皆さん、夏のバカンスどう過ごしましたか。私は六月にミラノ郊外のコモ湖で遊ぶ、という超リッチな休日をおくったのであるが、夏は一転して山梨の実家というていたらく……ハイ。
テツオからファクシミリが入った。
「あんたは元々そっちの人だから、田舎ヴィールスにやられないようにね」
そう、いつも田舎へ帰ると食っちゃ寝、食っちゃ寝の生活をおくり、化粧もほとんどしないもんだから顔つきも変わってくる。ひどい時なんか二重瞼《ふたえまぶた》がひと重になり、ずっとそのままだった時もある。東京に帰って、濃いめのアイメイクをしたとたん、二重瞼に戻り、あの時は驚いた。
しかし今度の帰省はいつもの帰省と違う。休暇明けに幾つもの取材やインタビューが入っている。私が美女に変身したらしい噂がとみに高くなり、そのテの仕事が目白押しなのだ。みんな「美女入門」がらみで、ファッショナブルな写真を撮らせて欲しいという。
この他にも仕事がらみのブラックタイパーティもあり、イブニングのお出かけもある。いつものようにぐーたらに過ごすわけにはいかないのだ。もちろんダイエットは続行中である。私の人生、これほどダイエットが続いたことがあるだろうか。十五年前、鈴木その子先生に直接指導していただいて以来である。
私のような怠け者の意志の弱い人間には、やはり指導者が必要なのだとつくづく思う。私のダイエットレッスンも四クールめに突入している。五クールめを申し込んでもいいのだが、そうなるとかなりの金額になる。ダイエットの先生によると、今まで三クールやったのが最高で、五クールもやったことはないという。普通の人なら二クール(注・ワンクール六週間)もやれば、たいてい十キロは痩《や》せるそうだ。が、私の体重の減り方はすごく遅い。悲しくなるくらい遅い。
「ハヤシさんは仕方ないですね。おつき合いが、人の何倍もある人だから」
そりゃそうだ。いくらお酒や主食、デザート類は抜いているといっても、東京にいると毎夜のようにフレンチやイタリアンを食べている。このあいだはものすごいお金持ちの御曹司(注・しかも超ハンサム)に、年代もののワインをどっさりご馳走《ちそう》になり、次の日しっかりと体重が増えていた。
けれども田舎にはそういった誘惑はいっさいない。たまに同級生からお誘いがあるけれどもきっぱりと断る。果樹どころなので、新鮮な桃や葡萄《ぶどう》をいただくけれども、果糖が怖くてひと口も食べていない。我ながらすごい克己心である。
それならば、どういうものを食べているかというと、野菜を中心とした九品目の料理を朝と晩の二回食べる。といっても、ちゃんと調理する時間がないので、トマトやチーズをかじる。牛乳を飲むことも多い。ちょっと余裕がある時は野菜|炒《いた》めかしらん。そして朝晩二回の腹筋も必ずやる。
そう、外見もババっちくならないように気をつけているんだから。家にいる時はたいていTシャツとジーンズだが、どっちもジル・サンダーだから形が違う。スーパーに行く時も軽く化粧して、サングラスして、我ながらカッコいいと思うわ。そうよね、さりげないけれど、はっとひと目をひくおしゃれって、こういうことなんじゃないかしら。
スーパーでたまに昔の同級生と会うことがある。はっきり言って、みんなおばさんになっていることに驚く。東京で手間とお金をかけている分、私の方がずっと若いと思うわ。顔だけじゃなく、体つきもジーンズがよく似合うしさあ……。
が、私は思い出す。中学、高校の過去をだ。彼女たちの方が、私よりもずっとモテた。私よりずっと楽しい青春をおくったかもしれない。うんと年増になってから美女になり(?)、モテたとしてもそれがどうだというんだ。人間やっぱり十七歳の時にうんとキレイで、モテなければつまらないんじゃないだろうか。後の女としての人格形成も大きく左右される。
つい先日のこと、「アンアン」誌上で北川悦吏子さんとSM対談をした。私はもちろんM女の代表、北川さんはS女の代表としてだ。北川さんは少女の頃からモテていて、
「私がわがままなことを言えば、座も盛り上がるし皆も喜ぶ」
という信念をずっと持っているそうだ。今のような超人気脚本家になってからは、その信念にますます磨きがかかっているみたい。私のようなM女は、現在に至るまでずうっと人になめられる。男性のことはいうに及ばず、編集者もさー、私に説教したり、ナンダカンダ言うしさー、ちやほやされたことなど一度もない。これもやはり少女の頃のトラウマが原因なんだと、つくづく思う故郷であった。
そこへ親戚《しんせき》のコが遊びにやってきた。このコは可愛い顔をしているのだが、わが一族のDNA、肥満をしっかりと受け継いでいる。お勤めを始めた二十二歳だ。
「マリコねえちゃん、そんなに痩せてスゴいわ」
「こんな年で痩せたって無駄かもね。私があなたの年でダイエットを始めてたら、人生変わってたかも。うんとモテモテで、いい男と結婚してたかも。あー、口惜しい、人生をやり直したい」
彼女にハッパをかけているのだが、これって半分本音かも。