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落語特選16

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:宿屋の富馬喰町は、江戸時代には郡代屋敷に接し、また日本橋(商業中心地)に近い土地柄、大、小の宿屋が約八十軒ほど軒を並べて
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宿屋の富

馬喰町は、江戸時代には郡代屋敷に接し、また日本橋(商業中心地)に近い土地柄、大、小の宿屋が約八十軒ほど軒を並べていた。
馬喰町の由来はその名のとおり、徳川家康が関ケ原出陣の際、馬工郎(馬喰)高木源五兵衛に命じて厩舎を作らせ、数百頭の馬を飼うために、配下の馬喰(馬方)を住まわせたことによる。その後も隣り町の大伝馬町・小伝馬町に幕府の伝馬役を勤めた大勢の馬喰が明治維新まで住んでいた。
この辺の宿屋は俗に公事宿《くじやど》と言い、客の多くは幕府|直轄《ちよつかつ》領の農民で、郡代屋敷や寺社奉行所へ訴訟のために来た原告・被告及び付添人たちだったため、いずれも長逗留するので、素姓の知れぬ客が長い間滞在するからといって、別に怪しむこともなかった……。
「ちょいと、おまえさん」
「なんだい?」
「なんだいじゃァないよ。二階のお客さまだよ。もう二十日も逗留してるよ」
「結構じゃァねえか」
「喜んでちゃ困らあね、おまえさん。茶代ひとつ出さないじゃァないか。なんだか様子がおかしいよ。きっとないのかも知れないよ。深みィはまらないうちになんとかしたほうがいいんじゃァないかい? ねえ、おまえさん。様子ゥさぐっといでよ」
「だっておれァおめえしょっちゅう出歩いてんだ。おめえがそのぐれえ……」
「なにを言ってんだよ。こんなことはね、女のやるこっちゃァないよ。男の仕事だよ。おまえさんだって男のはしくれ[#「はしくれ」に傍点]だろ。ちょっと様子見といでよ」
「はしくれ[#「はしくれ」に傍点]たぁぬかしゃあがったな。じゃ、まァいいよ、見つくるよ。……ごめんください。おいででござんしょうか?」
「はい、だれかね?……おゥ、なんだ、この家《や》の主人《あるじ》どんだな。おら、泊まったときに顔を見たが、それっきり顔も合わせねえが……なんだ? なんか用かね」
「どうもかけちがいまして、ご挨拶にも上がりませんで、まことにどうもお粗末ばかり申し上げておりまして申しわけございません」
「いやァ、結構だよ」
「じつは、お願いがございまして……」
「なんだい?」
「お宿帳が願いたいと思いまして……」
「宿帳? おかしいでねえか。おら、泊まったときに付けたでねえか」
「エエ、お処《ところ》とお名前は伺ってございますが、この節また、その筋のお調べが厳《きび》しゅうございまして、お身装《みなり》からお荷物、ご商売、悉《ことごと》く付けさして頂くようなことンなっております」
「ああそうかね……身装《みなり》ったってこれェ着たっきりだい。荷物ってあすこにある小《ち》っけな包み、あれ一つだい……商売って、おら商売ねえだよ」
「ほほう……お調べの節に無職というのは、まことに困るんでございますが……」
「困るんでごぜえますがって、ねえものァしかたなかんべえ」
「……それにまだ、お手付金も頂戴してございませんし……」
「ああそうかそうか。どうも様子おかしいと思ったら、おめえ、なんだな、勘定取りに来ただな? それならそうとはっきり言うがいいでねえか。ご商売がどうの……お身装《みなり》がどうの……ええ? おらァねえ、ちびちび払っては面倒でなんねえと思って、発《た》つときに一ぺんにおらァ、纏めて払うべえと思ってただなァ。おめえらおらが汚ねえ身装《なり》してるで見縊《みくび》って、そんなことを言ってきただな。さあ、いくらンなるでえ、払ってくれるだから……ええ?| 勘定書《かんじようがき》出しなよ。いくらンなるだ」
「お腹立ちではどうも恐れ入ります。別に見縊ったのなんの、そういうわけで申し上げたんじゃァござ……」
「いやァ、そうでねえか。腹も立つでねえか……ばかにしねえもんでえ。おらァこんな身装《なり》してるけど、金に困ってる男でねえだよ。金はいくらでもあるだから……費《つか》っても費《つか》っても増《ふ》えるでえ」
「……ほほゥ、金は費わないでいても減るもんだなんてえことを伺っておりますが、費っても費っても増えると申しますと、なにかよい株でもお持ちですか? それとも金のなる木でもお持ちで……」
「なに言ってるでえ。金のなる木なんてのがあるけえ。なあ、第一《でえち》おめえ、この江戸ぐれえ貧乏人の多い所《とこ》はねえなあ」
「別に江戸っ子が貧乏てえわけじゃァございません。こりゃ諸国の掃き溜めような所《とこ》ですから……」
「いや、そんなことを言ってるでねえだよ。江戸ぐらい貧乏人の多い所《とこ》はねえちゅうでえ。そうだんべえ……第一《でえち》おめえ、五人衆、十人衆、旗本、大名《でえみよう》、悉《ことごと》く貧乏でねえか」
「……? ェェお言葉の中《ちゆう》でございますが、五人衆十人衆てえのァ五本の指、十本の指に数えられるような物持ち長者でございます。それにまた、お旗本衆にはお台所の苦しいなんてえこともよく伺っておりますが、お大名に貧乏てえことァございません」
「いやァ、貧乏だ。二百六十余大名これ悉く貧乏でねえか。ええ? それが証拠にはみんなおらン所《とこ》へ金ェ借りに来るでえ……」
「さいでございますか」
「ああ、それもいいだ。十万両貸せ、二十万両貸せ、端銭《はしたぜに》べえ借りに来るでえ」
「……十万、二十万が端銭……で、旦那《だア》さまそれをお貸しンなる……」
「ああ、貸してやるでえ」
「じゃ、ご商売は金貸し……」
「いや、金貸しではねえだ。借りに来るから貸してやるだよ」
「へえー」
「それもいいだよ。大名なんてのァもの堅《がて》えだァ。借りたほかになァ、これはその利息でごぜえます……余分の銭持って来るでえ。そいからおら言ってやるだよ。そんなものいらねえって……するとおめえ、そこィ銭を置いて逃げるようにして帰《けえ》っちまうだァ。まあ金が金を生むなんてえことをよく言うが、まったくだなあ。その利息っちゅうンでな、蔵がおめえ、金でいっぺえンなっちまった。金の置場に困るでえ……番頭の言うのにゃァ、これではどうにもしょうがねえ。旦那《だア》さまァ当分の間《あいだ》、金を返《けえ》さねえようにひとつ、大名屋敷ィ行って断わってきてもらいてえ……こう番頭が言うでえ。そいからおめえ、おらァ毎日《めえにち》こうやって江戸中歩いてな、当分返さねえようにしてもらいてえと、断わって歩いてるでえ。はッはッは……」
「へえー、驚きましたなあ。わずかばかりの銭でも催促をする世の中に、金を返さないようにしてもらいたい……夢のような話ですなあ……そうすると旦那さま、よほどご奉公人衆もお使いで……」
「ああ、ずいぶんいるだなあ。どのぐれえいるだかなァ? こねえだ番頭が言うでえ。旦那《だア》さまどうも人数が多すぎて困ると。仕事がはかどンねえちゅうてな、まァ聞いてみるともっともな話でえ。あれがすべえ彼がすべえちゅうてなあ、おっつけ仕事ンなるでえ。で、自然と仕事がはかどンねえ……そんならまァ汝《われ》の好きにして人減しするがいい……あれでどのぐれえ減らしたかな? 百五、六十人も減らしたかなあ。まァそれぞれみんなそうとう手当ェくれて暇出したがね。それでもまだどのぐれえいるだか勘定がしきれねえようだあ」
「へえー、百五、六十人も人減しをなすって、それでまだどのぐらいいるか……はァ、おわかりがない……驚きましたなあ。じゃァよほどお邸などもお広くて……」
「広《ひれ》えだよ、だだっ広《ぴれ》えだなあ。あまり広《ひれ》えのも困るだよ。おもしれえ話があるだよ。番頭が、旦那《だア》さまァ、離れェ拵《こしれ》えたからひとつ見てもらいてえ……そいからまァ、じゃァ見べえちゅうでな。草鞋《わらじ》ィ穿《は》いておめえ、おらンとこの庭うちだァ、あれで四日べえ歩いたかなあ、番頭あと幾日《いくンち》歩くだァったら、あと三日歩いてもらいてえ……おらよすだァつッただァ。てめえの離れンとこィ行くまで七日の旅ィぶたなければいけねえなんて、億劫でなンねえ。おら此所《こつ》から引返《ひつけえ》すからつってな、おらいまだにその離れちゅうのを見てねえだよ。はっはっはあ」
「……へえー、驚きましたなあ。離れへおいでンなるのに七日の旅をなさる……お広いンですなあ」
「それがおめえ、こねえだおもしれえことにな、泥棒が入《へえ》ってな」
「ほゥお、泥棒が……お怪我はございません?」
「いや、怪我なんぞァねえだよ。何人いただかなァ……十何人もいただかなァ。おらの寝てえる枕元へ光ったものを突きつけてな。命が惜しけりゃァ金ェ出せっちゅうでえ……おら命は惜しい。金は惜しくねえだから、いくらでも持ってってもれえてえ……そいからおらァ蔵へ案内ぶってやってな。蔵のはァ、扉ァ開けて、戸前を開けて、さあさあ好きなだけ持ってきなせえ……みんなぞろぞろぞろぞろ入《へえ》って、出てくるときは千両箱ひとつっ宛《つ》担いで出つ来るでえ。なかには二ッつ担いだやつが二人べえいたかなあ。おら褒めてやっただ。汝《われ》力あるでねえか、えれえぞッつッてな。で、まあみんな出てって、しばらくすると、頭立《かしらだ》ったやつが戻って来て、表の門を開けてもらいてえ……ばかなことを言うな。いくらなんでもな、泥棒野郎にな、表門から大手振って出られてたまるか。裏のほうから出ろッて……野郎涙こぼしやがって、入《へえ》るときは裏から入って参《めえ》りましたと。だけどもはァ、これまで来るのには半月の旅ィしてやって参《めえ》りましたと。また半月の旅ィして引っ返すのは大変でごぜえますから、どうぞひとつ表門から出してもらいてえ……そう言われりゃァもっともなことでな。そいから奉公人五十人べえ起してな、表の門を開いてやっただよ。そりゃ十人や二十人で開くような門でねえからな……野郎喜びやがってはァ、みんなまた千両箱を担いでぞろぞろ出てくだから、まあこのままにしとくだよ、蔵のはァ、戸も開けっ放しにしとくだあ。またいつでもいいから来て持ってけやァ……みんな喜んで出て行ったァ。しばらくすると、千両箱を二っつ担いだやつが、一つ担いで戻って来てな、これお返しするてえ……なに言っとるだあなあ。持ってけったら、いや、とても二つは担いで行かれねえ。どうぞ一つお返し申しますからって、そこへ千両箱を一つ置いて、そのまま帰《けえ》って、また来るかと思って待ってたが、とうとうそれっきりやって来ねえ……あれ考《かんげ》えてみると、正直な泥棒だ」
「……正直な泥棒てえのァございませんが……驚きましたなあ、旦那《だア》さまァ、そこのご当主さまでいらっしゃる……?」
「ああ、そこのおらァ主人《あるじ》だあ」
「へえー、そういう御大家《ごたいけ》の旦那《だア》さまがなんでまた、よりに選《よ》っててまえどものようなこんな旅籠へお泊まりンなって……」
「それには理由《わけ》があるだよ。いやァいつも表のなんとかっちゅう旅籠へ泊まるでえ……大《えけ》え旅籠へなあ。で、おらァ茶代《ちやでえ》だァ祝儀だァ、えかく出すもんでな、みんなちやほやちやほやしてなあ、食物《くいもの》でもなんでもそうだァ。旨えもの食わせべえと思って骨折るだがね、おらァしょっちゅう食ってるようなもんで、旨くもなんともねえだよ、ああ。湯ィ入《へえ》ればって大勢でくっついてきて、おらの身体《からだ》ァあっちィ引《し》っこすりこっちィ引《し》っこすりなあ、もう摺り切れちゃあしねえかと思って、それが気塞《きぶせ》えでなんねえ。で、番頭こんだ汝《われ》行ってこいったら、いや、こういうことはどうしても旦那《だア》さまでなけりゃいかねえと。その代り気楽に行ける法を教《おせ》えるだ……おらンとこの番頭は頭いいだからな。あんでもいいからいい旅館へ泊まンねえで、ひどい旅籠《はたご》を見つけて、そこへ泊まンなせえと。茶代《ちやでえ》も祝儀ももう、少しも置かねえがいいと。で、身装《なり》もいい身装《なり》してってはいかねえ。汚ねえ身装《なり》して行きなせえ……そいでまァこれ、いま着てるこの着物、これ番頭の寝巻だァ、なァ……そいで汚ねえ旅籠っちゅうのを探してみて、見つかったのがおめえのとこでえ……しみじみ汚ねえなあ、おめンとこはなあ」
「恐れ入ります」
「いやァそれに茶代《ちやでえ》も祝儀もなんにも置かねえから、おめンとこじゃァ少しも構ってくれねえ」
「別にそういうわけじゃァございませんが……」
「それに食物《くいもん》でもなんでもそうでえ。めずらしいものが出つくるだァ。おらァ食ったことのねえようなものばかりなあ。ほろ苦《にげ》えような、甘酸っぺえようななあ、おかしなものが出つくるだなあ。お飯《まんま》ンなるのが楽しみだァ、おらァ。こんだどんなものが出てくべえかと思ってよゥ。風呂だって自家《うち》にねえだなァ、外へ行くだァ。あれ銭湯っちゅうのかァ?あれァおもしれえなあ。唄ァ唄うやつがあるかと思うと、喧嘩ぶつやつもある、なあ。まったくあのおかしな変な匂いがするが、却ってあの匂いが身体のためにいいような気もするだよ。はっはっはあ」
「どうも恐れ入ります。ェェ以前はそうとうな旅籠をしておりましたが、あたくしが道楽をはじめましてな。すっかり後前《うしろまえ》になってしまいました。いまはもう旅籠とは名ばかりでございます。旅籠だけではもうとても食べて行かれません。そこであたくし内職をしておりまして、昼間跳び歩いておりますんで……」
「ほウ、内職ってなにしてるでえ」
「へえ、見徳屋《けんとくや》と申しまして……富の札を売って歩いておりますので……その売上げの何分《なんぶ》かの口銭《こうせん》を頂戴しているようなわけで……」
「ああ富の札……富なんちゅうものァあるてえことはよく聞いてるだがねえ、あれどんなもんなんだ……」
「へえへえ、ェェここに一枚持ってございますんで、ご覧に入れます……これは椙森《すぎのもり》の稲荷の富でございます。きょうが当日で、へえ……正午《しよううま》の刻《こく》……もう突きはじめておりますんですが……エエこれ、売れ残りますてえと、あたくしが背負《しよ》わなきゃァなりませんが……一枚が一分でございますんで、旦那《だア》さまいかがでございましょう。これをおなぐさみにひとつ買っていただくわけに参りますまいか……あたくし助かるんでございます。一分と申しますと大金でございますんでなあ」
「ははァ……いや、買ってくれてもええが、それどういうことンなって……」
「これへその、番号がございまして、この番号に当たりますてえと、千両取れますんで……」
「はァ……その番号に当たると千両、おらが出すのかね」
「いや、旦那《だア》さまが出すんじゃあございません。旦那《だア》さまが千両貰うんでございます」
「おらが千両貰うのか……そりゃ駄目でえ。おら金があり余って困ってるでえ。あにしろおめえ、その金のあるところへ千両でも二千両でもまた入《へえ》ってきたらどうにもなンねえだ。そういうなになら折角だか断わるでえ」
「いえ、こういってはなんですが、これはまあ、当たりっこないんでございます。四万何千という籤《くじ》の中からたった一本でございますから、当たりゃあしない……当たらないこととして、旦那《だア》さまいかがでございましょう。あたくしを助けると思って、買って頂くわけに参りますまいか」
「当たンねえか……当たンなきゃあ買ってくれてもいいだよ。待ちなせえ、一分だね? 一分ってのァどんな金だったかなあ……これでいいか? 間に合うかね」
「いえ、こんなに要りません。この額《がく》が一枚でよろしいんでございます……じゃ、これ頂戴します……あとはどうぞ、お納《しま》いンなって……」
「ああ、そうか、それ一つでいいか?……おれンとこへ乞食《こじき》が来るてえとなあ、いつもそれ一つくれてやるだあ」
「へえー、乞食に一分おやりンなる……もうあたくしが乞食ンなりたいようでございますなあ、ヘェ、おありがとうござい……。では、これはその札でございます……」
「これが富の札ちゅうけえ……ほんとうに当たンねえな、これァ。当たっては駄目だよ」
「弱りましたなあ、欲のないかたに得てして当たりたがるもんでございますが……旦那《だア》さまいかがでございましょう。それほどお入用《いりよう》のないお金でございましたら、もし当たりました折には半分の五百両だけあたくしに頂戴できないでございましょうか?」
「ああいいとも。遣《や》るだよ……五百両なんて言わずに千両そっくり持っていきなせえ。いくらか付けてくれべえか」
「いえいえ、千両なぞ要りません。五百両あればもうほんとうに大助かりでございます。では、旦那《だア》さまの番号を控えておきます……鶴の千三百五十八番と……ありがとうございます……旦那さまいま、お茶でも淹《い》れまして……」
「おゥ、いいだよ、構っては駄目《だみ》だよ。構うとおらほか行って泊まっちまうだからな、放っといてくだせえ。用があったら手ェ叩いて呼ばるだから……あとをよく閉めてってくンろ……ふゥッ、もうなんか言ってくる時分だとは思ってただい。主人《あるじ》野郎が顔を出したから、来たなァと思ってると、そのうちにお手付金と来たからもう駄目だと思って、おら口から出まかせにくっ喋《ちやべ》ったン……またおらの言うことなんでも本気《ほんこ》にするだよ。ばかなやつがあるもんでえ。まあいくらなんでも考《かんげ》えてもわかりそうなもんでえ。離れまで七日の旅ィぶたなけりゃァ行けねえなんてところがあるけえ、なあ……とうとうこんなもの買わされちまって……富なんてのァおらよく知ってるだよ。こんなもの当たるもんでねえだよ……おらなんのためにこの江戸さへ出て来てるだよ。金算段に来たでねえか。ここはと思うところはみんな当てがはずれちまって……あの銭だっておらの銭でねえだよ。あれ村の衆から帰《けえ》りに土産買って来てくンろって預かってる金でえ。その金ェはァ一分くれちまって……弱ったもんでえ、まあなァ……鼻ッ紙にもなンねえ、こんなものァ。椙森《すぎのもり》の稲荷かあ、おらよく知ってるでえ……そうだ、行って見べえかなァ……これがもし当たっていればおめえ……いやァ当たるわけァねえなあ……行くだけ行って見べえか。行ってみて、当たってなかったら、そのままそこからずらかるべえ。ここの家には悪いけど……いや、そのままっちゅうわけでねえだ。金|拵《こしれ》えてまた払《はれ》えに出つくればいいだい、一時《いつとき》のこった……そうだ。そうすべえ。じゃ、行ってくべえ」
「あ、お出かけでございますか?」
「あ、おかみさんけえ。ちょっとなあ、ぶらぶらしてくるだ」
「ああさようでございますか。富のご見物でございますと、この通りを出まして二つ目を左へ……」
「いやいや、そんなところへ行くでねえだ。おら人混みィ大嫌《でえつきれ》えだなァ。あにしろ静かなところをぶらぶらしてな。そり[#「そり」に傍点]でなんだね、貧乏人でもいたら金でも恵んでくべえと思ってよ、うん」
「さようでございますか、ただいまお草履《ぞうり》……」
「ああいいだい。草履なんぞ出さねえで……おら勝手にするだから。放っといてくだせえ」
「じゃァお早くお帰り遊ばせ」
「あい、行って参《めえ》りますでえ……ああ、ああ、かみさん急にはァ愛嬌よくなったな。おやじさんからなんか聞いただな。ふん、気の毒になあ。おらァずらかンのも知ンねえでなあ……勘弁してくだせえよ。このままっちゅうわけでねえだから。また出つくるだからね……あれあれあれ、みんなぞろぞろぞろぞろこっちィ来るでえ。もう富終っただな。ああ、早く行って見べえ……ああ、もう終ったァ、もう……ずいぶん未練がましく残ってまあ、ぼんやりしてるでねえかァ。しっかりしろい、本当《ふんとう》に。おらだって一分取られてるでねえか。江戸っ子でねえか、おめえらァ。何《あん》ちゅう情けねえ面《つら》ァしてやがン……ああ、ああ、あすこに当たり籤《くじ》が書き出してあるだな。……前《めえ》出て見ンべえ。ごめんなせえ、ちょっくらごめんなせえ、ごめんなすって……あァ、あれだ……口富《くちどみ》、中富《なかどみ》と順に書《け》えてあるだな。口富が五十両、あれが亀の二千六百二十三番? ああ、おらのどうでえ……おらのが鶴の千三百五十八番……ああ、鶴と亀ではえれえ違いだい、なァ。五十両……おらァ五十両なんぞいらねえだあ。三両いまありゃいいだよ、なァ……中富、二百両……ええなァ、二百両もあったらなァ……あれが鶴の二千三百九十一番かい……おらのが鶴の千三百五十八……ああ駄目《だみ》だなァこれァ。一番違っても、こら当たらねえだから。おらよく知ってるでえ……ああ、あの大きく書いてあンのが大富だァ……。あれならばはァ、千両ンなるだよ、なァ。エエ鶴の千三百五十八番……おらのが鶴の千三百五十八番か……当たらねえもんだなあ。鶴の千三百五十八番ならばこれ、千両ンなるだよ、なァ……おらのが鶴の千三百五十八番……少ゥしの違《ちげ》えだな、これァ……(ゆっくりと)鶴の千三百五十八番ならば当たってるだよ……おらのが鶴の千三百五十八番……(自分の札と貼り出されている番号を二、三度見くらべて)なんだこれァ、なんだか同《おんな》じようだぞ、これァ……鶴の千三百五十八番……おらのが鶴の千三……鶴、鶴(と一字ずつ確かめ指さして)千、千、三、三、百、百、五、五……十……あ、あ、あ、あた、当たった当たった。(富の札を拝み)当たった、当たったよ、これァ。……あァ……当たったよ、当たったよ。あんだか知ンねえけども体の力がみんな抜けてくだよ、これァ。地べたン中へなんだか体がもぐり込むようだよ、これァ。しっかりしなくては駄目《だみ》だよ、これァ。あァ、寒気がしてきた。(札を懐中にねじ込み)あんだか知ンねえけども……弱ったな、これァ。体ががたがたがたがた細かく震えてくるでえ……宿へ帰《けえ》るべえ、あァ……(馳け出して)このまま帰《けえ》ってなんて言うべえかなァ……ええ? がたがた震えて、みっともねえなァ……風邪ェ引いたとでも言うべえかな?……待ってくれ、どこの旅籠だかわかンなくなっちまったな、これァ(と、あたりをきょろきょろ)ェェどこだっけなあ……ェェちょっくら伺《うかげ》えますがねえ……」
「あら、お帰り遊ばせ」
「あ、あァ……おかみさんけえ、よかったなあ」
「まあ、どうしたんでございます。お顔の色がお悪い……お加減でもお悪いんでございますか? どうなさい……」
「ど、ど、どうもこうもねえや。あんだか知ンねえけど気持ち悪くてなンねえ。おらここンとこへちょいとまァ寝《やす》ましてもらうだから……」
「そんなところへお寝《やす》みンなっては……じゃ、お二階じゃァなんでしょうから、いま階下《した》へ床を取りますから、ちょいとお待ちくださいまし……さあさ、どうぞこちらでお寝《やす》みンなって……」
「ああ、ああ、ありがてえ、まあどこでも構わねえだよ。……すまねえ、寒くってなンねえだ。頭からすっぽり蒲団かぶしてくだせえ」
「まあ弱っちまうねえ、こんなときに奉公人がいてくれないとどうにもならない。家《うち》の人でもいてくれりゃァいいんだけど……あ、よかったよかった、帰って来たよ……まあなんてえ顔して帰って来たんだい? まァ……ちょいと、おまえさん、どうしたんだい?」
「あた、あた、あたっ、たったった(と、坐り込む)」
「立った、立ったって、そこへ坐っちまうやつがあるかい。どうしたン……?」
「当たった、当たった……」
「こっちへまァお上がりてんだよ。どうしたい」
「おい、あんまり乱暴すンない……あた、あた、当たったんだよ」
「え?」
「当たったよ」
「当たった? だからあたしが言ってるだろう。しょっちゅう表で変なものを食べるんじゃない……なにを食べて当たったんだい」
「ばか野郎、食物《くいもん》に当たったんじゃねえんだい。富に、富に当たったんだよ」
「なァにを言ってンだねえ。富に当たったって、おまえさんが富の札ァ売ってりゃァだれかに当たらあね」
「だれかじゃァねえんだい。二階のお客さまになァ、売った富が、あれがおめえ、千両富に当たったんだ」
「へえー、二階のお客さまに? 運のいいかただねえ、そうかい……いえ、あんな大きなこと言ってるけど、なんだかあたしァ心配だったんだよ。でもさあ、これでもう旅籠賃の取りっぱぐれはないねェ」
「なにを言ってやンでえ、旅籠賃なんぞァ、そんなものァどうだっていいやい」
「なにを言ってるんだい、この人はァ……宿屋が旅籠賃貰わないでどうするんだい」
「いや、おめえにはまだ話をしてなかったがなあ、もし旦那が千両当たった折には半分の五百両をな、おれが頂けるというおめえ、そういう約束ンなってるんだ」
「まあ、おまえが? 五百両も? 貰う約束が?……そりゃおまえさん(とくずおれる)」
「おゥおゥ、しっかりしろ、おゥ、しっかりしろ、おい。大丈夫かあ、おゥ、水飲め水飲め……ええ? 五百両だよゥ、五百両ありゃァおめえ、またもともとどおりの旅籠ができらあね。夜具でもなんでも買い込んで、奉公人でもなんでもおめえ雇ってなァ、ええ? どうだい」
「そうかい、まあうれしいじゃァないか、まァ。夢じゃァ……」
「夢じゃァねえやなァ。あ、そいからな、旦那に祝いに一口差し上げるから、仕出し屋へ行って、刺身でもなんでも、そ言ってな」
「ああいいよ、百人前も頼むかえ」
「なに言ってやンでえ、そんなにいるか……それから神棚へお燈明《あかし》を上げてな……たしかに頂戴できるか、おれァちょいとな、旦那に念を押してくるからな」
「ちょいとお待ちお待ち、おまえさん……なんだねェ、下駄ァ履いて上がって来たんだね。冗談じゃァないよ」
「あ、そうかい、あんまりうれしいもんだからね……どうも坐ってて痛《いて》えと思ったい」
「なにを言ってるんだい……いえ、二階へ行ったって駄目なんだよ。おまえさんの帰るちょっと前に旦那ね、なんだかご気分が悪いってんで真っ青な顔をしてお帰りンなってね、二階じゃァ間に合わない。階下《した》の部屋へ床《とこ》をとってお寝みンなってンだよ」
「なに? 階下《した》においでンなる? ばか野郎、それを早く言えよゥ、ほんとうに、ええ? みんな旦那に聞かれちゃったじゃァねえか……江戸っ子だなんて大きなことを言ったって五百両ばかりの銭で夫婦ががたがたがたがた震えて、亭主が下駄ァ履いて座敷ィ上がってきた……みっともねえじゃねえか、ばか野郎……ま、しょうがねえ、いいやいいや、おれが……どこ? こっちの部屋?……ェェごめんくださいまし……ェェ旦那さま、お加減がお悪いそうですが、いかがでございますか?」
「ああ? だれでえ? ああこの家《や》の主人《あるじ》どんかえ……弱ったァ、何《あん》だか知ンねえけど、気分悪くてなンねえ」
「さようでございますか。ちょいと入らしていただきます。へえ、ごめんくださいまし。……旦那《だア》さま、お詫び申し上げなくちゃァならないんでございますが、ェェ先刻お売りいたしました、富の札でございますが、あれが千両富に当たりましてございます」
「なに? 千両当たったァ? そうけえ、どうも虫が知らせるだなァ。胸騒ぎがするちゅうだかまァ、どうしてこう気分が悪かんべえと思って……やっぱりそういう災難に出逢ったでえ……えれえことンなった」
「なんとも申しわけございません……それからお約束のあれ、たしかに頂戴できるでございましょうか」
「ああ? 約束だァ? 何《あに》か約束したか」
「お忘れでは困ります。あの、当たりました折には半分だけ頂戴できるという……」
「ああそうけえ、そんなことを言ったかな。ええだい、持ってきなせえよ。五両でも三両でも……」
「いえ、五両、三両ではございません。半分の五百両で……」
「ああいいだい。そっくり持ってきなせえ」
「いえ、そっくりなぞ要りません。ありがとうございます。それが頂戴できますれば、あたくしもうほんとうに大助かりでございます。ェェ旦那《だア》さま、お祝いに一口差し上げたいと思いますんですが、いかがでございましょう」
「いやだよ。千両ばかり当たって、祝いだなんて……」
「また召し上がるてえと、ご気分も晴れるかと思いますが……ェェもし旦那さま、蒲団をおかぶりになって……どっちが頭だかわかりませんが……蒲団をはぎますよ。さあ、起きて……」
と、亭主が蒲団をまくると、客は草履《ぞうり》を履いて寝ていた……。
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