この秋、ファッション業界の話題をひとりじめしているのが、アルベルタ・フェレッティの日本進出であろうか。
いろんな人から教えてもらった。
「すっごく女っぽいんだけど可愛いの。手の込んだ刺繍《ししゆう》もしてあって、きっとハヤシさんの好きなタイプだと思うわ」
今月号あたりから、女性誌にやたら出るようになった。スタイリストの人たちがこぞって使うのだ。このあいだもある雑誌を見ていたら、女優さんがアルベルタのドレスを着ていて、なかなかエレガントでいい感じ。値段を見ると、ジル・サンダーとそんなに変わらないぐらいであろうか。一度着てみたいなあと思っていたところ、日本店オープンのためにアルベルタが、コレクションとパーティを開くことになった。
「ハヤシさん、絶対に行きましょうね」
「うん、行く、行く、行きますとも」
親しいファッション誌の編集者と約束していたのであるが、招待状が送られてきたら既にその日先約があった。そんなわけで欠席の返事を出したところ、なぜかテツオからすぐに電話があった。
「あんた、あのパーティへ行かないなんて。東京中のおしゃれピープルが集まるんだぜ」
「おしゃれピープルっていったって、どうせいつもと同じ顔ぶれでしょう」
「そういうこと言うと、永遠におしゃれピープルになれないよ。絶対に行った方がいいよ」
としつこく誘われたが、結局歌舞伎見物の方を選んだ。が、あそこまで言われちゃね。一週間後、南青山に出来たショップに行くことにした。有名建築家がつくったという、とてもキレイなショップです。この時は、まだ開店したばかりで品数が少なかった。二階がソワレ売場になっていて、イブニングドレスがいい感じ。ビーズ刺繍がとても手が込んでいるのだ。
しかし、しかしである。ここの服はすごくサイズが小さい。手にとったとたん、あ、これはダメだと思う。店員さんも私に恥をかかせまいと一生懸命だ。
「もうちょっと上のサイズ、お取り寄せしましょうか」
そしてピンクのレザースカートで、秋にぴったりの一着が見つかった時の嬉《うれ》しさ。店員さんもほっとした様子である。いろいろ気を遣わせてすいませんでしたねえ……。
それにしても、このところ服の買い方が尋常ではない。このあいだのミラノで、二年分買う、なんて言いわけして買いまくったが、日本へ帰ってくれば帰ってきたで、秋の新作が欲しくなる。新しいショップのものは、たとえTシャツ一枚でも買っておきたいしさあ……。
ところで来月、私はニューヨークへ行くことになっている。帰りにロスへも寄る。講演会をするためであるが、バブルの絶頂期にわくアメリカを、ぜひこの目で見たいと思って引き受けたのだ。
そして私は決心した。
「ニューヨークでは何にも買わない。絶対に」
とにかくこの三、四ヶ月、痩せて今までの服が入らなかったこともあるが、ものすごい量の服を購入しているのである。カードの明細書が来るたびに、ギャーと叫び青ざめている日々だ。このうえニューヨークで買い物をしたら、私は定期預金を切り崩していかなくてはならないだろう。
「でもハヤシさん、ニューヨークへ行って、何にも買わないなんて不可能ですよ。いまあそこは、世界中からいいものがどっさり集まっていますからね」
と言ったのは、やはりファッション誌の編集者である。
「買わないったら、買わないのよ」
それで私はひとつの作戦を考えた。それはスーツケースを、いつもよりずっと小さいキャリータイプのものに替えるということだ。私はスーツケースに関しては結構うるさい方で、世界中旅していろいろなものを買ってきた。ドイツのがっしりしたやつ、フランスのラ・バガジェリーのソフトタイプ、などいろいろだ。今、愛用しているのが、五年前にニューヨークで買ったゼロの大きいタイプである。シルバーメタリックでとても綺麗《きれい》。いつもは中を少なめにして、買い物品でぎっしり埋めて帰ってくるのであるが、これから方針を変えよう。必要最低限のものしか入らないキャリータイプにするつもりだ。
が、キャリータイプはたいていちょっとビンボーたらしい。素敵なものがないのだ。今年エルメスが、初めてこのタイプを売り出したのだが、なんと八十万円以上する。これじゃバッグごと盗まれそうだ。
「エルメスは無理だけど、どこにすればいいかな」
とまわりの人にアンケートをとったところ、やはりルイ・ヴィトンかプラダがいい、という意見が圧倒的であった。が、ルイ・ヴィトンはあまりにも人気があり過ぎて、ターンテーブルで同じのをよく見るしなー。
「だったら市松模様にすればいいんです」
そんなわけで昨日、紀尾井町《きおいちよう》のルイ・ヴィトンへ見に出かけた。売り切れていて、銀座にあるという。そんなわけで今日出かける。
なんのことはない。買わないために、十五万円のバッグを買わなきゃならないわけじゃん。もー、いっそのこと紙袋で出かけようかと思う私である。