ビロウな話で申しわけないが、このところ私を苦しめているのは、そお、美貌《びぼう》の大敵・便秘です。
昔からこれについては、そりゃあ苦労していたのであるが、このところひどい。なぜならばダイエットのために、主食をいっさい食べなくなった。芋類も極力控えている、となると便秘になるのはあたり前か。
もう薬を飲まないとダメな体になってしまった。それも土日、外に用事がない日を見はからって薬を飲む。この計算を間違えると、そりゃあ苦労することになる。
友人が話してくれたのであるが、クラブへ行くとまずトイレへ行って大きいのをするのが癖になっている女のコがいるそうだ。そんなことはとても出来ない。たいていの女のコが、外でするのはものすごい苦痛ではないだろうか。時たまバーや小さなレストランで、男女兼用の小さなトイレしかないところがある。あれは悲劇ですね。私はあんなところでするぐらいならと、タクシーを飛ばして家に帰ったことも一度や二度ではない。
ついこのあいだのこと、ニューヨークにいた五日間、お腹はうんともすんとも言わなかった。明日はロサンゼルスに向かうという日、午後だからたっぷり時間があると思い、お薬を飲んだ。ちゃんと計算して前日の昼から飲んだんだよ。しかし行きたくなったのは、なんとデルタ航空の機内である。
私は国内、国外問わずかなり飛行機を利用する方であるが、この中でしたことなんか一度もないわ。絶対に我慢しようと思ってたんだけど、もう仕方ないわとトイレへ向かったらハンサムなパーサーが意味もなくそこに立っているじゃないの。本当にすくんでしまってまわれ右をした。
あれは三年前になるだろうか、女友だちと二人、うんとお金持ちのおじさまに招待され彼の別荘へ行った。そのおじさまは私たちを海辺の別荘から東京へ帰すために、なんと自家用ヘリコプターを待機させてくれた。私は運転席の隣に座ってとてもご機嫌だったのだが、友人はお腹が冷えて途中ゴロゴロしてきた。もう地獄の一時間だったという。
自家用飛行機用の小さなエアポートに着くなり、彼女の姿が見えなくなった。どうしたのかと思ったら、必死でトイレへ走ったんだそうだ……。
街を歩いていると、突然あの感触に襲われることがある。本屋さんへ行くと急に催してくるという人は結構多い。困るのは青山、原宿といったところですね。渋谷や新宿と違い、大きなデパートがないから本当に困る。が、私はいろいろ苦労を重ねた結果、とてもいいトイレ・スポットを発見した。人がめったに来なくて、しかもウォシュレット付きというところだ。が、人に教えた結果使いづらくなると困るので、今のところは秘密にしておこうーっと。
そう、そう、これも昔話になるけれども、私が若く、売れないコピーライターをしていた頃の話である。私はよく仕事の打ち合わせをしに新宿二丁目にあるデザイン事務所に通っていた。地方の人はわからないだろうけれども、このあたりは風俗店のメッカだ。ゲイの人たちが行く店が集まっているし、ソープもいっぱいある。私が歩いているのは昼間だからどうということもないが、夜になるとネオンがついてあたりの風景が一変する。暑い夏の日、駅から歩いていた私は突然トイレへ行きたくなった。もう脂汗が出てくるぐらい。けれどもデザイン事務所まで、あと三ブロックはある。
その時私は何を考えたか。そお、トイレを借りに両脇のソープへ飛び込むことであった。
「面接に来たんですけど……」
って入っていけばいいんだわ。しかしここでもし、ひと目こっちを見て、
「今、求人してませんよ」
なんて冷たく断られたら、私の女としてのプライドはどうなる……などとバカなことを考えたらやっとおさまったけどさ……。
女は男の人より腸が短いんだろうか。こういう�下ネタ�をいっぱい持っている。それは恐怖とユーモアに満ちた楽しい話ばかりだ。なぜか人に言いたくてたまらなくなる。
「そお、私もこのあいだ電車の中でさ」
「私も実は……」
女同士ではものすごく盛り上がるのだが、男の人は聞くのも大嫌いみたいだ。ま、私みたいに、男に言いたがる女も珍しいんだけれども。
さて、この便秘について私はとにかくあらゆるものを試してきた。センナ茶に緑茶、ゴマペーストにドクダミ茶。もうじきアロエに挑戦するつもりだ。
このあいだロサンゼルスへ行った時、運転手兼コーディネイターとして、俳優のヒロシさんが案内をしてくれた。彼はいつもオーディションに精を出し、ひまな時にアルバイトをするのだ。もちろん超美形である。私は彼に頼んで、漢方薬屋で通訳をしてもらった。
「とにかく効く便秘の薬、ちょうだいって……」
彼は顔を赤らめながら「ストック」と発音した。
「ハヤシさん、あんなこと訳させて、もう女を捨ててますよ」
皆に非難された。