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虹に向かって走れ11

时间: 2018-07-31    进入日语论坛
核心提示:11 いとこ同士「ねえねえ!ちょっと!」 と、大声で囁《ささや》きながら(本当にそう言うしかない)、吉《よし》原《はら》伸
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 11 いとこ同士
 
「ねえねえ!——ちょっと!」
 と、大声で囁《ささや》きながら(本当にそう言うしかない)、吉《よし》原《はら》伸《のぶ》子《こ》が走って来る。
「また、伸子は」
 友人ながら、伸子の「何でも大事件病」にはいつも恥ずかしい思いをしている芳《よし》村《むら》志《し》乃《の》は、思わず呟《つぶや》いた。
「ねえ、今、誰《だれ》を見たと思う?」
 と、吉原伸子は、ドカッと志乃にくっついてソファに座《すわ》った。
「暑いよ。くっつかないで」
 と、志乃は、少しそっけなく言ってやった。
「あ、そう。——フン、それなら教えてやらない」
 と、伸子がそっぽを向く。
「いいよ、別に。私、芸能人なんて興味ないもん」
 と、志乃は言った。
「すぐ、お高く止っちゃって」
「誰が。——伸子はね、大体、騒ぎ過ぎよ」
 と言いながら、志乃は伸子が本当に不《ふ》機《き》嫌《げん》になりそうかどうか、様子をうかがっていた。
「じゃ、いいわよ。志乃は勝手に本でも読んでれば?」
 志乃も、それ以上逆《さか》らうと伸子がつむじを曲げるな、と分って、少し譲歩することにした。——本当に疲れんのよね、伸子って!
「何よ、誰がいたっていうの?」
「興味ないんでしょ」
 と、伸子はむくれている。
 志乃と伸子はいとこ同士である。——半年違いの生れで、学年は同じ。学校も同じで、今、高校一年だが、クラスも一緒になってしまった。
 本当のところ、志乃としては、うわっついて甘えん坊の伸子は苦《にが》手《て》な相手だったのだが、母親同士が姉妹では、付合わないわけにもいかない。特に、この夏の旅行は、必ず二家族一緒で、中学一年の時から、毎年の行事になっているから、来ないわけにもいかなかったのだ。
 この高原で一週間過ごす。うまく伸子が男の子でも見付けてくれると、志乃も助かるのだが、文句は言うくせに、何かというと、伸子は志乃にべったりくっついて来る。
「お母さんたちは?」
 と、志乃は話をそらすことにした。
「テニスコート、借りに行ったみたい」
 と、伸子は言った。「好きなんだから、本当に!」
「そうね」
 でも——仕方ないんじゃないかな、と志乃は思った。
 伸子も志乃も一人っ子。もう十六ともなれば、そうそう母親の話相手はしてくれない。
 どちらも夫はエリートサラリーマンで、連日帰宅は真夜中である。休日はゴルフ、でなければ何かの接待。
 実際、志乃だって時には父親の顔を忘れちゃうんじゃないか、と本気で心配になるくらいだ。妻《ヽ》の方だって、退屈してしまって当然である。
 この旅行も、お互いに亭主抜き。テニスにでも狂ってりゃ、家庭は平和ってもんだわ。少なくとも、男なんか作られるよりは。
 志乃たちが四人で、伸子の母親の運転するBMWに乗って、このホテルに着いたのは、お昼少し前だった。昼食を取っている間に、部屋の仕度ができるということだったのだが、午後二時になっても、まだチェックインできずに、このロビーで待っているのだ。
 ホテルの入口の辺りが、ガヤガヤし始めて、志乃は振り返った。
「あ!——来ちゃった!」
 と、伸子があわてて、「ね、永《なが》谷《たに》聡《さと》子《こ》なのよ! 永谷聡子!」
 せっかく、びっくりさせてやるつもりだったのが、その当人が、ロビーへ入って来たのである。
「へえ! 撮影かしら」
 と、一応、志乃もびっくりして見せた。
 びっくりしてやらないと、また伸子がむくれるという心配もあったのだが、本《ヽ》当《ヽ》に《ヽ》、いくらかはびっくりもしたのである。
 これまで、伸子が、
「ねえねえ! 見ちゃった!」
 と、ご注《ちゆう》進《しん》に飛んで来た中では、永谷聡子は一番の大物だった。
「ね、可愛《かわい》いね、本当に!」
 と、伸子が言った。
 ちょっと可愛いぐらいのアイドルなら、伸子も小《こ》馬《ば》鹿《か》にしているのだが、確かに永谷聡子の場合は、妙に作った愛らしさではないので、あまり抵抗を感じることがない。
 志乃も、永谷聡子のことは好きだった。
「あら、あの男の人——」
 と、志乃は、ゾロゾロと入って来るそのグループの最後の方についている男を見て言った。
「剣《けん》崎《ざき》隼《はや》人《と》よ。私、にやけてて好きじゃないわ」
「違うの。剣崎隼人は知ってるわよ。——あ、やっぱり松《まつ》原《ばら》市《いち》朗《ろう》」
「誰?」
 と、伸子は顔をしかめて、「ああ、あの禿《は》げたおじさん?」
「私、好きだったんだ、あの人の時代劇」
「へえ。年上の趣味ね」
「何言ってんのよ」
 と、志乃は笑った。
「あ、ほら、君《きみ》永《なが》はじめ」
「え? ああ、あのノッポの子?」
「何か、少し鈍《にぶ》いんと違う? 馬鹿みたい」
 と、伸子も男の子の好みはうるさい。
「映画の撮影ね、きっと」
 と、志乃は、やはり好奇心もあって、ロビーで何やら打合せをしている一団を眺めていた。
「あの赤いドレス、誰かしら?」
 と、伸子が言った。
「井《い》関《せき》真《ま》弓《ゆみ》よ」
「どこかで見たなあ。——何だっけ?」
「何に出てたかまでは憶《おぼ》えてないわ」
「こっちに来ないかなあ、永谷聡子」
 伸子の期待に反して、永谷聡子は、大柄な女性と一緒に、エレベーターの方へと歩いて行った。
「ケイちゃん、夕飯は六時半だよ」
 と、誰《だれ》かが声をかけると、その大柄な女性は手を上げて、
「分ったわ。一眠りするから、邪《じや》魔《ま》しないでよ」
 と答えた。
 残ったのは、ジーパンスタイルの、スタッフたちで、出演者は大体、部屋へ戻ったらしい。
「ちょっと、宮ちゃん、夜のシーンで話があるんだ」
 と、かなり年齢の行った男が、誰やらを手招きしている。
「監督ね、きっと、あの人」
 と、志乃が言った。
「つまんない。スターはみんなお昼寝かあ」
 と、伸子は口を尖《とが》らしたが、「ね、何号室なのかなあ」
「知ってるわけないじゃない、私が」
「ね、サインもらって来ようか?」
「よしなさいよ。寝てるっていうのに」
 と、志乃は言った。「あの様子なら、まだ何日かは泊ってるのよ、きっと」
「そうかなあ」
 映画のロケ。——どんなものなんだろう?
 志乃も、全く関心がないわけでは、もちろん、なかった。
「——お母さんたち、何やってんだろ?」
 と、伸子が、苛《いら》々《いら》している様子で言った。「ちょっと見て来る」
「うん」
 志乃は、伸子がぶらぶら歩いて行くのを、見送っていた。テニスコートとは全然違う方向へ歩いている。
 きっと、永谷聡子がどこに泊っているか、誰か知ってるかもしれない、と、探りに行ったのだ。——物好きなんだから、と志乃は苦笑した。
 志乃は、ロビーのソファに座っていた。あのロケ隊のメンバーも、今は一人もいなくなっている。
 誰かが歩いて来た。——何《なに》気《げ》なく顔を向けると、スラックス姿の、スラリとした女性……。
 井関真弓だ、と気付くのに、少し時間がかかった。さっきの赤い服を替えて来たのだろうが、まるでイメージが違う。
 もちろん、志乃に見られているのも承知の上だろうが、決して目を合わせたりしない。隣のソファに腰をおろして、足を組むと、タバコを出して、火をつけた。
 そういう格好が、まるで映画の一場面のように決るのは、さすがに女優である。
 ——志乃は、若いくせに好きなスターというと、中年の渋い男優で、若いアイドルたちには、興味がなかった。もちろん、個人の好みだから、誰が誰のファンだって、構《かま》やしないのだが。
 ホテルの玄関前に、タクシーが停《とま》った。
 降りて来たのは、四十ぐらいかと思える男で、白っぽいブレザーにサングラス。やっぱり、どことなく、「芸能人」らしい。
 タクシーのトランクからスーツケースを出すと、ホテルのボーイが、それを運んで来る。
 男は、ロビーへ入ると、サングラスを外《はず》した。
 あ、小《こ》林《ばやし》準《じゆん》一《いち》だ、と志乃は思った。きっと伸子なら、顔は知っていても、名前が出て来ないだろう。TVでよく見る、ちょっと渋い脇《わき》役《やく》である。
 小林準一が、自分の方へ歩いて来たので、志乃はちょっとギクッとした。
 もちろん、そうじゃなくて、小林準一が笑いかけたのは、隣の井関真弓だったのである。
「何だ、もう終ったのか」
 と、小林準一が言った。
「夜、またやるの」
 と、井関真弓が立ち上って、「お兄さんの部屋、隣にしてもらったからね」
「お前の? いいのか」
「その方がいいの」
 と、小林準一の腕を取って、フロントの方へ歩いて行く。
「へえ」
 と、志乃は思わず呟《つぶや》いていた。
「お兄さん」だって!——井関真弓と小林準一が兄妹だったなんて。
 志乃は、伸子が戻って来たら、教えてやろう、なんて思いながら、ロビーを見回した。
 まだ、伸子は戻って来ない。——が、振り向いた志乃は、自分を見ている男の目に気付いた……。
 
 啓《けい》子《こ》は、ガクッと頭が動いた拍《ひよう》子《し》に、目を覚ました。
「いけない……。眠っちゃったんだ」
 と、頭を振る。
 夕食は六時半だったっけ。時計を見て、まだ四時を少し回ったところなので、ホッとする。
 炎《えん》天《てん》下《か》の暑さたるや、いくら丈夫な啓子でも、いい加減、参ってしまうくらいである。
 もっとも、その下で、演技している聡子はもっとくたびれているだろうが。——でも、若いんだから、彼女は。
 啓子は、ベッドの方へ目をやった。
 ベッドは空《から》だった。
「——聡子ちゃん」
 と、啓子は呼んでいた。
 トイレにもいない。出て行ったのだ。
 啓子は、ドアを開け、廊下の左右を見回した。どこかから話し声が洩《も》れて来るかもしれない、と耳を澄ましたが、むだだった。
 剣崎の所だろうか? しかし、剣崎も大分参《まい》っていた。きっと、啓子が叩《たた》き起こしに行くまでは、ぐっすり眠っているだろう。
 弟の恵《けい》一《いち》は、スタッフの若い男の子と一緒に、近くのスーパーマーケットへ、買い出しに行っている。
 いくら聡子が元気でも、ゆうべ、ほとんど徹夜の状態で、今日の炎天下の追跡シーン。
 これで、また夜間も撮影がある。——この時間に眠っておかなくては、後で応《こた》えるはずだ。
 啓子も、聡子がベッドに横になって、すぐに寝入ったのを見届けている。なぜ起き出したのだろうか?
 啓子は、階段を下りて行った。
 ロケ隊の部屋は三階に固まっている。
 こういう場所のホテルは、大体、あまり高層には造らない。ここも四階までしかないので、エレベーターもあるが、下る時は階段の方が早い。
 ロビー階へ下りて行くとちょうど階段を上りかけた畠《はた》中《なか》刑事と出くわした。
「どうかしましたか?」
 と、畠中が訊《き》く。
「聡子ちゃん、見ませんでした?」
「いや、見かけません」
「眠ってるとばっかり……。どこかしら?」
「今、食堂の方から来たんですが、会いませんでした。——すると逆の方向か」
「庭へ出たのかしら? でも、この暑さの中で」
「行ってみましょう」
 畠中は、先に立って歩き出した。
 この聡子の大ファンでもある刑事、ずっとロケに付合って、しかも、いつも上《うわ》衣《ぎ》を着ている。さすがに、ネクタイはしていないが、上衣の下に、拳《けん》銃《じゆう》をつけているのを、他の人間には見せたくないのだろう。
 啓子としては、畠中がいてくれて、大分気が楽であった。——聡子が一体何を考えているのか、本当の目的は、この刑事も知らないのだが、どうやら聡子の身に危険が迫りつつある、という点は感じているらしい。
「——さっき、井関真弓が誰かと食事していましたよ」
 と、庭への出口に向って急ぎ足で歩きながら、畠中は言った。「新顔の男性でしたが」
「じゃ、小林準一だわ、きっと。今日から入るはずですもの」
「ああ、そうか!」
 と、畠中は肯《うなず》いた。「小林準一だ。どこかで見た顔だと思った」
「本人の前で、そんなこと言わないで下さいね」
「ええ。——いや、てっきり、凶《きよう》悪《あく》犯《はん》の手配写真で見たのかと思って、考えてたんです」
「まあ、可哀《かわい》そうに」
 と、啓子は笑った。
 庭へ出るドアを開け、二人はまぶしい陽《ひ》射《ざ》しに、目を細くした。
「こりゃ、捜すのも面倒だな」
 高原に建ったこのホテル。——庭も、天《てん》然《ねん》の林を残した、木《こ》陰《かげ》の多い、その代り、見通しの良くない遊歩道になっているのだ。
「ともかく、手っ取り早く呼んでみましょう」
 啓子は、大きく息を吸い込むと、「聡子ちゃーん!」
 と、畠中が思わず飛び上ってしまうほどの凄《すご》い声を出して呼んだ。
 こういう仕事をしていると、どうしても声は大きくなるのである。
 と——かなり遠くから、
「はあい!」
 と、聡子の返事が聞こえて来た。「ここよ!」
 ああ、やれやれ!——啓子は、ホッと息をついた。
「行ってみましょ」
「ええ」
 と、畠中は肯《うなず》いて、「しかし、凄い声ですね」
「付き人の条件の一つですわ、大声で他人を圧倒できる、ってことが」
 二人は歩き出した。
 もちろん、啓子は知るはずもなかった。
 自分の呼び声が、聡子に向って突き出されようとしていたナイフを、押し止《とど》めたことを。そして、そのナイフを握った手は、そっと木立ちの陰に引っ込んだのだった。
「——聡子ちゃん、どうしたの?」
 と、かなりホテルの建物から離れた所まで来て、やっと聡子を見付けると、啓子は言った。「心配したわよ」
「ごめんなさい」
 聡子は、シナリオを手にしていた。「夜のシーン、自信がなかったから、ここで練習してたの」
「部屋でやればいいのに」
「だって、啓子さん、気持良さそうに眠ってるし、起こしたら悪いと思って」
「行方不明になられたら、もっと悪いわ」
「ごめんなさい」
 と、もう一度聡子は謝《あやま》った。
「いいわよ」
 啓子は、聡子の肩を軽く叩《たた》いて、「少し眠らなきゃ。参っちゃうわよ」
「うん……。じゃ戻って眠ろうかな」
 と、言って、欠伸《あくび》をする。「啓子さん見たら、眠くなって来た」
「どういう意味よ」
 と、啓子は笑った。
「畠中さんまで、すみません」
「いや、それより——」
 と、畠中は真《ま》顔《がお》で、「今、誰かと一緒でしたか?」
「私? いいえ」
「誰かが、走って行った」
 と、畠中はホテルの建物の方を振り向いた。
「足音が、聞こえましたよ」
「気が付きませんでした」
「もちろん、ここのホテルの客かもしれないし、あなたの顔を一目見ようというファンかもしれない。しかし、用心に越したことはありません。こういう所で一人にならないようにした方がいいですな」
「分りました」
 聡子は、素直に肯《うなず》いた。
 もちろん、畠中は、聡子のナイフ投げの腕前のほども知らないのだが……。
 三人はホテルの建物の方へと歩き出した。
「畠中さん」
 と、聡子が言った。「東京でカメラマンが殺された事件、何か手がかりはつかめました?」
 畠中は、ちょっと眉《まゆ》を寄せて、首を振った。
「だめですね。かなり長引くと思った方がいいようだ」
「楽じゃありませんね」
 と、啓子は軽い口調で言った。
 その点、啓子も気にはしていた。なぜ、別の殺人事件を捜査中の刑事が、わざわざ一アイドルスターの身を護《まも》るために、休みを取って、やって来たのか。
 もちろん、畠中の説明通りなのかもしれない。しかし、もしそうでなかったら?
 あの、太田というカメラマンが殺された事件に、このロケ隊の誰かが、かかわり合っていたとしたら……。
 そう。その可能性はあるわ、と啓子は思った。ただ聡子のことで、わけの分らない脅《きよう》迫《はく》状《じよう》が来たというだけで、刑事が九州までついて来るとは考えにくい。
 啓子は、畠中が拳《けん》銃《じゆう》で、暴走した車のタイヤを撃ち抜くのを見て以来、この見たところは呑《のん》気《き》そうな刑事が、実はただ者ではないのだとにらんでいたのである……。
「それはそうと、今夜は何のシーンですか?」
 と、畠中が、いつもの人なつっこい笑顔を見せながら、言った。
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