こんどある出版社で、「マリコフェア」が行われることになった。ご存知、このイラストをかたどった「マリコ人形」のストラップを二千人の方にプレゼントします。私の文庫を二冊買うと応募出来ます。みんなどしどし申し込んでくださいね。
それにしてもさあ、と急にふんぞり返る私。私より人気のある作家、売れてる作家は何人もいると思うけど、人形が出来たり、キャラクターグッズが出来たりするのは私ぐらいであろう。何ていうかさ、人気のありようが普通の作家じゃないのよね。このあいだもある人から、
「ハヤシさんの立場って、本当に独特だよね」
と言われたっけ。
さて、今回は人気の話だ。私を嫌いだという人もそりゃあたくさんいるだろうけど、私を熱狂的に好き、という人もかなりたくさんいる。サイン会に行けば、何時間も私のことを待っていてくれて、花束やプレゼントをくれる。全国から私のうちへ、お菓子や果物が届くし、ファンレターもいっぱい。皆さんが本を買ってくれる数もハンパではなく、その印税で私は贅沢《ぜいたく》も出来る。服もいっぱい買える。
いろんな人が私に聞く。
「あなたって、昔からまわりに人気あったの? 目立つタイプだったの?」
ノーと私は答える。とんでもない。よくクラスにひとりいる、デブで気はいいんだけど、何かうざったらしい女。それが私よ。いつもクラスの女王さまにおべっかを使い、お調子をくれていた女のコ。人気なんかあるわけないじゃん。クラス委員になったこともなけりゃ、劇の主役になったこともない。
もちろん男になんかモテるわけもない。中学、高校になると、田舎でもみんなステディな相手をつくる。だけど私なんか、本当に「問題外」といおうか、お呼びじゃない、って感じよね。姑息《こそく》なことばっかりして、人の仲を取りもってやったり、相談相手になるふりして、何とか二人にかかわりを持とうとしたりして、ああ、考えただけでも涙が出てくるような私の青春時代。
高校になってからは、ちょっと人気が出て、地元のラジオ局のDJしたり、グループで男のコたちと遊びに出かけたりしたけど、いわゆる�おにぎやかし�というやつ。
大学に入って、私は頑張りました。青春しようとテニス部に入ったのはいいけれど、そこでもあぶれた。二十六人中、カップルが七組という環境だったのに、私はすっかり無視されていた。
「マリちゃん、マリちゃん」
と皆が私のことを面白がるが、それは安全パイだから。�おにぎやかし�から�盛り上げ役�になっただけである。
しかし不思議なことに、このあたりから妙に人気が出てきたのだ。私もなぜだかわからない。いろんな人から相談ごとを持ちかけられたり、いろんな誘いが来たりした。
決定的だったのは、コピーライターになって何年かしてのこと。ある取材先で、女の人からこう言われたのだ。
「ハヤシさんって、女の人に好かれるでしょう」
「いいえ、そんな、別に」
「そんなことないと思うわ。あなたみたいに率直で面白い人は、女の人から好かれると思う」
しかし当時の私は、レズになるわけじゃあるまいし、女にモテたって何のいいことがあるんだ。女の愛よりも、男の好意だと本当に思っていた。ところが、そういう私の気持ちに反して、やたらまわりを女が囲むようになってきたのだ。ごはんをつくりにアパートに来てくれる人もいたし、洋服をいっぱいくれる女の人もいた。彼女たちは決まって言う。
「だってあなたって、可愛いんだもん」
可愛い、可愛い? 私はこの言葉を男から言われたことがあるだろうか。夫を含めて、せいぜいひとケタぐらいである。本当に不思議だ。
そして私はドジで田舎っぽいけど、愛嬌《あいきよう》があるということで女の人たちに好かれていたのであるが、この数年は風向きが変わってきた。多くの読者は私のことを、
「強くてカッコいい」
と言ってくれるのである。全く人気というものはわからない。みんなが勝手に私のイメージをつくり、それに好意を持つ。私の知らないところで、エネルギーがつくられ、それがぐるぐるまわっているのだ。ある俳優さんが、子どもが生まれた時のインタビューで、
「人気とか運とかいったものに、左右されない仕事に就かせたい」
と言っていたけれども、その気持ちすごくわかるな。わかるけれども、人気というものの熱気に包まれている快感を私はもう知っている。会ったこともない他人の好意は、ほんの少しずつだけれども熱を持ち、こちらに向かって流れ込んでくる。そういうものにちゃんとこたえなければならないと私は思う。それがずっと「その他大勢」「いても構わない」人生をおくってきた私の幸福だから。
それにしても、私はまわりの人にもものすごく気を遣う。相手が疲れるぐらいにだ。テツオはそれを「トラウマ」と言うけれど、やっぱり女王の過去が欲しかったぞ。