皆さん、お元気ですかー。
私は、あまり元気じゃない。仕事があまりにも忙しいうえに、毎晩のスケジュールは毎日、詰まっている。
「毎晩遊び歩いているんじゃない」
と夫は怒るけれども、毎晩誰かと食事の約束はあるし、およばれはある。全く、こんな日々を過ごしながら、仕事も家事もダイエットもやる私というのは、なんてえらいんでしょ。ご馳走《ちそう》を目の前にしながら、食べていいものをちゃんと頭の中で計算している。メインのものはたいてい、いただくけれども、どんなに勧められても、デザートは口にしない。アルコールは、いいワインとか日本酒だったら、最初にちょっぴりいただく。私はご飯よりもパンの方が好きだけれども、どんなに焼きたてのおいしそうなものが並んでいても、じっと我慢する。
その甲斐《かい》あって、最近めっきりキレイになったと評判の私である。なんていうセリフ、読者の方々だったら聞き飽きたよね。
じゃ、これはどうだ!
「ついに『SMAP×SMAP』に出ることになった私です」
前から私は、たまにはテレビに出ようかナ、出るとしたら「おしゃれカンケイ」と「SMAP×SMAP」だよ、と公言していた。「おしゃれカンケイ」の方はすぐに声をかけていただいたのであるが、「SMAP×SMAP」の方は、ウンともスンとも言ってこないじゃないの。諦《あきら》めていたのであるが、つい先日、出演依頼の電話がかかってきた。
すごいじゃんと、私のまわりの人たちは興奮している。そしてにわかに増えたのが、
「付き人として一緒に行かせてくれ」
というやつである。私は芸能人じゃないので、どこへ行くのもひとりである。本のプロモーションで何かに出る場合、たまに出版社の人たちがついてきてくれることがあるけれども、番組出演も、講演会もひとりで行く。
「だけどさ、そんなこと誰もわからないわよ」
知り合いの女性が私に手を合わせた。
「私、一度でいいからキムタクに会いたいの。ね、ハヤシさん、お願いよ。私を付き人かマネージャーってことにして」
そりゃあ、キムタクを見たくない女なんているわけないでしょと、私は冷たく言い放った。しかし、ここに思わぬ伏兵が現れたのである。誰あろう、テツオである。
「あんたが『SMAP×SMAP』に出られるのも、もとはといえばオレのおかげなんだぜ。オレが知ってるプロダクションや、テレビ局に頼んでやったんだからな」
と、すごむ。こうなったらテツオを無視するわけにはいかないではないか。
「それはそうと、キスの練習はしてるんだろうな」
と、テツオは意地悪気にイヤらしく笑った。
「年上の女としての貫禄《かんろく》、見せてやれよ」
「いいえ、私はヒトヅマだからそんなことは出来ないの」
と、きっぱり。
「私、相手がキムタクだろうと……」
言いかけてハッとした。たとえキムタクでもという、この譬《たと》えはよく使われるが、実際そういうことをする女が日本中に何人いるだろうか。ああ、すごいわ、私って……。
「でも、でも、人前でキスなんか絶対にしませんからねッ」
「けっ、何を気取ってんだよ」
と言いながらも、テツオは、私のためにプロジェクトを組み始めた。あと絶対に四キロは痩《や》せた方がいいと言うのだ。こんなに努力しているにもかかわらず、ちょっと油断するとリバウンドの波にさらわれる、そんな不幸な私。
皆さん「ヤセた、ヤセた」と言うのだけれども、実は「おしゃれカンケイ」に出た時よりも、二キロほど太っているのだ。
「スタイリストはマサエに頼んでおけよ。それからヘアメイクはやっぱり大物だぜ。オレからミヤモリさんに頼んどいてやるよ」
ミヤモリさんというのは、いつも私のヘアメイクをやってくれるアカマツちゃんのボスである。スターといわれる人たちを手がけるカリスマヘアメイクのひとりで、私なんかやってもらうのはおそれ多いよ。
「何言ってんだよー。『SAMP×SAMP』だぜ。視聴率が毎回二十から二十五のオバケ番組だぜ。ここでなー、あんたがキレイに映れば、ハヤシマリコって美人じゃん、っていうことになるけどよ、その反対だったら、やっぱりブスじゃん、っていうことになんだぜ。いってみれば、あんたのこれからの人生は、この『SMAP×SMAP』で決まるんだから。わかってんのかね」
はい、わかりました。
私はあれから本当に頑張ってダイエットしています。が、ある人が沖縄土産といって、サーター・アンダーギーをくれた。これは私の大好物の沖縄ドーナッツだ。私はこれを見ると頭がおかしくなる。我慢というものがふっとぶのだ。そして思わず、黒砂糖をたっぷり使って油で揚げたお菓子を二個食べた。体がとても敏感になっているらしく、なんと一日で一・二キロ増えた。そして私は一週間かけて一キロ落としていく。ああ、果てしないダイエット蟻地獄。
が、「SMAP×SMAP」のシェフがつくってくれたものは、すべて残さず食べるわ。私の目標は今、あのテーブルにあるのだ! ガンバレ、マリコ。