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霧の夜にご用心07

时间: 2018-09-28    进入日语论坛
核心提示:寂しい逃亡者 〈切り裂《さ》きジャック、第二の凶《きよう》行《こう》?〉 〈恨《うら》みか? 手配中の小浜一美の上司殺さ
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 寂しい逃亡者
 
 〈切り裂《さ》きジャック、第二の凶《きよう》行《こう》?〉
 〈恨《うら》みか? 手配中の小浜一美の上司殺さる〉
 〈独身女性のヒステリーが原因?〉
 私は、電車の中で目につく見出しに、ため息をついていた。
 女は三人もの男を殺した。
 もちろん本当の意味での切り裂きジャックとは違《ちが》う。ジャックは夜の女なら誰《だれ》でも見境なく殺した。
 しかしこの女は、今のところ、桜田、山口、という関連のある人間を殺している。あのフロントの男は別にしてだが。
 それにしても、これで小浜一美が犯人であるという容《よう》疑《ぎ》は決定的になった。
 当人たちは隠《かく》しているつもりだったろうが、一美と山口の関係も、警《けい》察《さつ》が調べれば、早《そう》晩《ばん》明るみにでよう。そうなれば、一美は殺人者の烙《らく》印《いん》を押《お》されたも同然だ。
 重苦しい気持で出社すると、会社は大《おお》騒《さわ》ぎだった。もちろん、課長の一人が殺されたのだ。当り前の話である。
 私が、たぶん一番静かにしていたのではないだろうか。
 「——平田さん」
 と、女の子がやって来た。
 「何だい?」
 「警察の方が」
 「分った」
 来ると思っていたのだ。
 応接室へ入って行くと、桜田が殺されたときに来た、中年の刑《けい》事《じ》——確か川上といった——と、やたら高圧的に出て来る若《わか》い刑事の二人だ。
 「——どうも、課長さんはとんだことでしたね」
 と川上という刑事が悔《くや》みを述べる。
 「恐《おそ》れ入ります」
 「今度の犯行も、前の桜田殺しと手口が大変よく似ているのです」
 と川上は言った。
 「すると、やはり小浜君の犯行だとお考えなんですね?」
 「当り前ですよ」
 若いほうの刑事が言った。どうにも、すぐに突《つ》っかかって来る。
 「松《まつ》尾《お》君」
 と、川上がたしなめて、「どうでしょう? 小浜一美には、山口さんを殺すような理由がありましたかね」
 と訊《き》いた。
 「どうして僕《ぼく》にそんなことをお訊きになるんです?」
 「小浜一美と親しかった。そうでしょう」
 と松尾とかいう若い刑事が口を出す。
 「同《どう》僚《りよう》です。それだけですよ」
 「山口さんのことはどうでした?」
 と、川上が言った。
 「どうだったかとおっしゃられても。——どういう意味のご質問ですか」
 「あなたの個人的な感想ですよ。お好《す》きでしたか?」
 「課長をですか?」
 私は大して迷わなかった。「好きとは言えませんでしたが」
 「なぜです?」
 「あまり器《うつわ》の大きい人ではなかったですしね。自分勝手で口やかましかったし」
 私は肩《かた》をすくめて、「要するにふつうの上役でしたよ」
 と言った。
 「いや、これは皮肉ですな。耳が痛《いた》い」
 と、川上刑事は笑った。「しかし、殺したいとは思わなかった?」
 「世の中に上役がいなくなりますね。そんなことをしていては」
 と私は言い返した。
 「昨日は、山口さんは残業されましたか?」
 「さあ、分りません」
 「あなたは?」
 「帰りましたよ。課長はまだそのときは社にいました。その後のことは分りません」
 「なるほど」
 川上刑事は肯《うなず》いた。「山口さんが殺されたとき、ホテルのその部《へ》屋《や》の宿《しゆく》泊《はく》名は、〈小浜一美〉となっていましたよ」
 「本名で泊《とま》っていたんですか。ずいぶん大《だい》胆《たん》ですね」
 「そうですな。ホテルなどは、やはり指名手配犯などは気を付けていますからね」
 「じゃ、もしかしたら他の人間じゃないんですか? 彼女がやったと見せるために……」
 「その可能性はあります」
 と、川上刑事は肯いたが、どこまで本気でそう答えていたのかは、疑《うたが》わしい。
 私からは大して聞き出せないと思ったのか、川上刑事は、
 「もう結構です」
 と、私を解放してくれた。
 その後も、しばらくは何人かの社員、特に女子社員たちをかわるがわる呼《よ》んでは、話を聞いていた。
 二人の刑事たちが帰っていったのは、もう昼近くだった。
 社長が、全社員を会議室に集め、何だかわけの分らぬ訓辞を垂《た》れた。要するに、しっかり仕事をしろ、ということだったらしい。
 席へ戻《もど》ると、すぐに昼休みのチャイムが鳴った。私は昼食を食べに社を出ようとしたのだが……。
 どうも妙《みよう》だった。いつもなら、チャイムと共に、一《いつ》斉《せい》にワッと社内から人が消えるのに、今日は、みんなやけにぐずぐずしていて、なかなか席を立たないのだ。
 「——平田さん、食事に出るの?」
 と女の子の一人が言った。
 「うん。君は?」
 「だって——出にくいわ。社の人があんなことになって」
 「そうよ」
 と他の一人も肯いた。「他の社の人に言われるのよね、色々と」
 「本当に迷《めい》惑《わく》しちゃう!」
 私は呆《あき》れて彼女たちの顔を眺《なが》めたが、何を言う気もなくなって、一人でさっさと社を出て行った。
 外へ出て、さてどこへ行こうか、と思案した。
 少し高いが、ちゃんとしたレストランへと足を向ける。——少々、会社の連中への反《はん》抗《こう》心も頭をもたげていたのだ。
 高いせいで、中は空《す》いている。もっとも、ここも以前に比べるとランチなども用意して、大分入りやすくしている。
 高級志向では、こんなオフィス街《がい》ではやって行けないのだろう。
 もっとも、こっちも、千円や千五百円のランチがあるからこそ、こうしてたまには来られるのだが。
 一人でのんびり食べて、デザートとコーヒーが出るのを待っていると、
 「平田様、いらっしゃいますか?」
 と、レジから声があった。
 私のことだろうか?——別人かな、と思いつつ、一応出てみようかという気になった。
 「——平田ですが」
 「お電話が入っております」
 「そう。別の平田さんかな。——まあ、出てみます」
 私は受話器を取った。「もしもし、平田ですが」
 少し間があって、
 「平田さん? 小浜です」
 という声。私はびっくりした。
 「君……どこにいるんだ?」
 「その近く。もしかしたら、と思って、あっちこっちへかけてたの」
 「そうか。——新聞見た?」
 「ええ。でも私じゃない! 本当に私じゃないのよ!」
 「分ってるよ」
 と私はなだめた。
 「もう……どうしていいのか分らないわ」
 「ゆうべはどこへ泊ったの?」
 「やっぱり、あんな感じのホテルよ。でも、同じ所に泊るなんて、そんな度《ど》胸《きよう》ないわ」
 小浜一美は、軽くため息をついて、「大変でしょうね、会社」
 と言った。
 「うん。でも、その内きっと分るさ。元気を出して」
 「ありがとう。——平田さんの言葉が一番嬉《うれ》しいわ」
 彼女の声が震《ふる》える。泣いているのだ。私は胸《むね》が詰《つ》まった。
 「ねえ、これからどうするんだい?」
 と私は訊いた。
 「分らないわ。——まだお金は少し残ってるの。どこか、働ける所はないかしら」
 「そんな……。ねえ、五時までどこかで時間を潰《つぶ》していられる?」
 「ええ、たぶん……」
 「じゃ、帰りに会おう」
 「でもあなたの迷惑じゃ——」
 「いいんだ。ともかく待っててくれ」
 「ありがとう」
 一美の声は、本当に嬉しそうだった。
 人を喜ばせることができる。それは私にとって、滅《めつ》多《た》にない経験であった。
 
 「さあ、入って」
 私は言った。
 小浜一美は、おずおずと私の部屋へ入って来た。
 「遠《えん》慮《りよ》しないで。——さあ、座《すわ》って」
 私は窓《まど》のカーテンを閉《し》め、ドアにもチェーンをきちんとかけた。
 「ごめんなさい、図《ずう》々《ずう》しくついて来て」
 と、一美は言った。
 「僕が誘《さそ》ったんだよ、何を言ってるんだ」
 私は、やかんをガスにかけて、
 「ここにいる間は安心さ。ゆっくりしているといいよ」
 私はデパートで買いこんで来た弁当を二つ出して、
 「さあ食べよう。お茶を淹《い》れるからね」
 「それぐらいは私にやらせて」
 と一美が立ち上がる。
 私も、お茶は彼女に任せることにした。
 食事の間は、二人とも、努めて事件の話はしないようにしていた。
 彼女も、やっといつもの彼女らしい落ち着いた笑《え》顔《がお》を見せた。
 「——さあ、これからどうしましょうか」
 と、食事を終って、お茶をいれかえると、一美が言った。
 「疲《つか》れたろう? 風《ふ》呂《ろ》を沸《わ》かすから、入って寝《ね》るといいよ」
 一美は、微《ほほ》笑《え》んだ。
 「ありがとう。——でも、あなたを刑《けい》務《む》所《しよ》へ送るような真《ま》似《ね》はしたくないわ」
 「大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》だよ。その内には、真犯人も捕《つか》まるさ」
 「どうかしら」
 一美は首を振《ふ》って、「山口さんまで殺されてしまって。——これで私が姿《すがた》を消した理由を説明してくれる人がいなくなったわ」
 その通りだ。山口の死は、一美の桜田殺しの容疑を晴らすことを不可能にしてしまった……。
 「でも誰かしら? 桜田さんと山口さんを殺す人なんて、想像がつかない」
 「うん、全くだ。しかも山口課長を殺した奴《やつ》は、ホテルに君の名で泊っている」
 「私のことを知っているのね。それに、あのホテルに泊っていたことも」
 不思議だ。なぜあの女は、それを知っていたのだろう?
 「ねえ、平田さん、私——」
 と、一美が言いかけたとき、ドアを叩《たた》く音がして、一美は息を呑《の》んだ。
 「押《おし》入《い》れに!」
 私は低い声で言った。「——はい!」
 「今晩は。回《かい》覧《らん》板ですよ」
 と隣《となり》の家の奥《おく》さんの声だ。
 「ちょっと待って下さい!」
 一美が押入れに入るのを確かめ、玄《げん》関《かん》のドアを開ける。
 「ご苦労様です」
 「じゃ、これ。——お客様?」
 と、その奥さんは、部屋の中を覗《のぞ》き込《こ》んで言った。
 テーブルの上に、二つの弁当箱《ばこ》、茶《ちや》碗《わん》が出たままである。
 「ああ、ちょっと——親《しん》戚《せき》が来て、もう帰ったんです」
 と私は言った。
 「そう。じゃ、どうも」
 ——私はホッと息をついた。
 靴《くつ》だけでも片付けておいて、よかった。
 足音が隣の部屋へ消えるのを確かめ、私は押入れの戸を叩いた。
 「もう大丈夫だよ」
 戸が開いて、一美が出て来ると、大きく息を吐《は》き出した。
 「何だか……息が詰まりそうだった」
 しばらく、どちらも口をきかなかった。——やはり、こんな部屋に一美をかくまっておくのは無理なのだ。
 「ともかく風呂を沸かすよ」
 と私は立ち上がった。
 先に彼女を入れて、私はTVを見ていた。ニュースでは、また彼女の写真が出ている。
 何とかして、彼女の無実を証明する手《しゆ》段《だん》はないだろうか?
 ここまで来てしまっては、難しいように思われた。
 警察は完全に彼女を犯人として追っている。もし今後も、あの女が犯行を重ねたとしても、それまでが一美の犯行ということになってしまうだろう……。
 彼女が出て来る様子に、私は背《せ》を向けた。
 「いいお湯だった。——こんなにホッとしたの、アパートを出てから初めてよ」
 「それは良かったね」
 私はTVを消した。
 「平田さん、入って」
 「うん。先に寝てくれ」
 私は、彼女のほうを見ないようにして、風呂場へと入った。——何しろ狭《せま》いアパートである。
 どこか、彼女が安心していられる場所が必要だ。
 しかし、私とて、二つも部屋を借りるほどの金はない。どうしたものだろう?
 考えながら、ゆっくりと入《にゆう》浴《よく》して、すっかりのぼせてしまった。
 もう眠《ねむ》っているかな。——そっと風呂場を出て、私は空《から》っぽの部屋を見回した。
 たたんだままの布《ふ》団《とん》の上に、小さなメモが置かれていた。
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