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キャンパスは深夜営業04

时间: 2018-06-26    进入日语论坛
核心提示:4 父と娘「夢ですって?」 と、知香が言った。「うん。そうなんだ」 と、良二はためらいがちに、「君のことでね」「へえ。私
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4 父と娘
 
「夢ですって?」
 と、知香が言った。
「うん……。そうなんだ」
 と、良二はためらいがちに、「君のことでね」
「へえ。私の夢? ——じゃ、許す」
 と、知香は笑った。
 大学のキャンパス。——穏《おだ》やかな陽気で、とても講義に出る気にはなれない(?)日だった。
 しかし、今はもう講義中ではない。二人は、広々としたキャンパスの芝《しば》生《ふ》に腰をおろして、少し帰るのが惜しくなるような昼下りを過ごしていた。
「それが、凄くリアルな夢なんだ」
「どんな夢だったの?」
「うん……」
 良二はためらった。——もちろん小泉和也にも訊《き》いてみたのだ。和也の返事は、
「お前、どうしちゃったの?」
 だった。「俺《おれ》が免許取ったなんて、そんなことあるわけないだろ!」
 要するに、和也に知香についての悩みを打ち明けたこと、知香のマンションを見張って、黒いワゴン車を追っかけたこと、拳銃をつきつけられたこと——すべてが「夢」だった、というわけだ。
 しかし……そんなことってあるのだろうか? あんなに入りくんで、しかもリアルな夢が。
 でも、本当に夢だったのだから、仕方ない。——それを一部始《し》終《じゆう》、知香へ話す気にはなれなかった。
「ま、いつかそのうち話すよ」
 と、良二は言った。
「じゃ、楽しみに待ってるわ」
 と言って、知香は立ち上ると、「私、ちょっと図書館に寄りたいの。先に帰るわ」
「うん。それじゃ」
「また明日!」
 と、知香は明るく言って、スタスタと歩いて行くと、クルッと振り向いて、「良二君、って呼んでもいい?」
「いいよ、もちろん!」
 と、良二はどぎまぎしながら、赤くなって答えた。
「じゃ、そうする!」
 知香は手を振って、小走りに、立ち去った。
 良二は、すっかりいい気分になって、立ち上ると、
「良二君、か……」
 と呟いてニヤニヤしながら、「可《か》愛《わい》いなあ!」
 ——そばで誰も見ていなかったからいいようなものの、見られたら、大学中にそのしまらない様子が評判になったであろう……。
 口笛など吹きながら、良二は大学を出た。
 ただ一つ、気になっていたのは、そもそもの疑問、つまり知香が、週末の夜、どこへ行っているのか、という点だった。
 しかし——そんなことで、知香への信頼は揺るがない。知香だって、良二のことを憎からず思っているのだから。
 今の良二は、それで充分に満足だった。
 ——一台の車が、良二の後を尾《つ》けるように、ゆっくりと動き始めた。
 そして、前後に他の学生の姿が途切れたとみると、スッと近付き、ドアが開いて、
「何するんだよ!」
 良二は、その車の中へ引張り込まれていた。
「——私は米田警部」
 と、その太った男は名乗った。「久保山良二君だね?」
「そうだけど……」
 良二は、憤然として、「何だよ、一体! 人をいきなりかっさらったりして」
「うるさいぞ」
 と、車を運転している男が言った。「痛い目にあいたいのか」
「よせ」
 と、米田と名乗った男は言った。「我々は警官だ。ヤクザじゃないぞ」
「身分証を見せろよ」
 と、良二は言った。
「疑うのかね?」
「公務員だろ。市民が要求したら、きちんと見せるのが義務じゃないの?」
「このガキ……」
 と、運転していた男がムッとしたように、「一発ぶちかましてやりましょう」
「よせ! ま、いい。それは正論かもしれん。これでいいかね?」
 良二は身分証を見ると、写真と実物を見比べて、
「髪の量が違うじゃないか」
 と、言った。
 米田はさすがにムッとした様子で、
「警官も人間だ! 見栄というものがあるのだ!」
「ま、いいや。——何の用なの?」
「署まで来てもらって、ゆっくり話をしたいね」
「逮捕令状は?」
「誰が逮捕するといった?」
「じゃ、どういう法的根拠で僕を連行するのさ?」
「この野郎——」
「よせ!」
 と、米田は前の席の男を制して、「君は署へ来ることを拒否するんだね?」
「理由もないんじゃいやだ!」
 良二は、大体、度《ど》胸《きよう》はない方だが、「手続き」とか「正当性」といった点にこだわる性格だった。
「困ったね」
「じゃ、いいよ」
 と、良二は言った。「僕のマンションへ来てくれたら、話を聞く」
「こいつ! 言わせておけば——」
「よせ!」
 ——同じパターンが、更に三回もくり返された挙《あげ》句《く》、米田は、良二のマンションに行くことに同意したのである。
 
「——一人暮しか」
 と、米田はマンションの良二の部屋へ入ると中を見回して、「大学生がマンションで一人住いね。世の中も変ったもんだ、全く」
「僕に何の用?」
 と、良二はソファに腰をおろした。
「うむ。——君のことはよく調べさせてもらった。なかなか真《ま》面《じ》目《め》な、いい学生らしい」
「僕のことを?」
「ま、怒るな。君が何かした、というんじゃない」
「じゃあ、何なのさ?」
「この写真を見ろ」
 米田がポンと投げ出した写真を手にして、良二は目をみはった。
「これ……」
「知ってるだろうな、その娘」
「娘? ——どう見てもおばさんじゃない、警部さんと肩組んでる人」
 米田はあわててその写真を取り返すと、
「いかん! こりゃ、行きつけのバーのマダムだ」
 と、真赤になって、ポケットへ入れた。「こ、こっちだった」
 その写真こそ、驚きだった。
「——知香」
 と、良二は呟《つぶや》いた。
 知香だ。しかし、大《だい》分《ぶ》前の写真だろう。一五、六歳に見える。そして、一緒にうつっているのは、大柄で、いかにも優しそうな、中年紳士……。
「若林知香。君の恋人だ」
 と米田は言った。
「恋人って……ガールフレンドだよ」
 と、良二は訂正した。
「ごまかすことはない」
 と、米田はニヤついて、「もうここへ引張り込んだのか? それともホテルで?」
 良二は、キッと米田をにらみつけて、
「もう一回言ってみろ!」
 と、怒鳴った。
「わ、分ったよ。そう怒るな。——君は真面目な子だな、本当に」
「彼女が何だっていうんだ?」
「一緒にいる男を知ってるか?」
「知らないよ」
「そうか。その娘の父親だ」
「父親……」
 そう言われるまでもない。よく見れば、笑った目もとがそっくりだった。
「若林善《ぜん》一《いち》といった。有名な泥棒だったのだ」
「へえ」
 と、言ってから、「有名な——何だって?」
「泥棒だ」
「泥棒?」
「そうだ。大物で、大勢の手下をかかえて、なかなか人望もあった」
 大物か。確かに、写真で見るだけでも、そのおっとりした様子で、ただのお人好しでないことは分る。
「二年前に惜しくも死んだ。我々は、奴《やつ》を追って、かなり追い詰めたのだが……」
「どうして死んだの?」
「若林らしい死に方だった」
 と、米田は肯いた。「駅のホームから落ちた子供を助けたのだ。そして自分は電車にはねられた」
 良二はホッとした。
 ——手下に裏切られたとか聞かされるのでは、と心配したからだ。
「新聞にも出たよ。英雄扱いだ。我々は苦い思いをかみしめたものだ」
 米田は、ちょっと息をついて、「しかしね、奴の支配していた組織は、奴の死後、いくつかに分裂したものの、未《いま》だに残っている。特に、若林に忠実だった手下たちは、今でも組んで仕事をしているらしい」
「それがどうしたの? 知香には関係ないじゃないか。父親は父親、娘は娘だ」
「分っとる。——しかし、それが関係あると言ったら?」
「どういう風に?」
 米田は、ちょっと楽しげに、良二を眺めて、
「今、その娘が、父に代って、泥棒のグループのトップに立っているのだ」
 と、言った。
 いささか芝居がかった決めのセリフだった。
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