最近スカートばっかり買っている私である。不思議なことにダイエットの結果、下半身の方が痩《や》せたのである。
上の方は「腐ってもタイ」といおうか、衰えたりといえどもバストがまだ多少残っている。そのためサイズが苦しいのであるが、スカートの方は比較的すんなりと入るようになった。
その結果、トップよりもボトムの方を買っている。このあいだは紀尾井町のドルガバで、それはそれは美しいシフォンのスカートを見つけた。私はシフォンに目がない。ふんわりとやわらかく、着ているだけでお姫さま気分になるのだ。
そのスカートは赤い花模様で、ショーウインドウに飾ってあった。ここのものは細身に出来ていて、今まで悲しい思いばかりしていたけれども、これはどういうわけかぴったりではないか。即決。
このところミニマムなものばかり着ていたせいであろうか、ラブリー路線に目がいく私である。久しぶりに「アンナ・モリナーリ」ものぞいてみた。
すると発見したのである。この世のものとは思えないほどかわゆいスカートがある。バレリーナの模様で、よく見るとスカートにところどころスパンコールがほどこされているじゃないか。私は年齢、体重、体型、いろんなことを考えた。そしていったんは諦《あきら》めて、近くの出版社へ打ち合わせに出かけた。
そこの女性編集者たちに話したところ、みなで見に行ったらしい。そして後に合流したら、口々に言う。
「ハヤシさん、あれは絶対買った方がいいですよ」
そんなわけで、今、私はそのスカートをはいている。今日、対談や打ち合わせで三組の女性と会ったが、彼女たちは必ず叫ぶ。
「わー、ステキ。それ、いったいどこで売ってるんですか」
フレアになっていて、私が歩くとバレリーナたちも一緒にひらひら動くのさ。
またスカートとは違うけれども、私はこのあいだコムデのワンピースを買った。これもシフォンが重なっているものだ。チェックとドットの透きとおる模様が幾重にもなっていて、その美しいことといったら。
私はあまりアヴァンギャルドな感じにはしたくなかったので、これに麻の黒いジャケット、パンプスを組み合わせる。が、どこへ行っても誉められる。このあいだはマスコミの人たちが集まるパーティで、ステージに上がって挨拶《あいさつ》する機会があったが、ふんわりとスカートが揺れ、こちらも大絶賛である。
「これ、いったいどこで売ってるんですか」
このように人サマに誉められることが多くなった(服が)私であるが、真のおしゃれになれない致命的なところがある。それはケチなところですね。つまり、
「汚れるともったいない」
という精神である。
おとといのこと、仲よし数人で焼肉を食べに行くことになった。うんとおいしいけれども、うんと野性的なところという評判だ。焼肉と一緒に、
「煙で隣の人の顔も見えなくなるので、それなりの覚悟をしておいてください」
という注意書きが入っていた。私は買ったばかりのバレリーナスカートにしようか、それともアルベルタ・フェレッティのピンクの革にしようか悩んだのであるが、脂やタレがついたらイヤだなと思い、ジーンズにした。ところがどうだろう、他のメンバーはちゃんとそれなりの格好で来ているじゃないか。他の二人も、パンツスーツ、ワンピースといういでたちだ。男の人たちも上着は脱いだもののピシッと決めている。私ひとりだけ、何だかビンボーたらしいのである。
テツオは言う。
「ジーンズっていうのはさ、いい年してそれを着ちゃおしまいのところがあるよ。うんと若くてモデル並みじゃないかぎり、あれは人前では着ない方がいいよ」
そういえば何年か前、女友だちとパリのプラザ・アテネに泊まった時のことだ。彼女は年のわりにはスタイルがよく、ジーンズをはくとおじさんたちに驚かれるそうだ。
「うちの女房なんか、ジーンズをはいたことなんかないですよ」
彼女はパリに来る前、視察旅行でおじさんたちと東欧をまわっていたのだが、そこでモテモテだったと得意そうに言う。それでプラザ・アテネのロビーも、ジーンズ姿でいるわけであるが、私は注意した。
「ねえ、こんなとこまで来て、そんな格好することないじゃん」
そうよね、いい年をした女が、いくら焼肉屋に行くからといって、ジーンズはよくなかったと大いに反省した私である。
このところ夜眠る前に、明日は何を着ようかナと考える。そして眠りにつく。この幸福なひととき。お洋服から私はなんてたくさんの幸福をもらうようになったんだろう。バレリーナのスカート、シフォンのスカート、好きで好きで買ったもんばっかり。ダイエットして本当によかったデス。ケチをしていてはもったいないですよね。