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落語特選26

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:反魂香《はんごんこう》陰陽というものは、なんにでもございます。人間にも陰陽があるこれは昔の譬《たとえ》ですが、俗に屈《か
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反魂香《はんごんこう》

陰陽というものは、なんにでもございます。
人間にも陰陽がある……これは昔の譬《たとえ》ですが、俗に屈《かが》み女に反り男なんて申しまして、女は常に陰の存在《もの》として、少し屈み加減、男は陽の存在《もの》として、ちょっと反り身になっているほうが形がよいとされました。最近は洋服を着るようになって、陰陽なんてものもすっかりなくなりました。
水死をすると、陰が陽に返って、陽が陰に返ると申しますが、あの、水死仏のことをどういうわけか土左衛門と言います。これは男女共に土左衛門、男はまあ土左衛門でもいいが、女で土左衛門はおかしい、お土左《どざ》とかなんとか言いそうなもので……。
この土左衛門というのは、どういう由来かと聞いてみますと、なんでも寛政のころの力士に、成田山《なりたやま》土左衛門という相撲取りがいて、この人が色が青白く、恐ろしく腹のふくれて、水死人によく似ているところから、水死人を土左衛門と言うようになったそうでございます。
そこで、女は陰の存在《もの》ですから陽に返って、必ず上を向いて流れる。男は陽の存在《もの》で陰に返りますから下を向いて流れて参ります。
ある和尚に聞きましたら、仏説では、女は罪深い存在《もの》ですから、死んでも万人に顔を晒《さら》すのだそうですが、またある人に聞きましたところ、男は睾丸《きんたま》の重みで下を向くのだという……、それじゃァ疝気持ちは底を流れそうなもんだ。じゃあ、男は睾丸の重みで下を向くのなら、女はどういうわけで上を向くンですと訊くと、女はお尻の重みで上を向くんだ、とおっしゃいましたが、女だってお尻の大きい人ばかりいるわけじゃあない……。
この陰陽は、手の掌《ひら》を返すなかにもあると申します。伏せた手が陰で、上を向けた手が陽……それですから、幽霊は陰気ですから、手を下へ向けます。上へ持ってってごろうじろ、狐拳を打つようになる、そうかといってあまり下へやると名主さまのようだ。ちょうど胸のあたりへやりまして、両手を伏せて『怨めしい』……。手をあお向けに出すと『強飯《こわめし》ィ……』、なんか貰いたそうでぐわいが悪い……。
鳴物の中にも陽気なものと、陰気なものとがあるようで、三味線は陽気、木魚は陰気、太鼓は賑やか、鐘は騒々しい……それも使いかたによって、いろいろで陽気なものが陰気にもなれば、陰気なものが陽気になります。同じ木魚でも念仏堂へ行きまして、大勢でワアワアやっておりますときは陰気どころではございません、酔ったかたなどは踊り出したりします。また三味線とても用いかたによっては、夜更けて爪弾きかなにかで、乙な文句の端唄かなんか聞いてごろうじろ、思わずほろりと来て、あんまり陽気なものじゃァございません。また鳴物の中でも半鐘というものはずいぶん喧《やかま》しいもので、どうも夜更けていくら一ッ鐘や二ッ鐘で火事は遠いといっても寝つかれません。
同じ鐘でも陰気ではありますが、夜更けて叩く看経《かんぎよう》の鉦《かね》というやつ……。
「あー、うるせえなあッ、折角、いい心持ちに寝ようと思うと、毎晩カンカン鉦を叩きやがって、畜生め。なんだろうあいつァ、長屋の者がみんな寝られやァしねえ。ついこの間、引越して来た、どこかの浪人者らしい。おれがひとつ掛け合ってやるか……おォう、ごめんねえ……おい、隣りのおじさんっ」
「はい、どなたでござるな……表の戸は開いておるでな」
「おい、ほんとうに冗談じゃァねえぜ、夜になると、カンカンカンカン、鉦ェ叩くんだからなあ」
「ほゥ、これは、これは……隣家の熊殿か。見苦しゅうはござるが、まずまずこれへお上がりなされ。夜中にわかのお越し、なんぞご用でもござるかな」
「ちえッ、いやに落着いて気取ってちゃ困るじゃァござんせんか。ほかじゃねえが、毎晩毎晩、おまはんは、いまごろになるとカンカンカンカン鉦を叩くんだい。騒々しくって長屋じゅうの者がみな寝られねえんだ。どうかそいつを止めて貰《もれ》えてえんで……たって叩かなけりゃァならねえんなら、真っ昼間、叩いてくんねえな」
「いや、これはまことに面目次第もござらぬが、わずかのことであるから、いま暫《しば》しご辛抱を願えんか。この香盒《こうごう》の中にある香を焚《た》き捨つるその間……」
「なにをしてんだい? そんなら昼間やったっていいじゃねえか、駄目なのかい?」
「いや、ごもっともでござるが、白昼にてはその効なく、また仏のためにも相成らず、いまも申し上げる通り、いま暫らくの間ご辛抱を願いたい」
「なんだかよくわからねえが、いったい、そりゃどういうわけなんで……」
「それでは、長屋の衆のご疑念をはらすために、ひと通りお話を申し上げる。某《それがし》ことは因州《いんしゆう》鳥取の藩士で島田重三郎と申す者、江戸勤番の折、ふと朋友に誘われて、かの吉原へ足踏みをいたしまして、そのころ、三浦屋の高尾という、全盛極まりなき花魁《おいらん》に初対面をいたした」
「おい、初対面をしたなんて、ずうずしいことを言やがって、三浦屋の高尾ってなあ、大名道具だ。そこへおまはんなんざァ行ったって、もてる[#「もてる」に傍点]気遣《きづけ》えねえだろう」
「それが相縁奇縁と言いますか、初会の折から、高尾が拙者にぞっこん打ち込んでな……」
「うふゥ、冗談じゃァねえぜ、黙ってりゃァいい気になって……ぞっこん打ち込んでってえのは、惚れたってえことかい? 夜中に真面目におのろけは恐れ入ったぜ。それからどうしたってんだい、なるたけお手柔かに願いますぜ」
「いかなる過世《すぐせ》の縁《えにし》やら、互いに真《まこと》をあかしあい、末は夫婦と言い交し、末の松山末かけて互いに心変らじと、拙者よりは先祖伝来の貞宗の短刀、これには千羽鶴の彫刻がしてある。高尾よりは香盒を送って寄こしたが、これには紅葉の高蒔絵《たかまきえ》が施《ほどこ》してある高価な品。中に入っておるのがこの名香、即ち魂|反《かえ》す反魂香、世にも貴き香である。それを起請代わりとせしところ、その後高尾は、仙台侯に身請けされたが、拙者に操立つるため、威勢《いせい》に従わぬ、それがために、三股川にてお手討にあいなった。儚《はかな》き最後を遂げしゆえ、拙者も不憫《ふびん》に思い、毎夜|回向《えこう》のその折にこの名香を一つずつ火中に入れて焚《た》くときは、高尾の姿が現われて、過ぎし昔を語り合う、お耳ざわりはかようなわけで、この反魂香もあとわずかゆえ、なにとぞいま暫しご容赦を、長屋の衆にもよろしくお伝えを願いたい……」
「へーえ、そうだったったんですかい。そういうこととはちっとも知らなかった。だけど、おまえさんがこの年になって、毎晩、カンカン南無阿弥陀仏……って唱《や》ったって、死んじゃった高尾にはわかンねえでしょ?」
「いや、それが、姿を現わせるのだ」
「姿を? ほんとうかい? どうして?」
「この取り交わしたる反魂香を火中にくべると……香を焚くと……その煙《けむ》の中から高尾は現われる……」
「ほんとうかい? おっかねえだろうね、斬り殺されちまったから、血だらけになって……」
「そんな姿じゃ出ない……廓にいた全盛そのままの姿……」
「そうかね。じゃ、ここで、ひとつ、その反魂香ってのをくべてみてくれ」
「いや、これはな、掛け替えない香であるから、そうむやみに焚くことはできない」
「そんな意地の悪いこと言わねえで、あっしにだけ見せておくんなさい」
「さよう申されても……しからば、疑念をはらすそのために止むを得ぬこと、一粒焚きましょう。決してご他言くださるな」
浪人は香盒の中から一粒取り出して、仏壇に向い、ちょっと回向をして香を焚くと……煙の中へ朦朧《もうろう》として高尾太夫の姿が現われて、
「そちゃ、女房、高尾じゃないか」
「おまえは、島田重三さん、取り交わせし反魂香……あまり焚いてくださんすな……香の尽きるが、この世の見おさめ……」
「わしゃ、焚くまいと思えども……隣家の熊殿の疑念をはらすそのためじゃ、許してくれ……(合掌)頓証菩提、高尾……頓証菩提、南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……」
「もういいよ、へへへ、驚いたね。あァ、おびび[#「おびび」に傍点]のびっくり、おかか[#「おかか」に傍点]の感心……おまえさんがこんな落ちぶれた境涯になっても、ああいうきれいな高尾が、『おまえは島田重三さん……』とくりゃ、もっともだもっともだ。たくさん香を焚いて逢いなせえ……おいらンところにも、おさき[#「おさき」に傍点]って、いい女房がいたんだ。なにもこれが仲人があって貰ったという仲じゃねえんだが、あっしにゃァ過ぎもんだ。このおさきてえ女は、もとはといえば、表の質屋に奉公してたんで……おいらが仕事から帰ってくると、寒中に井戸端で菜漬を洗って、手の先まっ赤にしてやがってよ、余計なお世話かも知れねえが『さぞ冷とうございましょう』って声かけてやった。すると、『どなたもそうおっしゃいますが、そんなに冷とうはありません』と平気な顔してるじゃねえか。おいらァ、これだ、と思ったね。女房の悪いのは一生の不作っていうけどねえ、寒中に水を冷てえとも思わねえ、こんな女は滅多にいるもんじゃねえ」
「いかにも、さようでございますな」
「そんなわけで夫婦《みようと》になってからの、仲の良いことといったらなかったね、いっぺん、おまはんにも見せたかったね」
「いえ、拝見せずとも結構で……」
「友だちが女郎買に誘いに来たって、くそくらえって追い返してね……ところが、いいことは長くは続かないやね、一緒になって二年とたたなかったなあ、ある日、頭が重いと寝こんで、医者に見せても何の病いかわからねえまんま、息ひきとっちまったのが三年前だ」
「いやはや、実にどうも、ご愁傷様……」
「今ごろ、くやみ言ってもらっても追っ付かねえ。それから、世話するものはあっても、かかあは持たねえ、いまだにやもめ[#「やもめ」に傍点]暮らしでいるんだよ。へへへへ、済まねえが、ひとつその香を半分ばかり分けてくれよォ。死んだものはかえって来ねえが、おれも煙の中からかかあの姿を見てえものよ」
「いや、慰みごとには焚かれません」
「慰みごとたァなんでえ。おいらだっておさきに逢いてえ気持はおんなじだ。そんな意地の悪いこといわねえで、半分おくれよ」
「これは他人の手には渡すわけにはいかん」
「いかん? じゃァ四半分……」
「いかん」
「ししし、し四半分……」
「だめだ」
「どおしてもくんねえのか……しみったれめっ……だから侍《さむれえ》はきらいなんだ、勝手にしやァがれっ」
 熊さんは夜中もかまわず、そのまま薬屋へ駆け込んで、ドンドン店の戸を叩き、
「おい、開けてくんねえ、おい、薬屋ァ、ちょっと開けねえと、ぶち壊すぞ、大変《てえへん》だ大変《てえへん》だ、大急ぎだ」
「おいおい、だれか店の者、お客さまだ。開けて上げな、薬屋というものは、どんな真夜中でも起きなくてはいけない。急病人でも出来たんだろう、起きて上げな」
店の者は不承不承に起きて、灯火《あかり》をつけ、戸をガラガラと開けると、途端に拳骨《げんこつ》がぽかりっ。
「痛っ、痛いじゃァございませんか、これはあたしの頭で」
「あッ、そうか。おめえの頭かァ、戸にしちゃいやに柔らけえと思った」
「ご冗談で、こんな柔らかい戸はありません」
「おれはまた戸が膿《う》んでるのかと思った。真っ平ごめんよ」
と、熊さんはいきなり尻をまくって、どっかと坐りこんだ。
「あの、火の中ィ入れると出るだろう」
「えェ?」
「火の中ィ入れると、こう……出るだろう」
「ああァ、花火?」
「花火じゃねえ……こう、煙が出て、煙の中から……こう、前帯を締めて、仕掛けを着て、頭がこう……立兵庫《たてひようご》ってえやつさ、簪《かんざし》ィこんなに差してやがって……長ェ煙管を……こう、こっちの手をこう懐中《ふところ》ィ入れて……反り身になって、『おまえは、島田、重三さん』ってえのをくれよ」
「へえー、なんです、それは?」
「そちゃ女房、高尾じゃァないか、とくらあ」
「へえー、妙な薬ですな、なんてえ名前のもので?」
「その名前《なめえ》は、そのなんだァ……取り交わせし……なんだっけなァ……、ェェ取り交わせし、忘れたァ」
「あァ、あなた薬の名を忘れた? お忘れになったら、これにみんな薬の名前が書いてございますから、ごらんなさい」
「あァそうかい、ェェとなんだ、実母散《じつぼさん》とさん[#「さん」に傍点]なんてえのがつくんじゃァねえ。なんでえこいつは」
「へえ、それは目の薬で、上に目が書いてございます」
「そうかその次はなんだ、清風湯妙振出《せいふうとうみようふりだ》し……そんなものじゃァねえ。なんだいこの相撲こうやく[#「こうやく」に傍点]てえのは、相撲の顔役かい?」
「いえそれは、相撲膏《すもうこう》でございます」
「ェェ伊勢《いせ》の浅間《あさま》の万金丹《まんきんたん》、越中富山《えつちゆうとやま》の反魂丹《はんごんたん》……待てよ、反魂丹?……取り交わせし反魂丹……そうだ、こいつこいつ、ばかにしやがって、こん畜生……」
「おわかりになりましたか」
「とぼけやがって、べらぼうめ。あるくせにごまかしゃァがって」
「いえ、ごまかしゃァしません」
「その反魂丹てえのをくんねえ」
「へえ、どのくらい差し上げます」
「一貫ばかりくんねえ」
「へえへえ、畏まりました」
「だいぶ急いでいらっしゃるようで、途中でお落としになるといけませんから、大きな袋へ入れてお上げ申しな」
「へえ畏まりました……ェェお待ちどおさまでございました」
「おうおう……どうも世話かけたなあ……ずいぶんあるじゃねえか、こんなに袋にいっぺえあるのに……隣のお武家は、しみったれじゃねえか。それにしても、隣の浪人はいいことを教えてくれたな、こんなこたァちっとも知らなかった。ありがてえなあ……なにしろ、あんな女房は二人といねえ。また、あのかかァがばかにおいらに惚れていやァがったからな、死ぬときにそう言ったよ。『あたしゃ、おまえさんのためにもっと尽くしたかった。それが心残りで死ぬに死ねないよ。できることなら魂だけでも、おまえさんと片時たりとも離れずに……』てなことを言やがったっけ、うふふふふ」
ワンワン ワンワン、ワンワンワン……。
「しッ、畜生、畜生っ」
熊さんは長屋へ帰って来て、火鉢の中の炭団《たどん》をほじくり出して、二つ三つ炭をつぎ足して、
「あっそうだ、隣のお武家のとこじゃ仏壇へ灯明《あかり》をつけていたっけ、一つつけるかな……よしよし、これでよし」
仏壇の前へこの火鉢を持って行くと、
「こいつァ火がおこらねえや、炭が湿《しめ》ってると見えるな、火鉢の抽斗《ひきだし》に扇子があったっけ……おっそろしく破れていやァがるな、まァ、ねえよりましだ」
と、バタバタバタ火をおこし、
「ありがてえな、三年|前《めえ》に別れたかかあに会えるのだァ。この薬を焚いたら、煙の中にすーっと女房が出てきて、なんてえ言うだろうな。うれしそうにおれの顔を見て、にこっと笑うだろうなあ。おれはそうなると気取るね。……『そちゃ女房おさきじゃァねえか』『おまえはやもめ[#「やもめ」に傍点]の熊さん……』とくらァ、ありがてえ、うふゥ……だいぶ火がおこってきたな。どうだ……ひとつくべてみるか……」
火の中へ薬を放り込んで、扇子でせっせと扇いだが、煙ばかりで音沙汰なし……。
「おや、こいつァ変だぞ。隣の浪人とこの煙はもっと白かったがなあ、やけに黒いじゃねえか、こっちは。まあいいや、はじめてだから少しじゃ利かねえかな、奮発して、半分ぶち込め……そうだ、鉦を叩くのを忘れてたよ」
仏壇の下から鉦を取り出し、カンカンカン、薬も半分ばかり火の中に入れると、黒煙はもうもうと立ちのぼった。
「かかァのやつ、早く出て来いったって、こいつはいきなり無理な話だあ、十万億土って遠いとっから出て来るんだ、三年ぶりに会うんだから、かかァのほうだって仕度に手間がかかるよ。顔を洗って、鼻の頭かなんかィ白粉《おしろい》をこう塗《なす》ってね。口ィ紅かなんかくっつけちまやがってね。縫い直しでもなんでも、半纏《はんてん》のちょいと仕立て直しンなった乙なものを着て、それから来《こ》ようってんだな。無理はねえ。……じゃあ、もうひとっくべ……くべて……どうだ……いねえや、出て来ねえや……出て来ねえけれども、家《うち》のかかァってえのがそそっかしいところもあるからね。ことによると、後ろに立ってやしねえか?……おれァいやだよ……おい、ねえ、そうなってくるとおれァ驚くよ……(きょろきょろ見まわし)後ろにはいねえようだな。……それでは、もうひとくべ……どうだ、このくれえくべたらいいだろう? これで出て来いよ、……はァはァ、出て来ない? こりゃどういうことになってやがんだろうねえ。隣の浪人ンところはこんなにくべねえうちに、朦朧《もうろう》と出て来たんだがなあ……早くしねえと夜が明けちゃうよ……ェェじれってえ、こうなったら面倒臭えから、みんな入れちまえ……袋ごと放り込んじまえ……」
袋ごと放り込んで、バタバタ扇いだから、家中黒煙に包まれた。
「こりゃァけむい、けむい。ゴホンゴホン、あァ苦しいったまらねえ、早く出てくんなくちゃ困るよ。早く出ろっ……ゴホン、ゴホン、こう煙くっちゃァ出て来てもわかりゃァしねえ、……ゴホン、ゴホン……出て来るまで、こっちのいのちが持たねえぞ」
「熊さん、熊さん」
「おやおいでなすったよ。うふゥふ、煙の中から出ねえで、表から来やがった。うふっ、気取ってやがらァ」
熊さん、立ち上がって、表の戸をガラリ、
「そちゃ、女房おさきじゃァないか……おや、だれもいねえじゃねえか」
すると裏口でドンドン……。
「熊さん、熊さん」
「あん畜生っ、表じゃァ目立つてんで、こんどは裏口へ回ったな」
裏口へ行って、戸をガラリと開けて、
「そちゃ女房おさきじゃないか……」
「なに言ってんだよ、あたしゃ隣のおたねだよ」
「おさき[#「おさき」に傍点]はどうした?」
「おまえのとこの煙のせいで、長屋はおさき[#「おさき」に傍点]まっ暗だよ」
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