さん?」
 
 「うん。だって、ほら、絵を見られて、よく似てるってことに気付く人がいるかもしれないじゃないか。君でさえ気付いたんだから」
 
 「そうか」
 
 と肯《うなず》いてから、「——君でさえ、って、それどういう意味よ!」
 
 と、かみつくように言った。
 
 「いや、別に——」
 
 「詳しく説明してもらおうじゃないの!」
 
 倫子は、朝也を林の方へ引っ張って行ったが……。その後、二人の言い争いの声は聞こえなかった。
 
 二人は何をしていたのだろう?——そこはご想像にお任せしておこう。
 
本書は昭和60年8月25日カドカワノベルズとして刊行されたものを文庫化したものです
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