日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

殺意はさりげなく24

时间: 2018-09-10    进入日语论坛
核心提示:23 宴「さあ、一息でね!」 と、法子が言った。「小百合はともかく、おじいさんは無理かもね」「馬《ば》鹿《か》にするな!」
(单词翻译:双击或拖选)
 23 宴
 
 
「さあ、一息でね!」
 と、法子が言った。「小百合はともかく、おじいさんは無理かもね」
「馬《ば》鹿《か》にするな!」
 と、松永がむきになって、「見てろ!」
「待って待って! カメラ!」
「ほら……。一、二、三!」
 二つのバースデーケーキの上のロウソクが、一気にゆらめいて、消えた。ワッと上る歓声、拍手。
 一《いつ》旦《たん》暗くなった広間が、明るくなると、二十人近い、小百合と法子のクラスメイトや、そのボーイフレンドから、ガールフレンドたちがまぶしげに目を細くした。
「おじいさんも凄《すご》い! まだ元気ね」
 と、法子は松永の肩をポンと叩《たた》いた。
「当り前だ。お前が花嫁姿を見せてくれるまでは、頑張らんとな」
 と、松永は笑った。「——さあ、みんな好きなように食べるなり飲むなりしてくれ。私は適当に失敬するからな」
 音楽がかかる。——松永にはとても理解できない、テンポの早い、頭の痛くなりそうな音楽である。
 音楽に負けじと大声でしゃべるのが、若い世代の好みなのかもしれない。松永は苦笑しながら、ワインを飲んでいた。
 ——法子は、ことさらにはしゃいでいた。
 もちろん、自分がこの場を楽しくさせなくては、という気持もあったのだが、それだけではなかった。無理にでも、みんなと騒いでいないと、つい征人の方へ目が行ってしまうからだった。
 今夜だけは——今夜だけは我慢しなくては。小百合のために。そう自分に言い聞かせても、法子の胸は痛んだ。
「——酔ってるのか?」
 と、当の征人がやって来て、言った。
「まさか。シャンパンよ」
 と、法子は笑った。
「飲み過ぎるなよ、いくらシャンパンでも」
「私は大丈夫。——小百合をお願い」
 小百合は、一人でポツンとソファに腰をおろし、皿に取り分けた料理を食べていた。
 クラスの子たちも、「法子に招《よ》ばれて」来ているのだ。小百合のことは、どうしても敬遠してしまうのである。
「だけどなあ……」
 と、征人は言った。
「お願い。話し相手になってあげてよ」
「うん」
 と、征人は肯いた。
 小百合は——幸せだった。
 悲しいくらい、幸せだった。何はともあれ、征人が、手の届く所にいてくれるのだから。
 それ以上は望まなかった。クラスの子たちが、自分を避けていることも、分っていた。
 でも——小百合は慣れていたのだ。いつも、隅の方でおとなしくしている役回りなのだから。
「もっと食べる?」
 と、声をかけてくれたのは、マチ子だった。
「あ——いえ、今はもう」
「若い人はもっと食べなきゃ」
「後でいただきます」
「今日は、旦那様だけじゃなくて、あなたも主役なのよ。もっと堂々としていなきゃ」
 小百合は、ちょっと戸惑った。もちろん、マチ子の言葉は嬉しかったが、マチ子にそんなことを言われるとは、思ってもいなかったのだ。
 マチ子は大人しく、無口で、ただ言われた仕事を黙々とやるタイプの人だ、と小百合は思っていた。それが、まるでず《ヽ》っ《ヽ》と《ヽ》年《ヽ》上《ヽ》の《ヽ》女性のような話し方をしている。
 小百合は、マチ子がまるで別人のように見えることに、急に気付いたのだった。
「——これ、食べない?」
 と、皿が差し出された。
 料理の取り合せはいささか妙だったが、
「ありがとう」
 と、小百合はすぐに受け取った。
 持って来てくれたのは、征人だったのだ。
「あらあら」
 と、マチ子が笑って言った。「やっぱり運び手次第みたいね」
「あの——別に、私——」
 と、小百合が言いかけると、
「いいのよ。沢山取って来てもらって、食べなさいね」
 と、マチ子は楽しげに言って、小百合のそばを離れて行った。
 征人は、小百合の隣に座って、
「旨いな、この料理」
 と、自分の皿をすっかり空にしてしまう。「きっと高いんだろうな」
「そうね」
 小百合も、少し料理を口に入れた。
「もっと、みんなの所へ行ったら?」
 と、征人が言うと、小百合は目をそらして、
「迷惑するわ、みんな」
「友だちだろ」
「でも、無理ないわよ。こうして、一緒の部屋にいてくれるだけでも、ありがたいと思わなくちゃ」
「そんなことないよ。みんな——」
「私も疲れてるから。あんまり色んな子と話すと、気をつかって、もっと疲れるわ」
「そうか」
 征人も、あまりしつこく言わない方がいいと思い直したようだ。「大変だろうけど……元気出せよな」
 ちょっと、聞いていて気恥ずかしくなるくらい、「気のきかない」セリフだったが、それでも小百合は嬉しかった……。
「やあ」
 と、やって来たのは、松永だった。「お互い、おめでとうってわけだね」
「あの——」
 小百合は立ち上って、「わざわざ私まで招んでいただいて……」
「座って、座って」
 松永は小百合の肩に手をかけて、座らせると、「本当なら、君のおじいさんにも、来てもらいたかったがね」
「ええ……」
「君のおじいさんが無罪放免になったら、盛大にお祝いをやろうじゃないか」
 松永は、前から少し飲んでいたせいか、いくらか酔っている様子だった。
「ああ、そうだ」
 松永は行きかけて、思い出したように振り返ると、征人の方へ、「関谷君——だったかな?」
「はい」
 と、征人が答えた。
「例のアルバイトの件だが、いい所が見付かりそうだよ。任せておきなさい」
「ありがとうございます」
「いや、何しろ法子の頼みじゃ、いやとも言えんからね」
 と、松永は笑って見せた。「その内、連絡が行くと思う。しっかりやってくれよ」
「はい、それはもう……」
「今の若いのは、ちょっと辛い仕事だと、すぐに出て来なくなる。君はまあ、そんなこともないだろうが」
「はあ」
「じゃ、ゆっくりしていってくれ」
 と、松永は手にしていたウィスキーのグラスを、ちょっと揺って見せて、「これを飲んだら、そろそろ退散するよ」
 ニヤリと笑って、いささか場違いな、若い人たちの中を歩いて行く。
 小百合は、征人が自分から目をそらしているのに、気付いていた。
「——アルバイト、捜してもらったの」
 と、小百合は言った。「良かったわね」
「うん……」
 征人は曖昧な調子で、「彼女が、頼んであげるって言ったもんだからね」
 小百合は、友だちとおしゃべりしながら笑っている法子へ、じっと燃えるような目を向けていた。——おじいさんに頼んであげるわ。私のおじいさん、偉いんだから。
 そうよ。小百合のおじいさんみたいに、女の子を殺したりしないんだから……。
「ちょっと、飲みものがほしい」
 と、小百合が言うと、征人は却ってホッとした様子だった。
「持って来るよ。コーラでいい?」
 何でもいい。何でも。——毒入りのコーラだって構わないのよ。
 小百合は、皿をわきへ置いて、立つと、広い窓の方へと歩いて行った。もちろん、外は夜で、暗かったが、庭にも照明があるので、いくらかは様子が分った。
 窓ガラスに顔を近付けると、吐く息でガラスが白くくもる。——法子は、もうしっかりと征人を、捕まえてしまっている。クモが糸でからめとってしまうように。
 私には、何もできない。彼のために、何もしてあげられない……。烈しい勢いで、やりきれない思いがこみ上げて来て、小百合は急いで部屋を出た。
 二階へ駆け上ろうかとも思ったが、そうせずに、廊下を奥の方へ、少し薄暗がりになった辺りまで行って、足を止めたのは、待っていたからだろうか?
 でも——きっと来やしないだろう。来るはずがない。私の後なんか、追いかけて来るはずが……。
「どうかしたの?」
 振り向くと、征人がジュースのコップを手に、やって来るところだった。「コーラが、ちょっと切れちゃってて……」
「ありがとう」
 と、小百合は受け取って言った。
「どうしてこんな所に」
 小百合は、ジュースを飲もうとはせず、じっと征人を見つめた。
「征人さん……」
「うん……」
「法子のこと、好きなんでしょ」
「好きって……。会ったばかりじゃないか。それに——」
「私にキスできる?」
 自分の言葉ではないようだった。誰か、見たこともない女の子が言ったのだ。だって、私にそんなこと、言えるわけがないもの……。
「ねえ——」
「できないでしょ。法子が好きだから」
 困らせてはいけない。困らせ、追い詰めたら、征人はもっと遠くへ行ってしまう。——分っているのに。
「まだ君、子供じゃないか」
 と、征人は言った。「そうだろ?」
「そうね。——変なこと言って、ごめんなさい。コーラで酔ったのかな」
 征人はホッとしたように、微笑んで、
「じゃ、戻ってるよ、僕は」
 と、行ってしまった。
 私から逃げられてホッとしてるんだ。——参ったよ、あの子には。法子に、きっとそう話すのだろう。だって、キスしてくれなんて言うんだぜ……。
 その征人の声、それを聞いた法子や、クラスの友だちの笑い声が耳に届いて来るような気がして、小百合はよろけた。
 コップが落ちて、ジュースが廊下のカーペットにぶちまけられるのも気付かず、両手でしっかり耳をふさぐと、目をつぶった。
 法子……。どうして私からあの人を盗ったの! 返して! 返してよ!
 すると、誰かの手が、小百合の肩に置かれた。
 
 神山絹代は苛《いら》立《だ》っていた。
 マチ子が、落ちつき払っている分だけ、絹代の苛立ちは増した。
 しかも——これは絹代も認めないわけにはいかなかった——マチ子は、何人ものパートの主婦や、バイトの女の子たちを使って、立派にパーティの用意をすませてしまった。
 あたかも、絹代に、
「もう、あなたは必要ありません」
 と、言ってのけたようなものだ。
 実際のパーティそのものは、絹代とマチ子が二人で運営している。法子の友だちがやって来る前に、松永の仕事関係の客が何人か集まって、別室で簡単な会があったのだが、そっちもマチ子が一人で動き回り、巧みに絹代に手出しをさせなかった。
 そして今もまた……。
 絹代は苛立っていた。——帰って来た松永に、マチ子のことをはっきりさせてもらおうとしたのだが、
「パーティの日だ。そんな話はしたくない」
 と、いやな顔をされてしまった。
 一体マチ子は、松永の何《ヽ》を《ヽ》握っているというのだろう?
 絹代は広間の隅に立って、マチ子が、若い子たちに料理をすすめたり、取り分けたりするところを見ていた。
 ——そう。何《ヽ》か《ヽ》あったのだ。
 人間は、ああも短い時間で、大きく変れるものではない。恐ろしいほどの変り方には、よほどの理由があるはずだ……。
 ふと、絹代は思い付いた。——マチ子は当分、ああして忙しく動き回っているだろう。絹代の姿が見えなくなったところで、どうということもあるまい……。
 絹代は、静かに広間を出た。
 廊下を奥へ。足早に進んで、マチ子の部屋の前まで来た。チラッと振り返ってから、そのドアを開け、中へ滑り込んだ。
 それほど広い部屋ではない。せいぜい六畳間ぐらいの広さ。ベッドがあり、つくりつけの戸棚。
 別に目当てがあるわけではなかった。何が見付かるか、見当もつかない。
 ただ、マチ子の変りようを理解する手がかりが、ほしかったのだ。
 しかし、ものを片付けることにかけては、誰にも負けない絹代だが、「にわか空巣」としては、何とも不器用だった。
 戸棚を開けてざっと見回し、引出しも一つずつ開けるが、それだけ。——これで何も見付かるはずがない。
 絹代は、息をついて、てのひらの汗を拭った。どうしても、後ろめたい思いがあるので、緊張してしまうのである。
 しっかりして! もっと手早くやれないの?
 何か、マチ子が隠したいものがあるとしたら? どこへしまっておくだろう?
 絹代は、床に膝《ひざ》をついた。ベッドのシーツが、床すれすれまで、垂らしてある。いつもは、マットレスの下へ折り込まれているはずだ。
 そっとシーツをめくってみる。——何も見えないが……。
 いや、何か、布にくるんだものがある。それも、ずっと奥の方へ押し込んであった。
 不自然に、無理に押し込んだ感じである。絹代は、思い切って床に腹《はら》這《ば》いになると、ベッドの下へ、手を突っ込んだ。ごわごわした感じの布が触れる。
 つかんで、何とか引張り出すと、それはコートだった。
 コートをなぜ、こんな所へ押し込んでいたのだろう? 絹代は、しわくちゃになったそのコートを手に、立ち上り、振ってみた。
 別に変哲もない、大して高価とも見えないコートで、マチ子が着ていたものに間違いない。
 絹代は、コートを裏返してみて、眉《まゆ》を寄せた。内側に、黒く、汚れが広がっている。黒く?
 明りにかざして、その汚れを見た絹代は、
「まさか」
 と、呟いた。
 長年家事をやって来たのだ。汚れは色々見慣れている。これは——たぶん、血《ヽ》の汚れだ。
 なぜ、コートの内側にこんな風に血がついたのだろう? マチ子がけがをしている様子はなかったが……。
 もう一度コートを振ってみて、絹代は、少し重い感じがするのに気付いた。何か入っている。
 ポケットを探って、そ《ヽ》れ《ヽ》を取り出した時、絹代の顔は青ざめていた。台所で使っていた肉切り包丁。その刃は、血で汚れ、乾いていた。
 何なの、これは? 思わず絹代は包丁を取り落とした。
 誰か呼ばなくちゃ! 誰か——そう、旦那様に話そう。そして警察を……。
 ドアの方へ向いた絹代は、いつの間にかそこに立っていたマチ子と、相対することになった。
 
 法子は、いつの間にか、征人の姿が見えなくなっているのに気付いた。
 もちろん、広間からちょっと出ることだってあるだろうし……。トイレにでも行っているのかもしれない。
 そう思って、クラスの女の子たちとおしゃべりしていたのだが……。
 気付いてからでも、十五分も戻って来ない。——どこへ行ったんだろう?
 そして、法子は、小百合も見えないことに気付いた。いつからいなくなったんだろう?
「——ね、小百合、見なかった?」
 と、訊いてみても、誰も知らない。
 もともと小百合と松永のためのパーティなのに、今はもう、ただの「パーティ」になってしまっている。当の主人公は二人ともいないのである。
 法子は広間を出た。廊下をマチ子がやって来た。
「マチ子さん。——小百合を見なかった?」
 と、法子が訊くと、マチ子は、ちょっとの間ポカンとして、
「いえ……。存じません」
 と、首を振った。
「ありがとう」
 ——マチ子さん、どうしたんだろう? 息を切らしてるみたいで、赤い顔して。
 疲れたのかな。パーティの仕度って大変だろうから。
 それにしても……。征人と小百合。二人ともいないというのが、法子には気になっていた。
 もちろん、そ《ヽ》ん《ヽ》な《ヽ》こ《ヽ》と《ヽ》はない。小百合だって、恋を語るなんて余裕はないはずだ。
 でも、法子は、征人にわざわざ言ってやったのだ。相手をしてあげて、と。
 二人で一緒にいるのだろうか? でも——どこで?
 しばらく、法子は廊下に立ち尽くしていた。そして、階段を上り始めた。
 小百合の部屋。——小百合を泊めている部屋。
 二人が、二人きりでいるとしたら、そこしかないだろう。
 法子は、足が自然に動いて、二階へと上り、小百合のいる部屋へと向っていた。
 行ってはいけない。もし、本《ヽ》当《ヽ》に《ヽ》小百合が征人と二人でいるのだったら、そこへ法子が入って行ったらどうなるか。
 しかし——止《や》められなかった。
 胸苦しさに、息が荒くなるほどだった。まさか、小百合が征人に抱かれてるなんてことが……。
 そんな馬鹿なことがあるわけはない。
 小百合……。私《ヽ》の《ヽ》彼《ヽ》を、盗らないで!
 ドアは閉っていた。耳を澄ましても、何も聞こえて来ない。
 どうしよう? 入ってみるか。それとも……。せめてノックしてから?
 しかし、法子はドアを開けていた。黙って、いきなり開けたのだった。
 ——部屋は静かで、明りも消したままだった。
 何てことはなかったのだ。法子は、息をついて、自分の思い過しに、笑いたくなった。たぶん、征人は征人で、小百合は小百合で、どこかにいるんだろう。それとも、この家の中で迷子になってるのかな?
 法子はドアを閉めようとして……。少し、目も慣れたのだろう。奥のベッドが、少し盛り上っているのに気付いた。
 小百合?——気分でも悪いのかしら。
 法子は、歩いて行って、そっと覗《のぞ》き込んだ。
 小百合が眠り込んでいる。毛布をしっかり顔の半分ほどまでかけて。
 くたびれたのか。大体、パーティのような場は得意ではない小百合である。
 法子は、毛布が曲っているのを、直してやろうとした。——小百合の肩が、つややかに光った。
 小百合……。どうして服を脱いでるの?
 法子は、ゆっくりと毛布をめくって行った——。
 
「あら、法子、どうしたの?」
 パーティに戻ると、クラスの女の子が、声をかけて来た。「顔色が良くないみたい」
「少し悪酔いよ」
 と、法子は答えた。「ねえ。——関谷君、知らない?」
「関谷? ああ、あの子ね、ちょっと見た目のいい」
「いないの。見かけなかった?」
「さあ……。法子、予《ヽ》約《ヽ》してたの?」
「そんなんじゃない」
 と、首を振って歩き出した。
 体が震えるようだった。——征人が、小百合を抱いたのだ。他の誰と小百合があんなことを……。
 小百合は裸で、ぐっすりと眠り込んでいた。
 征人はどこへ行ったんだろう? 法子と会うのが辛くて、帰ったのか。
「——あ、法子」
 と、友だちが法子を見付けてやって来た。「これ、さっき預かった」
 メモを渡されて、法子はドキッとした。征人だ、と直感した。
 走り書きで、〈君の部屋にいる〉とだけあった。
 私《ヽ》の《ヽ》部屋に? 待っているから来い、というのだろうか?
 小百合にあんなことをしておいて、今度は私に?——信じられなかった。
 行ってみるしかない。法子は、再び広間を飛び出した。
 二階へと階段を駆け上る。——自分の部屋のドアを、少しためらってから、大きく息を吸い込んで、開ける。
 部屋は暗かった。法子は、確かに明りを点《つ》けておいた記憶がある。
「征人さん」
 と、法子は言った。「いるの?」
 手をのばして、明りを点けようとした時、いきなり、誰かの手が法子を背後から抱きしめた。同時にドアが音をたてて閉じる。
「やめて!——何よ!——何するの!」
 法子は、体を持ち上げられ、手足をばたつかせた。
「誰? 征人さんなの? ふざけるのはよして!」
 ベッドの上に、投げ出された。起き上ろうとした法子の上に、黒い影がのしかかって来た。大きな、力強い手が法子の口をふさぐ。
 法子は、恐怖に凍りついた。征人ではない! しかも、相手はふざけているわけでも、遊んでいるわけでもなかった。
 ねじ伏せるその力には、荒々しさが——はっきりした「悪意」があった。
 法子は身《み》悶《もだ》えした。服を引き裂かれる音を聞いた。叫ぼうとして、声が出ないのは、口をふさがれたからではない。恐ろしさのあまりだった。
 抵抗など、無と同じだった。両手を重ねて頭上高く押えつけられ、足を割られた。
 か細い声が喉《のど》から洩《も》れる。もがくことも、顔をそむけることもできなかった。
 やめて!——お願い!
 こんなことが、どうして? 私の部屋の中で——。
 突然、明りがついた。
「——離れなさい」
 と、男の声がした。「その子から、離れるんだ」
 先に、法子には、ドアの所に立っている、拳《けん》銃《じゆう》を持った男が目に入った。
「警察の者だ。——ベッドから下りなさい」
 その時になって、初めて法子は自分の上にのしかかっていた男を見た。
 ——自分の祖《ヽ》父《ヽ》の《ヽ》顔《ヽ》は、別人のように、歪《ゆが》み、汗をうかべて、青ざめていた。
 夢なんだわ、これは……。きっと、悪い夢なんだ。
「さあ、松永さん。——そっちへ行って、椅《い》子《す》に座って下さい」
 松永は、ゆっくりと動いて、椅子に身を沈めた。
「佐川です。林田さんと一緒にお会いしましたね」
 と、その刑事は言った。「この子はあんたの孫でしょう! 何てことを!」
「君らに分るか」
 と、松永はかすれた声で言った。「この子は、私のものだ」
「お話はゆっくり聞かせてもらいますよ」
 と、佐川は言った。
 ドアが開くと、顔を出したのはマチ子だった。
「一一〇番してくれたかね」
 と、佐川は言った。
「はい。でも——」
「この男をかばって、嘘をついてたね。君は。しかし、見ただろう。こんな子供にまで手を出す男なんだ」
 マチ子が部屋へ入って来た。
「君、下にいて、パトカーが来たら、ここへ案内してくれ」
「パトカーは来ません」
 と、マチ子は言った。
「何だって?」
 佐川は、松永から目を離すわけにいかなかったのだ。もちろん、まさかマチ子が敵だとは思っていなかったのである。
 マチ子が言った。
「あなたの上司を殺したのは、旦那様じゃありません。私です」
 同時に、佐川の背に、刃物が突き立っていた。
 ——法子は叫びをのみ込んだ。松永もまた、腰を浮かした。
 佐川が、よろめき、膝をつくと、床に転がった。マチ子が肩で息をついた。
「旦那様には……分っていただけますね」
「マチ子——」
「林田って刑事も、この人も……。絹代さんも、私の幸せを邪魔しようとしたんです。旦那様。あなたがどんな方でも構わないんです、私……」
 マチ子は、血に汚れた刃物を、もう一度、しっかりと構えた。
 法子は、マチ子にとって、自《ヽ》分《ヽ》も《ヽ》また邪魔者だということに気が付いた。
「おじいさん!」
 と、法子は叫んでいた。「止めて!」
 マチ子の目は、烈《はげ》しい殺意で、本物の刃が刺すよりも早く、法子を射抜いていた。マチ子は法子に向って、大《おお》股《また》に突き進んだ。
 ドアが大きく開いた。
「やめろ!」
 と、叫んで誰かが飛び込んで来る。
 大内だった。
 マチ子が振り向く。構えた刃の切っ先に向って、大内の体はぶつかって行った。大内の両手がマチ子の首を促《とら》えた。
 同時に刃は大内の体内に食い込んでいた。マチ子が仰《あお》向《む》けに倒れ、大内がのしかかった。
 マチ子の首を絞める大内の指の力は、衰えなかった。マチ子が真赤な顔で、もがいた。
 大内の体から溢れ出た血が、マチ子の胸から下のカーペットへと広がって行くと、やがてマチ子がぐったりと力を失い、動かなくなった。
 そして、大内は、身動きできずにいる法子の方へ顔を向けると、
「悪い……夢ですよ」
 と、呟くように言って、マチ子の上に重なるように伏せ、動かなくなった。
 松永が、よろけて、立ち止った。
「何だ……。どうしたんだ、俺《おれ》は……」
 松永は、弱々しい、一人の老人になっていた。
 ——廊下へよろけ出た法子が、人を連れて戻った時、松永は、床にうずくまり、一人すすり泣いていたのだった……。
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%