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怪指纹:恐怖城

时间: 2021-08-15    进入日语论坛
核心提示:恐怖城 その城郭のような一軒家に到着すると、川手氏は先ず、広い邸にたった二人で留守番をしている老人夫婦に引合わされた。夫
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恐怖城


 その城郭のような一軒家に到着すると、川手氏は先ず、広い邸にたった二人で留守番をしている老人夫婦に引合わされた。夫婦とも見た目こそ頑丈(がんじょう)な老人であったが、気だては至極淳樸(じゅんぼく)な田舎者、これなら身の廻りの世話をして貰うにも気が置けないし、その上護衛の役も勤まると、川手氏も大気に入りであった。
 同行した宗像博士は、一晩そこに泊って、川手氏の気持の落ちつくのを見届け、老人夫婦にその世話を(ねんごろ)に頼んだ上、直ちに東京に引返した。復讐鬼は東京にいるのだ。そして、今頃は影武者とも知らず、(にせ)手氏の身辺に悪魔の触手を伸ばしているに違いない。博士は、その見えざる敵と、愈々最後の勝負を決するために、一日もぐずぐずしている訳には行かなかった。
 川手氏が城郭の不思議な掛人(かかりうど)となってから、四五日は何事もなく経過した。陽春の山(ずま)いは(うれ)いの身にも快かった。土蔵造りの白壁も明るく、それを取りまく雑木林の枝々には、黄ばんだ若芽のふくらみも暖かく、吊橋の下の小川は軽やかにせせらぎ、樹間に呼び交う鳥の声も、浮世離れてのどかであった。
 三度の食膳には、老夫婦が心尽しの、新鮮な山の珍味が列べられ、退屈すれば、うらうらと日ざしの暖かい庭の散歩、夜ともなれば、老夫婦の語る山里の物珍らしい物語、忘れようとて忘れられぬ悲しみを持つ川手氏も、環境の激変に心もなごみ、時には、何か保養の旅にでも出ているような気分になることもあった。
 ところが、山住いの物珍らしさに、だんだん慣れて来るにつれて、川手氏は身辺に何となく気がかりな空気を感じ始めた。あれ程の用心をしたのだから、復讐鬼がこの山中まで追駈けて来るということは、全く考えなかった。その点はすっかり安心し切っていたのだけれど、それとは別に、広い城郭住いの朝晩、何とはなしに怪談めいたゾクゾクするような雰囲気が、ひしひしと身にせまるのを覚え始めた。
 最初それに気附いたのは、五日目の夜更けのことであった。ふと目を覚ますと、どこかでボソボソと人の話声(はなしごえ)がしていた。天井の高い寒々とした十二畳の座敷、ここには電燈の設備がないので、石油の台ランプを使っているのだが、それも吹き消して(しん)についた、全くの暗闇である。
 一間(ひとま)隔てて老夫婦の部屋があるので、彼らが(おい)の寝覚めの物語でも交しているのかと想像したが、それにしては人声が遠すぎる。しかも二人ではなくて、三人四人の声が入り混っているように思われる。
 何町四方人家のない山中、この城郭には自分を混ぜて三人しか人が住んではいないのに、そんな多人数の話声が聞えるというのはただ事でない。幻聴かしら、イヤイヤ、幻聴ではない。確かにどこかこの建物の中の遠くの方で、意味は少しも聞き取れぬが、ボソボソという話声がいつまでも続いている。五十男の川手氏も、それを聞いていると、ゾーッと水をあびせられたような怖れを感じないではいられなかった。
 城郭には一階と二階を合せて、二十に近い部屋数がある。老人二人では迚も全部の掃除が出来ないので、入口に近い階下の五間(いつま)程を除いては、全く雨戸を閉め切って、誰も入らぬことにしているのだが、若しやその()かずの部屋の奥の方に、何者かが深夜の会合をしているのではあるまいか。山賊共か。まさか今どきそんなものが、人里近いこの辺に棲んでいる筈もない。では、山の奥からさまよい出した(こだま)の精、老樹の精、沼の精、童話の国の魑魅魍魎の(たぐい)であろうか。
 闇と静寂と山中の一軒家という考えが、川手氏を子供のように臆病にしてしまった。しかし、頭から蒲団を被ってちぢこまるほどではない。彼は枕許の手燭(てしょく)に火をつけて、小用(こよう)に起き上った。
 念のために廻り道して、一間隔てた老夫婦の部屋を覗いて見たが、二人は山慣れた健康者、夜半(よなか)に目を覚ますこともないと見え、グッスリ寝入っている。
 広い冷い廊下を踏んで、ガランとした昔風の便所に入った。窓の外はすぐに大樹の茂みである。小障子を開けて空を見ると、星もない真暗闇、大樹の(こずえ)がカサコソと動くのは、夜鳥(やちょう)か、それとも、川手氏などには馴染のない小動物が住んでいるのか。
 そうしていると、心が澄んで、夜の静けさがしんしんと身にしみる。その静寂の中に、突然、実に突然、川手氏は人間の笑い声を聞いたのである。
 丁度便所の壁の外の辺、女の、恐らくは若い女の忍び笑いの声であった。低いけれども、おかしくて耐らないというようにいつまで笑いつづける、まがう(かた)なき女の笑い声であった。
 川手氏はゾーッと背筋がしびれるように感じて、外へ出て調べて見る勇気もなく、そのまま寝室へ逃げ帰った。すると益々不気味なことには、手燭をかざして、急ぎ足に通り過ぎる廊下の闇で、スーッと何者かにすれ違ったのである。何か小さなものであった。しかし、人間には違いない。子供とすれば四つ五つの幼児である。それが、目にもとまらぬ素早さで、行手の闇から、足音も立てず、矢のように走って来て、川手氏の袖の下をくぐり、うしろの闇の中へ姿を消してしまったのだ。重ね重ねの怪異に、その夜はまんじりともせず、朝になるのを待って、老夫婦にその(よし)を告げると、ひどく笑われて、山住いに慣れない人はよくそんなことを云うものだ。人の話声は、堀の小川のせせらぎを聞き誤ったのではないか。女の笑い声は、夜の鳥が鳴いたのであろう。廊下の小坊主は、気のせいでなければ、大方いたずら猿めが迷い込んでいたのであろうと、一向取合ってはくれなかった。
 だが、怪異はそれで終った訳ではない。翌日は昼間から、不思議なことが起った。川手氏が老人達の部屋で暫らく話し込んで、自室に帰って見ると、床の間に置いたスーツケースの位置が明かに変っていた。紫檀(したん)の大きな(テーブル)の上に置いてあった懐中時計が裏返しになっていた。同じ卓上の手帳が開かれていた。
 一度なれば川手氏の思い違いということもあるだろうが、二度三度同じことが起った。今度は念の為めに、色々な品物の位置をよく記憶して置いて、暫らく部屋を開けて帰って見ると、ちゃんとその位置が変っている。もう思い違いではない。この城郭の奥の方には、老夫婦も知らぬ何者かが住んでいるのだ。そして、川手氏を驚かせようと、企んでいるのだ。
 そんなにおっしゃるなら、御得心の行くように、邸中の雨戸をあけて家捜しをして見ましょうと、その翌日は、三人で広い邸内を二階も下もすっかり調べて見たが、別に怪しいこともなかった。どの部屋にも人の住んでいたような気配は見えぬのだ。
 それごらんなさい。やっぱり猿かなんかのいたずらですよと、老夫婦は笑い話にしてしまったが、川手氏はどうも納得が行かなかった。何かしら身近に、人の(におい)が感じられた。妖気とでもいうようなものが、ひしひしと身に迫るのを覚えた。
 すると、その晩のことである。
 川手氏は深夜また目が覚めて、どこからか()れて来る人の話声を聞いた。そして、前の晩と同じように、手燭をつけて小用に起きた。今夜もひょっとしたら、あの笑い声がするかも知れない。川手氏は覚悟をきめて耳を澄ましていた。今度こそ鳥の鳴き声か人間の声か聞き分けてやろう。
 窓から覗いた空には、やっぱり星がなかった。そよとの風もない梢に、カサコソと不気味な音がしていた。
 突然、アア、又してもあの笑い声だ、若い女が、(たもと)で口を蔽って、身体を曲げて、忍び笑いをしているような、あの笑い声だ。川手氏は目の前に、その若い女の白い顔が見えるような気がした
 今夜こそ正体を見現わさないでおくものか。かねて心に定めて置いた通り、川手氏は急いでそこを出ると、音のせぬように、廊下の端の雨戸の(くるる)をはずし、ソッと引き開けて、真暗な庭の声のしたと思われる箇所へ手燭をさしつけた。
 だが、恐らくは今の間に逃げ失せてしまったのであろう。そこには一むらの南天が黒く押黙っているばかりで、人らしい物の影はなかった。
 しかし、人の姿は見えなかったけれど、それよりももっと妙なものが、忽ち川手氏の注意を惹いた。というのは、その廊下の斜向うに、(かぎ)の手になった建物の大きな白壁が、夜目にも薄白く、目を圧するように浮上っているのだが、その白壁の表面にボーッと白く(りん)のような光がさしていたのである。
 オヤ、何だろう。ギョッとして、よく見直すと、壁を塗り直した(あと)ではない。たしかに何かの光である。直径二間にもあまる巨大な円を描いて、その部分だけが映画のように浮き上っている。
 だが、怪異はそれだけではなかった。じっと見ていると、その丸い光のなかに、何かしら、無数の蛇でも這っているような、妙な黒い模様が、朦朧(もうろう)と見えて来るのだ。何百何千とも知れぬ蛇だ。イヤ、蛇ではない。何だか、えたいの知れぬ模様だ。どこかで見たような模様だぞ。どこで見たのかしら……。あまりに大きすぎてよく分からぬが…………
 川手氏はその巨大な模様めいたものを見つめているうちに、心臓の鼓動がピッタリと止まってしまうほどの、はげしい驚きにうたれた。驚きというよりも恐れであった。ゲエッ、と吐き気を催すような深い恐怖であった。
 無数の蛇の塊と見えたのは、何千何万倍に拡大された人間の指紋であることが分って来たからだ。しかも、オオ、どうしてあれを忘れよう。その巨大な指紋には、三つの渦巻があったではないか。二つは、まん丸く上部に並び、一つは、楕円形に下部に拡がっている。お化けの顔だ。一間四方のお化けが山中の一つ家の庭で、ニヤニヤと笑っているのだ。
 川手氏は、訳のわからぬうめき声を立てながら、死にもの狂いに廊下を走った。
 そして、老夫婦の部屋の障子を乱打しながら、狂気のようにその名を呼んだ。
 それから、何事が起ったのかと、びっくりして飛び起きた二人に、事の次第を話して、庭を調べてくれるように頼んだ。
 老人達は、又かというように、川手氏の幻覚を笑った。いくらなんでも、その三重渦巻の悪者とやらが、こんな山の中までやって来る筈がない。宗像先生があれ程用心に用心を重ねて、敵の目をくらましておしまいなすったのだから、決して決してその心配はない。旦那様は幻でもごらんなさったのでしょうと、相手にしないのである。
 それでもと、頼むようにして、やっと庭を調べて貰ったが、二人の老人が提灯(ちょうちん)をつけて、例の白壁のところへ行って見た時には、もうそこには何の光りもなければ、巨大なお化け指紋など影も形もないのであった。
 それではやっぱり幻を見たのかしら。怖い怖いと思っているところへ、あの笑い声を聞いたものだから、つい復讐魔を聯想(れんそう)して、何もない白壁の上に、あんな恐ろしい物の影を、我れと我が心に作り出したのかしら。
 その晩は解き難い謎を残して、そのまま(しん)についたが、翌日はうらうらと暖かい日ざしを味方に、まさか真昼間怪しい奴が庭に隠れていることもあるまいと、川手氏は昨夜の謎を確めるために庭へ降りて行った。
 太陽の光で、例の白壁の表面を調べて見たが、別に怪しい影もなく、それと見まがう亀裂(ひび)がある訳でもない。若しあれが幻燈の影だったとすれば、幻燈器械はあの辺に据えつけてあった筈と(かたわ)らの木立の奥に目をやると、そこの小高くなった薄暗い空地に、ヒョッコリと新しい石碑が建っているのに気付いた。
 オヤ、今まで度々庭を散歩したのに、ここにこんなものがあるのは、少しも知らなかった。変だなあ。あれはどうやら誰かの墓石らしいが、庭の真中に墓地があるなんて。
 川手氏はいぶかしきまま、つい木立をかき分けて、そのじめじめした薄暗い中へ入って行った。近よって見ると、それはまだ磨いたばかりの真新しい墓石であることが分った。決して半月も一月も前からあるものではなく、昨日今日ここに運び込まれたものとしか見えぬのだ。
 妙なことに、その墓石の表面には、戒名(かいみょう)のあるべき中央の部分が空白になっていて、その(わき)のところに、小さく「昭和十三年四月十三日歿(ぼつ)」とだけ、今(のみ)を入れたばかりのように、クッキリと鮮かに刻んであった。
 待てよ。昭和十三年と云えば今年ではないか。四月といえば今月ではないか。そして、十三日といえば、アア、何ということだ。今日は十二日だから、十三日と云えば明日の日附ではないか。
 川手氏は気でも狂ったのではないかと、我が目を疑った。幻覚ではない。決して読み違いではない。この通り確かに昭和十三年、四月、十三日と()ってある。態々(わざわざ)指を当てて、一字一字をさすって見たが、決して読み誤りではなかった。
 一体これは何を意味するのだ。明日死ぬに違いない誰かの墓が、こうしてちゃんと用意されているのであろうか。だが、どんな重病人でも、いつ何日(いくか)に死ぬと予め分っているというのは変ではないか。死刑囚ででもない限り……、と考えている内に、川手氏は見る見る幽霊のように青ざめて行った。
 若しかしたら、これは俺の墓じゃないのかしら。
 あの深夜の笑い声といい、昨夜の白壁の怪指紋といい、幻視幻聴と思えばそうのようでもあるが、若しあれらが、何者かの計画的な悪戯(いたずら)であったとすれば……何者かといって、外に誰があんな妙な真似をするものか。三重渦巻の指紋の主だ! あいつが早くもこの隠れ家を探し当てて、奇怪な復讐の触手を伸ばしているのではあるまいか。そうとすれば、この墓石の謎の日附の意味も分って来る。「十三日」に「歿」する人は、外ならぬ俺自身なのだ。俺は明日中に、何らかの手段によって復讐魔の為めに惨殺されるのではないだろうか。俺は今、こうして自分自身の墓石を見せつけられているのではあるまいか。
 川手氏はクラクラと眩暈(めまい)を感じて、今にも倒れそうになるのを、やっと我慢して、(あえ)ぎながら母屋に引返し、老夫婦にこの事を告げたので、二人のものは、又かと云わぬばかりに、目を見交しながら、兎も角急いで現場(げんじょう)へ行って見たが、案の定、そこには、いくら探しても新しい墓石なんて、影も形もないことが確められた。
 まるで狐につままれたような話だけれど、川手氏自身も、あの大きな石碑が、かき消すようになくなっていることを認めない訳には行かなかった。
 川手氏は我が耳我が目が恐ろしくなった。重なる心痛の為めに、視覚や聴覚に異状を来たしたのではあるまいか。イヤ、視覚聴覚ばかりではない、脳細胞そのものが病気に(かか)っているのではないだろうか。こんな山の中の独居(ひとりい)がいけないのかも知れぬ。このままここにいては、気が狂ってしまうような不安を感じた。
 川手氏はそこで、老人に話して東京の宗像博士に、火急に相談したいことが出来たから、直ぐお出でを乞うという電報を打つことにした。そして博士の判断を求め、その結果によっては別の場所へ居を移そうと考えたのだ。
 午後になって博士からの電報が到着した。明日行くという返事である。川手氏はその返電に力を得て、やっと気分を落ちつけることが出来た。そして、その晩(しん)につくまでは別段の異変も起らなかったのだが……
 しかし、川手氏は遂に宗像博士に会うことは出来なかった。博士が来なかったのではない。川手氏の方が城郭から姿を消してしまったのだ。その翌朝、老人夫婦は旦那様の蒲団(ふとん)が空っぽになっているのを発見した。早朝から庭でも散歩しているのかと、庭内を(くま)なく探したが、どこにも姿はなかった。座敷という座敷を見て廻ったが、川手氏は屋内にもいなかった。まるで神隠しにでも遭ったように、空気の中へ溶け込んででもしまったように、彼は、その日限り、つまり四月十三日限り、この世界から消失(きえう)せたのであった。
 では川手氏は一体どうなったのか。その夜中(やちゅう)彼の身辺にどのような怪異が起ったのであるか。我々は暫らく川手氏の影身(かげみ)に添って、世にも不思議な事の次第を観察しなければならぬ。
 その夜更け、川手氏は例によって床の中でふと目を覚ました。何か人声らしいものを聞いたからである。また幻聴が起ったのかと、慄然(りつぜん)として耳を澄ますと、つい障子の外の廊下の辺で、シクシクと人の泣いている声がする。さもさも悲しげに、いつまでも泣きつづけている。誰だと声をかけても、答えはなくて、ただ泣くばかりである。
 川手氏はまた手燭に火をつけた。そして蒲団から起き上ると、ソッと障子を開いて、廊下の(やみ)を覗いて見た。
 すると、今夜は声ばかりではなくて姿があった。両手を目に当てて、(すす)り泣いている子供の姿がハッキリと眺められた。
 まだ四五歳の上品な可愛らしい幼児だ。絹物らしい筒袖の着物と羽織、袖からは、明治時代に流行した、手首のところでボタンをかける白いネルのシャツが覗いている。男の(くせ)に頭は少女のようなおかっぱだ。どうもこんな山里にいそうな子供ではない。それに風俗が異様に古めかしくて、現代の子供とも思われぬ。
 川手氏は夢でも見ているような気持であった。変だぞ。俺はこの通りの子供を知っている。遠い遠い記憶の中に、丁度こんな服装をした子供の姿が焼きついている。誰だろう。ひょっとしたら幼年時代の遊び友達の面影(おもかげ)ではないかしら。
 何か物懐かしい気持に支配されて、思わず廊下に立出でると、泣いている幼児の(そば)に近づいて行った。
「オイオイ、泣くんじゃない。いい子だ。いい子だ。お前今時分、一体どこから来たんだね」
 おかっぱの頭を撫でてやると、子供は涙の一杯(たま)った目で川手氏を見上げ、廊下の奥の闇の中を指さした。
「お父ちゃんとお母ちゃんが……」
「エ、お父ちゃんとお母ちゃんが、どうかしたの?」
「あっちで、怖い小父(おじ)ちゃんに叩かれているの……」
 子供はまたシクシクと泣き出しながら、川手氏の手を取って、助けでも求めるように、その方へ引っぱって行こうとする。
 川手氏は夢に夢見る心地であった。真夜中、この山中の一つ家に、こんな可愛らしい子供が現われるさえあるに、その父と母とがこの邸の中で何者かに打擲(ちょうちゃく)されているなんて、常識を(もっ)てしては全く信じ難い事柄であった。
 アア、俺はまた幻を見ているのだ。いけない、いけない。しかし、いけないと思えば思う程、心は(かえ)って、いたいけな幼児の方へ引かれて行った。取られた手を振り放すことも出来ず、いつの間にか、その妖しい子供と一緒に、足は廊下の奥へ奥へと辿っていた。
 子供は傍目もふらず闇の中へ進んで行く。川手氏さえ戸惑いしそうな複雑な邸内の間取りを、子供の癖にちゃんと(そら)んじているらしく、少しも躊躇しないで、廊下から座敷へ、座敷からまた別の廊下へと、グングン進んで行く。
 川手氏は相手があまりに幼い子供なので、身の危険を感じはしなかった。それよりも、遠い昔、どこかで見たことのあるようなその子供が、なんとやら懐しく、可哀想にも思われて、取られた手を振り払うどころか、自ら進んで、子供の導くままにつき従って行くのであった。
「小父ちゃん、ここ」
 子供が立止ったので、手燭でそこを照らして見ると、意外にも、その廊下の突当りに、井戸のような深い穴がポッカリと口を開いていた。床板が()(ぶた)になっていて、その下にどうやら階段がついているらしい。地底の穴蔵への入口である。
 不断(ふだん)の川手氏なれば、この不思議な地下道を見て、忽ち警戒心を起す筈であった。老人夫婦さえ知らぬ、こんな秘密の穴蔵へ、仮令(たとえ)いたいけな子供の願いとはいえ、無謀に入って行くようなことはしなかった筈である。
 だが、その時の川手氏は、この出来事を現実界のものとは考えていなかった。明治時代の風俗をした幼児と、夢の中で遊んでいるような漠然とした非現実の感じ、恐怖も恐怖とは受取れぬ無警戒な心持、謂わば空を漂っているような一種異様の朦朧とした心理状態で、つい子供のせがむままに、その穴蔵の階段を底へ底へと降りて行った。
 階段を降りて狭い廊下のようなところを少し行くと、八畳敷程もある地下室に出た。床はコンクリート、四方はグルッと板壁に囲まれている。湿っぽい土の匂、押しつめられたように動かぬ空気、ジーンと耳鳴りのする死のような静けさ。手燭の蝋燭(ろうそく)(ほのお)は、固体のように直立したまま、少しも揺れ動かぬ
 その手燭をかざして、あたりの様子を眺めると、何一つ道具とてもないガランとした部屋の片隅に、たった一つ妙な箱が置いてあるのが目を惹いた。
 丁度寝棺(ねがん)ほどの大きさの、長方形の白木の箱だ。近づいて見ると、その蓋の表面に、墨黒々と何か書いてある。読むまいとしても読まぬ訳には行かなかった。思いもよらぬその木箱に、川手氏自身の姓名が記されていたからである。
俗名(ぞくみょう)川手庄太郎」「昭和十三年四月十三日歿」
 アア、それは川手氏の死体を納める為に用意された棺桶(かんおけ)であった。四月十三日歿という月日さえ、あの庭の石碑に刻みつけてあった日附と、ピッタリ一致しているではないか。
 アア、そうだったのか。俺はこの(かん)に納められるのか。そして、庭の石碑の下へ埋められるのか。十三日といえば、明日だな。イヤ、もう十二時をすぎているから、今日という方が正しい。愈々俺はそういう事になるのかな。
 川手氏は悪夢を見ているような気持で、まだ本当には驚けなかった。奥底も知れない程の恐怖ではあったが、それが何か(しゃ)を通して眺めるようで、まだ身にしみて感じられなかった。
 ふと気附くと、今まで側にいた子供の姿が見えぬ。一体どこへ消えてしまったのだ。四方を板で囲まれた部屋の中、どこにも身を隠す場所はないではないか。アア、これも悪夢だな。子供は魔法使の妖術で、煙のように消えてしまったのに違いない。
 だが、地底の怪異はそれで終ったのではなかった。茫然と夢見るように佇んでいる川手氏の耳元に、どこからともなく、ボソボソと多勢の人の話声が聞えて来た。いつか寝室で聞いたのとは違って、板壁のすぐ向うからのように近々と響いて来る。アア、そうだったのか、山の魑魅魍魎はこんなところに隠れて、深夜の会合を催していたのか。
 川手氏は声する方の壁に近づいて、どこかに秘密の出入口でもないかと、探し求めた。すると、その板壁の丁度目の高さの辺に、大きな節穴が一つ、サア覗いて下さいと云わぬばかりに開いているのが目についた。彼は中腰になってそこを覗いたが、一目覗くと、もう身動きも出来なかった。彼はそこに、全く想像もしなかった不思議なものを見たのである。

    一到达那幢城郭一般的独所房子,川手就先被引见给只有两人在这座大宅里看家的一对年老夫妇。夫妇俩看来身体都很健壮,都是心地淳朴的乡下人。川手也很称心如意,心想要是这样的话,请他们照料自己身边的事也不感觉拘谨了,而且还可以担任保卫自己的角色。
 
    同行的宗像博士在那里住了一宿,看到川手心神定了下来,谆谆嘱托老夫妇俩好生照料以后就立即返回东京去了。复仇狂在东京!而且现在一定不知道替身,向假川手的身边伸出了恶魔的触手。为了同这个看不见的敌人决一雌雄,博士一天都不能磨蹭。
 
    自呼当城郭的怪客以来,平安无事地过去四五天了。住在阳春时节的山里,这对整日忧心忡忡的自己来说再好不过了。泥灰抹的白墙明晃晃的,四周杂木林的树枝上黄澄澄地鼓起的嫩芽看上去暖融融的,吊桥下的小河清澈流淌,树间交替啼叫的鸟鸣声也好像处在世外桃园似地听来悠然自得。
 
    一日三餐的食桌上摆着老夫妇俩精心烹调的新鲜山珍,要是无聊了就去和风丽日的院子里散散步,一到晚上就听老夫妇俩讲一些山里的稀奇故事。随着这环境的迅速改变,想忘也无法忘掉悲伤的川手心情也平静了下来,有时候都觉得自己像是在外出疗养似的。
 
 
 
 
    但随着对山间生活的新奇逐渐习惯,川手开始感到身边有一种令人担心的空气。作了这样周密的安排,复仇狂要追到这山里来那是完全不可能的,这点川手是完全放心的,但在另一方面,他开始觉得居住在这大城郭的早早晚晚有一种类似鬼怪故事的气氛在向自己步步紧逼过来。
 
    最初察觉这一点是在第五天的深夜。突然醒来时只听得什么地方有人在叽叽咕咕地说话。这间天棚很高的空落落的客厅里没有电灯设备,所以使用着煤油台灯,但睡觉时连这也打灭了,所以屋里一片漆黑。
 
    因为老妇的卧室只隔着一间房间,所以寻思可能是睡觉易醒的老年人在互相讲故事什么的,但即便是这样,这人声也太远了,而且不只是两个人,好像三四个人的声音混在一起。
 
    在几百米见方没有人烟的山中,连自己在内只有三个人住在这城郭里,但却听到了这么多人的说话声,这可不是寻常的事情。会不会是幻觉呢?不,不,不是幻觉!尽管意思一点都听不清楚,但在这幢房子的远处有什么地方确实一直发出着叽叽咕咕的说话声。连五十岁的男子川手听着听着也禁不住不寒而栗,就好像被人浇了一身冷水似的。
 
    城郭里一楼二楼总共有近二十间房间,两个老人无论如何也打扫不过来,所以除了靠近大门的楼下五间以外,其余全关着木板套窗,谁都进不去。莫非有人在那从不打开的房间里进行深夜聚会?是山贼吗?决不会现在这种时候在靠近村落的这一带住着那种家伙吧。那么,难道是从山里来的树木里的精灵、老树的精灵和童话国里的妖魔鬼怪吗?
 
 
 
 
    黑暗、寂静和山中的独所房子这一现实使川手变得像小孩一样胆怯,但还没有到蒙上被子缩成一团的程度。他点燃了枕畔的蜡台起来小便。
 
    为弄清真相,川手绕道张望了一下老夫妇的房间,但两人都是习惯于山里生活的身体健康的人,好像晚上也不会醒过来,睡得熟熟的。
 
    踩着空旷冰冷的走廊走进了空荡荡的老式厕所。窗外就是树丛。打开小拉宫看了看天空,只见漆黑一团,连一颗星星都没有。大树的树梢沙沙作响,这大概是夜鸟或是栖息着对呼还不熟悉的小动物吧。
 
    这样心情就平静了一些,越发使人觉得夜深人静了。就在这片寂静之中,川手突然(实在是突然)听到了人的笑声。
 
    刚好是在厕所的墙外,是女人的(恐怕是年轻女人的)窃笑声。虽然很低,但的的确确是女人的笑声。一个劲儿地笑着,好像可笑得前仰后合似的。
 
 
 
 
    川手不觉毛骨悚然,都没有勇气出去看一下,径直向卧室逃去。然而益发令人可怖的是,就在他用手挡着蜡台急匆匆通过走廊的黑暗里时,有样东西忽然从自己身旁擦肩而过。是个什么小东西,但一定是人。若是小孩的话是个四五岁的幼儿。他神速地从前方黑暗中悄然无声地飞跑过来,又从川手的袖子下钻了过去,消失在后面的黑暗中。由于这一件又一件的怪事,川手那一夜都没合上眼。等到第二天早晨把这事跟老夫妇俩一说,就被他们笑了一顿,根本没有答理他。他们说:不习惯山里的人经常说这种事,那人声会不会是把小河的流水声听错了呢?女人的笑声则可能是夜鸟在啼叫,至于走廊里的小孩,如果不是精神作用,那或许是淘气的猴子误入屋内了。
 
    但怪事并没有就此结束,翌日大白天就发生了一件咄咄怪事。川手在老人们的房间里聊了一会儿,回到自己房间一看,放在壁龛里的手提箱位置显然移动过了,摆在紫檀的大桌子上的怀表翻了过来,同张桌上的杂记本被打开了。
 
    倘是一次,也有可能是川手的误会,但发生了两三次相同的事。这回为了弄清楚,他清楚地记下了种种物品的位置,然后打开了门,过了一会儿回去一看,那位置完全变了。已经不是误会。在这座城郭的深处一定住着连老夫妇都不认识的什么人,而且企图吓唬川手。
 
    老夫妇说:“要是您这么说,我们就打开整个公馆的木板套窗搜寻一下吧,好让您心服口服。”第二天,三人把宅邪内的二楼和一楼全部查了一遍,但并没有什么奇怪的事,哪间屋子里都看不出有人住着的样子。
 
    “你瞧,还是猴子或是什么东西的恶作剧吧。”
 
    老夫妇把它当作了笑话,但川手怎么也想不通,总感到身边有人的迹象,觉得一种妖怪似的东西在向自己步步紧逼。
 
    当天晚上。
 
    川手深夜又醒了过来,听到了从什么地方透过来的人声。他又跟前夜一样,点上蜡台起来小便。今晚说不定还会发出那笑声。川手作好精神准备,侧耳倾听着,这回得分清它是鸟声还是人声!
 
    从窗户里望出去的天空中还是没有一颗星星,纹丝风也没有的树梢上沙沙地发出可怕的声音。
 
    啊!突然又响起了笑声——像是年轻的女人用袖子掩着嘴,弯曲着身子在窃笑的那笑声。川手仿佛感到那张年轻白皙的脸就在眼前。
 
    今晚岂能不识破其中原因!按事先心里决定的,川手赶紧走出那儿,悄悄地提起走廊一端的木板套窗,把蜡台伸向漆黑的院子里发出声音的地方。
 
    可是,大概是刚才逃掉了吧,那里只是漆黑一团,没有一个人影。
 
    但是,虽看不到人影,可比这更奇怪的东西立即引起了川手的注意。走廊的斜对面竟然浮现着那堵成直角形的白亮大墙壁,夜里看上去明晃晃的,但就在那面墙的表面忽地亮起了磷一样的白光。
 
    哎呀,那是什么呀?川手吃惊地重新看了一遍。也不是重新涂抹墙壁的痕迹,确是什么光。只是那一部分勾勒出了一个直径四米之多的巨大的圆圈,像电影一样出现在那堵发白的墙上。
 
 
 
 
    但奇怪的光不只是那一个,定睛细看,那圆圆的光圈里能隐隐约约看到像是无数条蛇在爬动的奇怪的黑纹路。成百成千条的蛇。不,不是蛇,是种莫名其妙的花纹。这花纹好像在什么地方看到过的!是在哪儿看到的呢?……太大了,不太清楚是什么花纹,但……
 
    川手看着这巨大的花纹似的东西,看着看着猛然间大吃一惊,以至心跳都忽地停止了。与其说是吃惊不如说是恐怖,一种感到恶心一般的深深的恐怖。
 
    他明白过来,那看上去像是蛇堆的东西原来是放大到几千几万倍的人的指纹。而且怎么能忘记呢?那巨大的指纹上不是有三个旋涡吗?两个圆圆地排列在上部,一个成椭圆形展开在下部。是张妖怪脸。两米见方的妖怪在山中的一幢独所房子的院子里冷笑着!
 
    川手一面发出莫名其妙的叫喊声,一面死命地在走廊上奔跑着。当他跑到老夫妇俩的房间前时,一边乱敲着拉门一边发疯似地喊着他们的名字。
 
    两人吃惊地从床上跳了起来,心想又发生什么事了。川手随即跟他们说了事情的经过,叫他们查看一下院子。
 
    两老人对川手的幻觉一笑了之,像是在说:“又怎么啦?”他们没有理睬他,告诉他说:“不管怎样,那三重旋涡的恶棍是不会到这种山里来的,宗像先生那样小心而又小心地躲过了敌人的眼睛,所以决不用担心。老爷您是不是看到了幻影什么的?”
 
    “不过”
 
    川手央求两位老人又查看了一下院子,当他们提着灯笼去那堵白墙那儿时,那儿已经没有什么光,巨大的妖怪指纹也无影无踪了。
 
    要是这样,那果真是看到幻影了吗?会不会是因为在自己整日觉得害怕的时候听到笑声的,所以不禁联想到了复仇狂,在没有什么东西的白墙上自己想像出了那种可怕的影子呢?
 
 
 
 
    当晚留下这令人费解的疑窦就那样上床睡觉了。第二天川手为了弄清楚昨晚的谜,借助着明媚的阳光到院子里去了,心想那奇怪的家伙决不会在大白天躲在院子里吧。
 
    在阳光下查看了一下那堵白墙的表面,并没有什么奇怪的影子,也并没有错看成是影子的裂缝。如果那是幻灯的影子,那幻灯机应该安装在那附近。他边这样寻思边朝身旁的树丛看去,发觉那儿略微高起的昏暗的空地上孤零零地立着一块新石碑。
 
    哎呀!前些日子常在这院子里散步,可是一点也不知道这儿有这玩艺儿呀。奇怪!好像是谁的墓碑,但院子的正中间哪会有坟地呢?
 
    川手依然觉得可疑,不由得拨开树丛走进了那个潮乎乎的阴暗中。走近一看,才知道那是块刚刻好的崭新的墓碑。决不是半个月以前的,像昨天或是今天运到这儿来的。
 
    奇怪的是在那墓碑的表面应该有法名的中央部分空着,只是在其旁边清晰地雕刻着“昭和。X年四月十三日死”几个小字,像是刚凿上似的。
 
    且慢!昭和XX年,那不是今年吗?四月,那不是这个月吗?而且十三日……啊,这是怎么回事?今天是十二日,所以十三日,那不是明天的日期吗?
 
    川手怀疑自己的眼睛,心想会不会是自己发疯了呢?不是幻觉!绝没有读错!确实这样雕着“昭和XX年四月十王日”!他特意把手指放在上面逐字逐句地摸了一下,但绝没有念错。
 
    究竟这意味着什么呢?难道说明天准死的谁的坟墓已经这样替他准备好了吗?无论是什么样的重病人,事先知道他什么时候死,这不有点奇怪吗!只要不是死刑囚犯……想着想着,川手像看着鬼似的脸色铁青了。
 
    会不会是自己的坟墓呢?
 
    无论是那深夜的笑声还是昨晚白墙上的怪指纹,说它们是幻觉幻听倒也有点像,但如果都是哪个人有计划的恶作剧,那么……说是哪个人,可此外又有谁干这种奇怪的事呢?是那个有三重旋涡指纹的人!难道不是那家伙早就找到了这隐身之处,伸出了奇怪的报复触手吗?!这样,这墓碑的神秘日期意义也就理解了。“十三日”“死”去的不是别人正是自己。难道自己在明天会被这复仇狂用什么手段杀害吗?他不是现在这样让我看自己的墓碑吗?
 
    川手感到头晕目眩,马上就要倒下来似的。他好容易忍受着,挣扎着回到了主房,把这件事告诉了老夫妇俩。两人互相看了一眼,像是在说:“瞧,又怎么啦?”不管怎样,他们先急匆匆地去现场看了看,但无论怎么找也没有发现什么新的墓碑。
 
    说来好像被狐狸精迷住了似的,呼自己也不得不承认那块大石碑像烟消云散似地不见。
 
    川手害怕自己的耳朵、眼睛来了。会不会忧虑重重,视觉和听觉都引起了变化呢?不,不仅是视觉和听觉,会不会脑细胞本身得病了呢?也许不该这样在山中独居。他忧心忡忡,担心这样下去会真的发疯不可。
 
    于是川手跟老人说了,决定给东京的宗像博士发封电报,电文是:“有急事商谈,请速来。”他想请博士作出判断,春结果要不要移居到别的地方。
 
    博士的回电下午就到了,回答说明天就来。川手从这回电中得到了力量,好容易使情绪镇定了下来,而且当晚就寝以前也并没有发生什么异常情况,可是……
 
    可是呼终于没有能见到宗像博士。不是博士没有来,而是川手从城郭销声匿迹了。翌日,老夫妇俩发现老爷的被窝空了,心想可能一早在院子里散步,于是把院子内找了一遍,但哪儿也没有影踪。所有的房间都来回看了一遍,川手也不在屋内。像是遇到神仙似的,又像是融进了空气似的,他在这一天即四月十三日从这个世界消失了。
 
    那么川手究竟怎么样呢?那一夜在他身边发生了什么怪事呢?我们暂且得紧随川手观察一下这桩离奇古怪的事情的经过。
 
    那夜深夜,川手照例在床上突然醒来,因为他听到了像是人声一样的声音。“会不会又发生了幻听呢?”他边寻思边吃惊地侧耳倾听了一下,只听得就在拉门外面的走廊上有人在抽抽搐搭地哭泣。像是很悲伤似地哭个不停。“是谁?”他喊了几声也没有回答,只是一个劲儿地哭。
 
    川手又点上了蜡台,然后从被窝里爬起,悄悄地打开拉门张望了一下黑漆漆的走廊。
 
    于是,今晚不光有声音,而且还有身影。他清晰地看到了一个双手捂着眼睛哭泣着的孩子。
 
    那只是一个只有四五岁的文雅、可爱的幼儿。穿着像是丝绸的窄袖衣服和短外罩,从袖子里露出了明治时代流行的手腕地方针着钮扣的白法兰绒衬衣。虽是个男孩,可头剪着少女一样的短发。不像是这种山里的孩子,而且打扮古怪,难以设想是现代的孩子。
 
    呼感到仿佛在做梦似的。奇怪,我认识这孩子。在遥远的记忆中留着刚好是穿这种衣服的孩子的形象。是谁呢?会不会是孩提时代和自己一块儿玩耍的小伙伴的面影呢?
 
    在一种怀恋心情的支配下川手情不自禁地来到走廊上,靠近了正在抽泣的幼儿的身旁。
 
    “喂喂,别哭了。乖孩子,乖孩子。你在这个时候到底是从哪儿来的?”
 
    他用手抚摸了一下剪短发的头,孩子便用噙满泪水的眼睛抬头看了看川手,指着漆黑的走廊深处说:
 
    “爸爸和妈妈他们……”
 
    “啊?爸爸和妈妈他们怎么啦?”
 
    “正在那里挨打呐……”
 
    孩子一面又抽抽搭搭地哭了起来,一面拉着川手的手,像是求救似地想把他拉到那方向去。
 
    川手有如梦里做梦。深更半夜在这山中的独所房子里出现这么可爱的孩子够叫人感到奇怪的了,更何况什么他的父母在这屋子里正在挨什么人的打,这事只要有点常识就完全难以相信了。
 
    啊,我又看到幻影了。不能去,不能去!可是越觉得不能去心却越被这可爱的幼儿吸引过去了。他没有能甩掉被拽着的手,两腿不知不觉跟那可疑的孩子一起朝走廊的深处走去。
 
    孩子两眼紧盯着前方朝黑暗中前进。虽是孩子,但好像完全默记着连川手都似乎找不着门的宅邪内复杂的房间配置,他毫不犹豫地从走廊到房间、又从房间到另一走廊,一个劲地前进着。
 
    因为对方是个过分年幼的孩子,所以川手并没有感到自身有什么危险,倒是不由得怀念起这个像是在遥远的过去在什么地方见到过的孩子,情不自禁地怜悯起来,非但不甩掉被拽着的手,反倒孩子领到哪儿他就跟随到哪儿。
 
    “爷爷,这儿。”
 
    孩子站住说。川手用蜡台照了一下那儿,出乎意料的是,在那走廊的尽头有一个像井一样的深洞张着大嘴。地板当作盖子,盖子下面似乎有阶梯。这是通向地窖的人口。
 
    倘是平素的川手,看到这奇怪的地道,是会立即引起警惕的。虽说这是一个幼孩的央求,但他是不会盲目进到这种连老夫妇俩都不知道的秘密地窖中去的。
 
    但当时的川手没有把这件事考虑为是现实世界的事,他以一种仿佛在梦中跟一身明治时代打扮的幼儿玩耍的模模糊糊的非现实感觉和恐怖也不当作是恐怖的毫无警惕的心情,也就是说,以一种如飘荡在天空中的异样的胰脏心理状态,身不由己地依着孩子的央求从这地窖的阶梯上一个劲儿地朝底部走了下去。
 
    下完阶梯,沿狭长的走廊一般的地方走了几步,就来到了有八张铺席大小的地下室。水泥地板四边围有板墙。潮乎乎的泥土味,像是被填塞进来的停滞的空气,使人吱吱地耳鸣的死一般的寂静。蜡台上的蜡烛的火焰有如固体一般直立不动。
 
    用手挡着蜡台看了一下周围的样子,这间没有一个家具的空荡荡的屋子的角落里放着一只箱子。这唯一的一件东西引起了他的注意。
 
    那是一只刚好有卧棺一般大小的长方形白木箱,走近一看,只见那盖子的表面黑黑地写着什么。即使不想读也不能不读,因为在这意想不到的木箱上写着川手自己的姓名:
 
    俗名川手庄太郎昭和XX年四月十三日死
 
    啊!那是一口为装川手的尸体而准备的棺材。连“四月十三日死”这一日期不也同雕刻在那院子里的石碑上的日期完全一致吗?
 
    啊!真会这样吗?我真是会被装进这口棺材埋在院子里的石碑下吗?要说是十三日,就是明天啦。不,现在已经过十二点了,正确地说是今天。难道我真的快要那样了吗?
 
    川手觉得像是在做梦似的,还没有真的感到吃惊。虽然是一种令人难以捉摸的恐怖,但那好像是透过薄丝看出去的,还没有切身感到。
 
    猛一注意,刚才在身旁的孩子不见了。究竟消失在什么地方呢?在这四面用木板围起来的屋子里哪有藏身之地呢?啊,这也是噩梦!孩子一定用一种魔术师的妖术如同烟雾消失了。
 
    可是,地底下的怪事并未由此结束。在做梦一般呆立着的川手的耳畔不知从什么地方传来了喊喊喳喳的许多人的说话声。与上回在卧室里听到的不同,这回声音很近,好像是从板墙的对面传来的。啊!真是这样吗?真是山里的妖魔鬼怪躲在这种地方举行着深夜聚会吗?
 
    川手靠近发出声音方向的墙壁寻找了一下,心想会不会什么地方有秘密出入口什么的。果然,他看到那板墙刚好与眼睛齐高的地方有一个大孔,于是他稍微弯腰张望了一下,但只望了一眼就再也动弹不了了。他在那里看到了完全没有想像到的奇怪的东西。
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