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天使は神にあらず01

时间: 2018-09-20    进入日语论坛
核心提示:1 午後の雨 どこに行けって? 加《か》奈《な》子《こ》は、フン、と鼻を鳴らした。こんな雨の日に、どこへ行ったって面白く
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 1 午後の雨
 
 
 どこに行けって?
 加《か》奈《な》子《こ》は、フン、と鼻を鳴らした。——こんな雨の日に、どこへ行ったって面白くも何ともないじゃない。
 どこへ行け、どこに行くな、あそこへ行け、ここへ来い。
 うるさいっちゃない! 放っといてよ、他《ひ》人《と》のことなんか!
 何もかも面倒くさくて、うっとうしい。加奈子は、そんな年代だった。
 十七歳。——たいていの子は高校生というやつをやっていて、加奈子も本当は高校生なのである。見ての通り、何だか時代遅れのセーラー服は着ているし、ペチャンコの学生鞄《かばん》は提げているし——。もっとも、鞄の中はほとんど空っぽ。
 入っているのは、鏡とかクシとか、それと拾いもののテレホンカード。面白くないね、全く!
 阿《あ》部《べ》加奈子が、こんなに苛《いら》立《だ》って歩いているのは、ちょっと珍しいことだった。ま、たいていいつも少しはふてくされているのだけど、それでも、普通なら学校に行ってるし、鞄の中に教科書とノートの一、二冊ぐらいは入っているのだ。
 授業を真《ま》面《じ》目《め》に聞いてるか、と訊《き》かれると、確かな答えはできかねるが……。
 ——雨の午後だった。
 どこへ行く、というあ《ヽ》て《ヽ》があるわけでもなく、加奈子は通りを歩いていた。胸の中に渦巻いているのは、怒り——借金をこしらえてどこかへ逃げてしまった父親への怒りと、前からの若い恋人を、これ幸いと家へ引張り込んでいる母親への怒りだった。
「学校へちゃんと行かなきゃだめよ」
 母親は、そう言ったもんだ。お酒の匂《にお》いをプンプンさせて。
 だから加奈子も格好だけは学校へ行くような服装で出て来た。それで充分でしょ? それ以上を期待されたってね。
 家を出る時には降っていなかったので、傘はなかった。
 加奈子がその道を歩いていたのは、だから特別な理由があってのことではなかったのだ。ただ理由といえば、店の軒がずっとつながっていて、あんまり濡《ぬ》れずに歩けそうだと思っただけなのだった。
 もちろん、家は朝の内に出て、昼まで適当に公園や本屋をぶらついていた。それから、お腹《なか》が空《す》いて、何か食べようとした時、財布を忘れて来たことに気が付いたのだ。
 家に帰るのもいやだし、といって、何も食べずに夕方までうろついているのも辛《つら》い。どうしたものかと迷いつつ、歩いている内に、雨になったのである。
「もう……やんなっちゃう」
 加奈子は、少し足を止めて、降りやまない雨空をうらめしげに見上げた。
 雨足は強くなって、傘なしではとても歩けないくらいだった。仕方なく、そのまま軒下に立ちつくす。幸い、そこは小さな洋品店の前で、加奈子が立っていても、文句は言われなかった。
 雨の中を、ふらふらと歩いている男がいる。——浮浪者らしい。
 もちろん傘がないので、濡《ぬ》れ放題だ。しかし、当人も、それを惨《みじ》めとも思わなくなっているのだろう。
 すると——その男がバッタリ倒れた。加奈子はドキッとした。男は、別に苦しむとか痛くて身をよじるとかいったことなしに、電池の切れた人形みたいに、バタッと雨の中で倒れたのだった。
 人が倒れるのを、目の前に見るというのはめったにあることじゃない。加奈子は、どうしたらいいのか、迷いながら立っていた。
 駆け寄って抱き起す、なんていっても、女の子一人の力ではとても……。それに、その後どうしていいものか、さっぱり分らない。
 救急車でも呼んだ方がいいのだろうか?
 加奈子は、誰《だれ》か他《ほか》の人が通りかかって、何とかしてくれるのではないかと期待しながら立っていた。しかし、夜にならないとあまり人の通らない道なのだ。
 この店の人に訊《き》いてみようか。電話で、一一〇番でもして、何とかしてもらうように……。
 車の音がした。——目の前を、かなり大きな車がふさいだ。ちょっと面食らうほど大きい。
 マイクロバスくらいの大きさがあるが、一応普通の乗用車である。
 その車が、加奈子の前で停った。——何だろう?
 見ていると、車の向う側のドアが開いて、男が二人、降りた。そして、あの倒れている男の方へ駆け寄ると、二人でかかえ上げ、車の中へ運び込んだのである。
 何だろう? 加奈子は首をかしげた。別にこの車が、どこかの役所の車というわけでもないらしいし……。
 でも——私には関係ないことだわ。
 ともかく、あの倒れた男を、自分で何とかしなくてすんだので、加奈子はホッとした。
 すると——加奈子の正面の窓が、スッと開いたのである。
 男の顔が見えた。口ひげをたくわえた、色の浅黒い男で、まだそう年《と》齢《し》はいっていないようだったが、髪が少し白くなっている。そして、目がちょっとドキッとするほど、鋭かった。
 その男は、チラッと通りの前後を見やってから、雨の落ちて来る空を、目を細くして見上げた。それから下りて来た視線が、加奈子の上に止った。
 加奈子は、その男と一《いつ》旦《たん》目が合うと、目をそらすことができなくなった。怖《こわ》い、というのとは微妙に違う。
 どこか、人をひきつけるものを持った、黒い目だ。その奥へ、加奈子は吸い込まれて行きそうな気がした……。
 車がエンジンをかけ、ゆっくりと動き出した。すると、男が前の方へ、
「待て」
 と、言ったのが、加奈子の耳に入った。
 車がまた停った。
 男は、今度はどこか優しい目になって、加奈子を見ていた。
「——どこへ行くんだね」
 見た目の印象より、ずっと穏やかで柔らかい声が、加奈子に訊いた。
 加奈子は黙って首を振った。
「時間はある?」
 加奈子は黙ったまま、肯《うなず》いた。
「じゃ、乗りたまえ」
 そんな、見も知らない人の車に……。いつもの加奈子なら、乗らなかっただろう。
 でも、不思議なくらい素直に、加奈子は男が開けてくれたドアから、車の中へと乗り込んだのである。
「やってくれ」
 と、男は言った。
 座席のクッションはすばらしかった。——あの運び込まれた男はどうしたのか、そんなこと、アッという間に忘れてしまった。
「さて」
 と、男は言った。「何かしたいことは?」
 加奈子は、ちょっと迷ってから、
「お腹《なか》が空《す》いて考えられない」
 と、言った。
 男は楽しげに笑った。
 
 加奈子は、目を覚ました。
 すっきりした目覚め、というわけにはいかなかった。何だか——まるで何日間も眠っていたような、けだるい感覚が、手足の先までしみ渡って、なかなか体を動かすことができなかった。
 でも……。どこだろう、ここ?
 自分の部屋でないことは確かだった。大体、加奈子の家は布団で、こんなベッドじゃない。
 こんな大きなベッドを入れたら、いる場所がなくなっちゃうだろう。
 大きな……ベッド?
 加奈子は起き上った。——私。私、何をしてたんだろう?
 何があったのか。ここで。このベッドの上で……。
 加奈子は不安になった。着ているものといえば、薄い、見たこともないネグリジェみたいなものだけ。
 そう。——あの男について来た。そして食事をして……。凄《すご》く豪《ごう》華《か》な、おいしい食事だったけど。
 お腹一《いつ》杯《ぱい》食べて、眠くなって……。それから? 何があったのか?
 思い出せない。憶《おぼ》えていない。
 加奈子は、出て行こう、と思った。ともかくここから早く——。
 でも、服がない! 広い寝室は、けばけばしいような家具で埋められていたが、そのどこかに、自分のセーラー服は入っているのだろうか?
 ドアが開いて、あの男が入って来た。加奈子はあわててベッドの中へ潜り込み、毛布を顎《あご》の所まで引張り上げた。
「ぐっすり眠ったね」
 と、男は微《ほほ》笑《え》んで言った、「もう昼近くだよ」
「お昼……? じゃ、あれは昨日?」
 加奈子は愕《がく》然《ぜん》とした。「帰らなきゃ、私……」
「帰る?——家《うち》へ帰って、楽しいかね」
「楽しいってことも……。でも、やっぱり……」
「お母さんが若い男と楽しくやってる所へ、帰ってどうするんだね」
 加奈子は面食らった。どうしてこの人は知ってるんだろう?
「お父さんは蒸発、お母さんも、働いて君を大学へやろうという気はないようだ。君は、高校へ通っても面白くない。そうだろう?」
「だけど……」
「高校だけは何とか出たとして、どこかの事務員でもやるか。お母さんの方は彼氏と楽しくやって、君は汗水たらして、わずかの給料をもらうか」
「だって……他にどうしようがあるの? 私、何もできないのに」
「できるとも」
 と、男は言った。「私は、ゆうべ君のことをよく見ていたんだ」
 加奈子は身を固くした。
「私——いやよ。こう見えたって……」
 どう言っていいのか、よく分らなかったが、ともかく、「変なことさせないで。私……」
「誰がそんなことを言った?」
 と、その男は笑って、「もし、私に妙な下心があって、君をここへ連れ込んだとしたら、君が今、何ごともなく起きられたと思うかね? そうだろう」
 そう言われると、加奈子も言い返しようがない。加奈子はまだ「未経験」だし、確かに、寝ている間に変なことをされた、ということもないようだ。
「じゃあ……私に何になれって言うの?」
 と、加奈子は訊《き》いた。
 男は、加奈子のそばへ来て、ベッドに腰をおろした。
「君は神《ヽ》になるんだ」
「何になるって?」
 加奈子は耳を疑った。
「神さ。——分るかね」
「私に——死ねっていうの?」
「違う。君はそのままで神として、みんなに崇《あが》められるんだ。来たまえ」
 加奈子は、裸同然の格好で、恥ずかしかったが、男の言葉には、有無を言わせぬものがあった。ベッドを出て、その部屋を出る。
 すぐ隣の小部屋へ入り、明りが点《つ》くと、男はテーブル状の台の上に広げてあった衣《い》裳《しよう》を取り上げて、
「これを頭からかぶって着るんだよ。——さあ」
 と、言った。
 絹だ。光沢の美しい、真白な、スッポリ体を包む、不思議な服だった。よく見ると、金銀の糸で、広くなった袖《そで》口《ぐち》や、丸いえりもとに目をみはるような刺《し》繍《しゆう》がしてある。
「これを?」
「肌《はだ》の上に直接着るんだ。——さ、ためらうことはないよ」
 加奈子は、男の目を見ている内に、まるで催眠術にでもかけられたように、奇妙に気分が昂《こう》揚《よう》して来た。
 ネグリジェをフワリと足下に落とすと、裸身に、スッポリと、その衣裳をまとう。ひんやりと肌に触れて、快かった。
「重いわ」
「そうとも。しかし、だからこそ威厳がある」
 男は少し後ずさって、加奈子を眺めた。
「——似合う?」
 と、加奈子は少し照れて訊いた。
「ぴったりだ」
 男は肯《うなず》いた。「君は自分が可《か》愛《わい》いと思うかね?」
「私?——普通だと思うわ。別に……」
「まあ、アイドルスターにスカウトされることはないだろうね。しかし、君の目にはね、不思議な魅力がある。黒く、大きく、人をひきつけるものが」
 そんな風には、加奈子は考えたこともなかった。でも——こんなものを着て、何をするんだろう?
「おいで」
 と、男は加奈子の肩を抱いて、促した。
 廊下が果しなく続くような気がした。ともかく、とてつもなく大きな家らしい、と加奈子は思った。
「——あの音は?」
 と、加奈子は訊いた。
 どこからともなく、ウワーッ、ともゴーッとも言いがたい、大きなこだまのような響きが近付いて来たのだ。
「君を待っているのさ」
 と、男は言った。「もうすぐだ」
 廊下を曲ると、両開きの、大きな扉が現われた。彫《ちよう》刻《こく》や浮《うき》彫《ぼ》りを施した、重そうな扉で、両側に男が一人ずつ立っていた。加奈子のまとっているのと同じような形の、もっと簡素な服を着ている。
「開けて」
 と、男は言った。
 扉が両側へ大きく開くと、赤いカーペットを敷きつめた部屋があり、正面には重々しいカーテンが閉じられていた。あの響きは、その向うから聞こえているようで、扉が開くと、加奈子を包み込むほど大きくなった。
 その部屋には、十人ほどの男女が——みんなかなりの年輩だったが、——集まって、一《いつ》斉《せい》に加奈子の方へ目を向けた。加奈子は一瞬逃げ出しそうになったが、男が、力づけるように肩を叩《たた》いてくれて、少し落ちついた。
「皆さん」
 と、男が言った、「我らの新しい教祖様です」
 教《ヽ》祖《ヽ》様《ヽ》?——加奈子にも、やっと自分の立場がおぼろげながら分って来た。
 神。——教祖。この人たちは、きっと何かの宗教団体の幹部なのだろう。
 でも、どうして私《ヽ》が《ヽ》教祖様なの。
「——いいね」
 と、髪の白くなった、ずんぐりした男が肯いて言った。
 ここの男女は、みんなごく当り前の背広やスーツ姿で、ちょっとした会議でもやっている感じだった。
「申し分ないわ」
 と、かすれた声で言ったのは、やせぎすの、凄《すご》く度の強いメガネをかけた女性だった。
「待ってますよ、みんな」
 と、少しせっかちそうな、中年の男がせかすように言った。
「ともかく、これでひとまず安心だ」
 と、ずんぐりした男が息をつく。「さあ、早く、台に」
 カーテンが開けられた。背中を押されて、ゆっくりと進み出て行くと……。
 加奈子は、夢を見ているのかと思った。こんなことが——こんなことがあるだろうか?
 そこは、途方もない高みに張り出した、半円形のバルコニーだった。
 そして、何十メートルも下には人々が——何千人か何万人か、想像もつかないくらいの人々が、広大な床を埋めていたのだ。頭上には丸天井が、まるで空そのもののように広がって、人々のざわめき、どよめきは、そこへ立ち昇って渦を巻いているかのようだった。
 そして、バルコニーの手すりの所まで加奈子が進んで行くと——人々のざわめきはたちまちの内におさまった。余韻が、まだ空中を漂っている中に、加奈子の傍《そば》に立った男の声が響いた。
「信者のみなさん」
 ごく普通にしゃべっているようなのに、その声は、この巨大なホールの隅々にまで届いた。
「——我らの新しい教祖様です」
 そして、加奈子の方へ囁《ささや》いた。「両手を高く上げて」
「え?」
「みんなの歓声を受けるように。さあ——」
 加奈子は、おずおずと、両手を上げた。目に見えない宝物でも捧《ささ》げ持っているような格好で。
 すると——一《いつ》斉《せい》に歓呼の声が上った。その声は巨大な波のように、うねりながら加奈子を呑《の》み込もうとしている。
 加奈子は恐《きよう》怖《ふ》を感じた。この場から逃げ出したいと思い、そしてなぜか同時に、決してここから自分が動けないだろうということを、知っていたのだった……。
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