日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

インペリアル08

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示: 8 母と娘「はい、そうそう。よくできたじゃない。昭《あき》子《こ》ちゃん、よく練習してるわ」 賞《ほ》められていやな子
(单词翻译:双击或拖选)
  8 母と娘
 
「はい、そうそう。よくできたじゃない。昭《あき》子《こ》ちゃん、よく練習してるわ」
 
 賞《ほ》められていやな子はいない。——本当のところは、毎日どころか、三日にいっぺん、十五分も練習しているかどうかだろうが、それでもニコニコしている。
 
「もうちょっとね。この左手の方が、どうしても遅くなるでしょ。それに気を付ければ……。ウーン、ま、いいか。おまけしてあげる!」
 
 一曲、「マルをもらって」、子供の顔にはホッとした表情がうかがえる。
 
「はい、それじゃ、また来週ね。この次の曲は、前にやったのとよく似てるから、自分で練習してみてね」
 
 ろくに先生の言葉なんか聞いていない。
 
 手早く楽譜をバッグへ入れ、
 
「さよなら!」
 
 バタバタと玄関から飛び出して行く。
 
「車に気を付けて」
 
 と、宏《ひろ》美《み》は声をかけた。
 
 聞こえてはいないだろうが、ともかく、つい、そう呼びかけてしまうのは、自分が母親になってからのことである。
 
 ——さて。この後は一時間空いている。
 
 次の生徒は、中学生の女の子で、いつも全く練習して来ないので、一向に先へ進まないのが悩みの種だった。
 
 それでいて母親からは、
 
「ちゃんとお月謝を払ってるんですから、真剣に教えて下さい」
 
 と文句を言われる。
 
 教師のできることなど、大してありはしない。本人が好きで、練習すること。それしかない。
 
 しかし、こんな所で、〈ピアノ教室〉を開いている限り、そんな生徒でも、大事な「お客さん」である。
 
 ともかく——この間に夕ご飯の仕度をしなくては。
 
 宏美は、茶の間を覗いた。早《さ》苗《なえ》が、昼寝から覚めて、指をしゃぶりながら、絵本を見ている。
 
「あら、起きたの?」
 
 と、宏美は笑顔で言った。
 
「ママ、おやつ」
 
 と、待っていたように、宏美の膝《ひざ》にのって来る。
 
「はいはい。何かあったかなあ……」
 
 早苗の好きなゼリーが冷蔵庫に入っている。
 
「あ、これがあった! 食べる?」
 
「ウン」
 
 早苗にスプーンを渡して、
 
「こぼさないでね」
 
 と、頭を軽くなでてやって、台所へ立つ。
 
 ——早苗が生まれて、宏美の生活は一変した。もちろん、忙しさは何倍にもなり、生徒をとる数も、減らさざるを得なくなった。
 
 しかし、それでも宏美は幸せである。充実していた。
 
 あのころ……ピアノがイコール「人生」そのものだったころに比べて、もちろん、比較にならないほどささやかな幸せかもしれないが、ともかく、ここにはずっと「人間的なぬくもり」があった。
 
 夫——松《まつ》原《ばら》紘《こう》治《じ》と結ばれるまでの、嵐《あらし》のような日々の後だけに、今の日々の平穏が、退屈でもなく、幸せと感じられるのかもしれない。
 
 冷凍しておいたシチュー。——これで我慢してもらおう。明日はレッスンのない日だから、買物に行ける。
 
 後はミソ汁を作って、サラダ……。もう若くはない夫の体を考えると、できるだけ野菜をとらせておきたい。
 
 電気釜《がま》のスイッチを入れた。——これで、夫が早く帰って来てくれるといいのだが。
 
 玄関のチャイムが鳴った。
 
「はあい」
 
 公団住宅の中層の中古を手に入れたこの家は、手狭ではあるが、建物がしっかりしているので、ピアノのレッスンをしても、下の部屋から苦情が来たりしないのが何よりである。
 
 もっとも、そのために、下の部屋の小学生の女の子には、タダでピアノを教えている。
 
「——はい」
 
 と、玄関へ出ると——。
 
「鍵《かぎ》もかけないの?」
 
「お母さん……」
 
 と、宏美は言った。「生徒が帰って、そのままだから……。大丈夫なのよ、いつも出入りしてるから」
 
「そう」
 
 宏美は、
 
「上って」
 
 と、スリッパを出した。
 
 買って来たばかりの新しいスリッパである。
 
 和《わ》田《だ》涼《りよう》子《こ》は、上り込んで、
 
「今はレッスン中?」
 
 と訊いた。
 
「ううん。そうじゃないの。今は空き。——早苗、おばあちゃんよ」
 
 早苗は、この見るからに厳格そうな祖母に、恐れを感じている様子で、
 
「おばあちゃん……」
 
 と、小さな声で言って、母親のスカートのかげに隠れている。
 
「また大きくなったわね」
 
 和田涼子も、孫を見ると笑顔になる。
 
「もう、ずいぶん見てないでしょ」
 
「そうね。一年くらい? もうじき三つでしょ」
 
「うん」
 
「大きくなるわけよね……」
 
 と、和田涼子は茶の間へ入って、座布団に座った。
 
「ママ、ピアノいじってていい?」
 
 と、早苗が言った。
 
「いいけど、お手々を拭《ふ》いてから」
 
 宏美は、タオルで、早苗の手をていねいに拭く。
 
 早苗が隣の部屋へ駆けて行くと、すぐにポン、パン、と鍵《けん》を叩く音が聞こえて来る。
 
「——お茶を」
 
「ありがと」
 
 宏美は、母の髪にずいぶん白いものが目立つのに気付いた。
 
「どうかしたの?」
 
 と、宏美は言った。「具合でも——」
 
「聞いてないの? 影《かげ》崎《さき》先生のこと」
 
 宏美は、その名前を久しぶりに聞いてハッとした。
 
「先生が……」
 
「倒れたの。演奏中に。知らなかった?」
 
「倒れた?」
 
 宏美は一瞬青くなった。「知らなかった……。新聞見てる間もないの」
 
「一応命はとり止めたらしいけど、心臓ですって。当分入院の様子よ」
 
「そう……」
 
「松原さんは知ってるの?」
 
「あの人? さあ……。そういえば、ゆうべ遅かったけど、ずいぶん。朝はあわただしく出て行くから、そんな話する暇なかった」
 
 宏美はそう言って、「お母さん、私も〈松原〉よ」
 
「そうだったね」
 
 母の涼子は、少し冷ややかな口調になって、「紘治さん——だっけ。もう五十?」
 
「まだ四十九よ。なったばかりだわ」
 
「四十九で、子供が三つね。——大変だね」
 
「お母さん、やめて……。そのことはもう——」
 
「分ってるわよ。でもね、あんたがこんなアパートで、近所の子供相手にバイエルだのブルグミュラーだの教えてるのかと思うとね……。こんなことさせるために、あんたを音大へやったわけじゃなかった」
 
「それを言いに来たの?」
 
 と、宏美は少し挑むような口調で、言った。「夕ご飯の仕度をするの。あと四十五分もしたら、次の生徒さんが来るわ」
 
「宏美」
 
 と、母が言った。「今日、電話がかかって来たの。あんたの連絡先を知りたいって」
 
「何の用で?」
 
「今井さんって、憶《おぼ》えてる?」
 
「今井?」
 
「ヴァイオリンの。ほら、影崎先生の上の娘さんと——」
 
「ああ、今井君か。今井 初《はじめ》君でしょ」
 
「そう。今、そのみさんと暮してるんですって」
 
「そのみさんと?——結婚してるの?」
 
 と、宏美は訊いた。
 
「いいえ。知ってるでしょ、そのみさんのことは」
 
「うん……。じゃ、今は今井君なのね」
 
 今井は宏美より大分後輩である。ここのところ、名前をあまり見ない。
 
「今、何してるの、今井君」
 
「ちょっと鳴かず飛ばずね。——で、今度、Tホールの小さい方で、室内楽をやるんですって。ピアノ五重奏——ドヴォルザークに出るはずだったピアノの人が、突然ドイツへ留学しちゃったとかで。代りの人を必死で捜してるの。で、あんたにどうかって訊いてみてくれってことなの」
 
 涼子の早口な言葉は、途中で遮られることを恐れているようだった。
 
「そんな……。無理よ」
 
 と、宏美は首を振って、「もうずっと本格的に練習なんかしてないわ」
 
「分ってるけど……。もちろん、お金になる仕事じゃないわ。でも、あんたが少しでも……」
 
 言いかけて、母の声が小さく消える。
 
 宏美は、母がまだ夢を捨てていないことを知った。——娘が、いつの日か一流のピアニストとして、ステージに立つ、その夢を。
 
「とても無理。そう言って」
 
 と、宏美は言った。
 
「でも——」
 
「無理よ」
 
 宏美の言葉に、母親は諦《あきら》めた様子で、
 
「そうだろうとは思ったけどね……」
 
 と、ため息をついた。「一応、連絡先を置いてくわ。——今井さんのじゃなくて、そのコンサートのマネジメントをしてる人の所ですって。今井さんは今、あの人と一緒だものね」
 
 メモ用紙がテーブルに置かれる。——むだよ。持って帰って。捨てられるだけなんだから。
 
 宏美はそう言おうとして、何とかのみ込んだ。それだけきつい言葉を母に向って言うためには、宏美にも後ろめたいところがあったのである。
 
「——いつから幼稚園?」
 
 と、母が話題を変えた。
 
 
 
 宏美は、十分遅れて来たその中学生の女の子が、いつもの通り、少しも練習しなかったことを、すぐに見ぬいた。
 
「ちゃんとやってんだけど」
 
 と平気で言っても、プロの目はごまかせない。
 
「はい。このくり返しの所から、もう一度」
 
 辛抱強く、宏美は言った。
 
 実際、近所の子供たちを教えてみて、宏美はずいぶん辛抱強くなった。教える身にとって、生徒が練習しないで来ることが、どんなに腹立たしいかも、よく分った。
 
「——ほら、よく見て!」
 
 と、宏美は言った。
 
 同じところで、もう五回も引っかかっている。
 
「面倒かもしれないけど、くり返してけいこするしかないの。分る? 指が憶えるまでやるのよ」
 
 注意されるとか叱《しか》られるということに、今の子は慣れていない。すぐにプーッとふくれてしまうのである。
 
 叱る方が悪い。教え方が悪い。——何でも悪いのは「自分じゃない」のである。
 
「ね、先生」
 
「なに?」
 
「先生の旦《だん》那《な》さんって、凄《すご》い年《と》齢《し》とってんですって?」
 
 宏美は一瞬絶句した。
 
「そんなこと、あなたと関係ないでしょ」
 
「聞いたよ、ママから」
 
「何を?」
 
「よその旦那さん、とっちゃったんだって? やるじゃない、先生」
 
 宏美は、怒りがこみ上げて来るのを、必死で抑えた。——この子の母親は、この辺では有名な「実力者」である。
 
「そんなこと、どうでもいいの。はい、もう一度」
 
「もう飽きたよ!」
 
 と、女の子は伸びをして、「ね、先生、弾けんの?」
 
「何を」
 
「これ。先生弾くの、聞いたことないなあ。ママが言ったよ。『あの先生、本当はうまくないんじゃないの?』って」
 
 どこまで本当か。しかし、あの母親なら言いかねない。——宏美は、目の前で、人を小馬鹿にしたような顔で笑っている女の子を、ひっぱたいてやりたかった。
 
 自分が習っていた先生だったら——影崎多《た》美《み》子《こ》ほど偉くなくても——とっくに一発くらっていただろう。
 
 いやならやめればいい。——親の意志で無理に習わされている子には、宏美も同情していた。そういう子は、少々できが悪くても、あまり叱らないようにしている。
 
 しかし、この子のように「練習しないけど、うまくなって、いいカッコしてみたい」という子には猛烈に腹が立つのだ。
 
「どいて」
 
 と、宏美は言った。
 
「え?」
 
「どいてごらんなさい」
 
 女の子が立つと、宏美はピアノに向った。そして——猛然と弾き始めた。鍵《けん》盤《ばん》が揺らぐかと思うほどの力で、叩きつけ、指は目にも止らぬスピードで走った。
 
 びっくりした早苗が覗きに来たくらいだ。中学生の女の子は、その凄《すさ》まじい勢いに、呆《あつ》気《け》にとられて立っていた。
 
 ほんの何分かだろうが——小さなレッスン室の中は、弾くのをやめてもしばらく、ジーンと音が鳴り響いているようだった。
 
 宏美は立ち上って、
 
「もう、帰っていいわ」
 
 と、言った。
 
「でも……」
 
 レッスンの時間は、まだ十五分も残っている。
 
「練習して来なかったら、一時間やっても同じ。来週は少しでも練習してらっしゃい」
 
「はい……」
 
 女の子はすっかり呑《の》まれてしまっている。
 
「さよなら」
 
「楽譜、忘れたわよ」
 
「あ、はい!」
 
 あわてて飛び出して行く生徒の後ろ姿を見送って、宏美は息をついた。
 
 体が熱い。久しぶりの経験だった。
 
「ママ……」
 
 と、いつの間にか、早苗が足下に来ていた。
 
「早苗ちゃん。——どうしたの?」
 
「ううん……。大っきな音だったね」
 
「そうね」
 
 と、宏美は笑った。
 
 心から笑った。久しぶりの、爽《そう》快《かい》な気分。
 
 思い切り弾いた、という快感が、宏美を捉《とら》えていた。
 
 宏美は、茶の間へ入って、自分でお茶を飲んだ。電話が鳴る。
 
「——はい。——あなた。今夜は?」
 
「あと三十分くらいで出られると思う。一緒に食べられそうだな」
 
 と、松原紘治は言った。「早苗は起きてるか?」
 
「ええ。代るわ。——パパよ」
 
「もしもし、パパ?——うん……。うん……」
 
 早苗が大きな受話器を、持て余しそうにしている。——宏美は、ふとテーブルに目をやった。
 
 母の置いて行ったメモ。
 
 ドヴォルザークのピアノ五重奏か。——宏美の好きな曲だった。
 
 でも……。あんな子をびっくりさせるぐらいは簡単でも、ホールで、一般の聴衆を前に弾くというのは、全く別のことである。
 
 とても無理。——とても。
 
 宏美は、そのメモを手にとった。ギュッと握り潰《つぶ》して……。
 
 しかし、捨てなかった。もう一度、しわをのばすと、
 
「どうでもいいけど……」
 
 と、呟《つぶや》きながら、ていねいに二つに折って、引出しへ入れたのだった。
 
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%